BOOK

□ヌナの事情
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「ヌナ〜何か食べさせて!!」

チャンソンのいつもの台詞

そう言って大きな瞳で見つめては私を意のままに操る憎い瞳


「ヌナ…?どうかした?」


大きな身体をかがめて私の顔を覗きこむ


「んーん、何でもないよ
何かリクエストある?」


私は小さくため息をつくとエプロンを手にした


「後ろ結んであげる」


そう言ってふいに私の後ろに回るとチャンソンのにおいが全身を包んで私の心をかき乱す


「いいって…!」

「じっとしてて…」


私の肩をつかんでとどまらせると後ろからチャンソンの吐息を感じて胸が苦しくなった


「はい、出来たよ!」


肩をつかんでくるりと私の身体を反転させるとチャンソンはにっこりと微笑んだ



ずるい

こんなのずるすぎるでしょ…?

ドキドキするのは私ばっかりで

胸が苦しくなるのは私だけなんて


こんなのひどすぎる


「オムライスでいい?」


なんとか平静を装って笑顔を作っても指が震えてる


甘え上手なチャンソンからしてみたら私はただのヌナでしかなくても

私はチャンソンを弟だなんて思った事一度もないよ


始めはヌナって呼んでくれるのがくすぐったくて恥ずかしくて

でも慕ってくれてるんだって思うとすごく嬉しかったんだ


でも……


「手伝うよ!」


私の隣に立って楽しそうに腕まくりしている


「立派な腕、怪我でもしたら大変でしょ!」


そう言ってチャンソンをキッチンから追いやった


「なんか今日のヌナ、ご機嫌ナナメ…?」

身体をかがめて私に顔を近づけると大きな瞳で上目遣いに見つめた


だからそれがずるいっていうの!!

私は胸のドキドキが今にもばれてしまいそうで怖かった


「そんなんじゃないよ…
すぐ出来るからあっちで待ってて」


少しぶっきらぼうに私が言うとチャンソンは


「おこりんぼヌナ〜!!」


そう言って私を茶化した


分かってる

チャンソンにやつあたりしたって仕方ないって事くらい


でも

それでも私の心はもう限界だよ…


「熱っ……!!」


ぼうっとしていた私はフライパンに手を当ててしまって思わず声をあげてしまった


「ヌナ大丈夫っ!?」


チャンソンは血相を変えて駆け寄るとやけどした私の手をつかんだ


「大丈夫、これくらい…!」


私はチャンソンの手を振り払った


「何強がってんの!
こんなに赤く腫れてるのに…!」


そう言ってもう一度強引に私の手をつかむとチャンソンの手と一緒に水で冷やす


じんじんと痛みを増す指先とチャンソンにつかまれている手首が熱い

私をつかむチャンソンの手を伝って好きって気持ちが流れてしまいそうで怖い


「ほんとに今日のヌナ変だよ…?
何かあったの…?」


ずっと私の手を離さずに心配そうに瞳を揺らした


その優しさも嫌い

きっと他の女の子達にも同じように優しくしてるんでしょ…?


じゃあ、私は…?

チャンソンにとって私は

私は一体何なの…?


「ヌナ…?」



「…もうヌナって呼ばないで」


チャンソンが目を丸くしてくいいるように私を見つめる


私はバカだ

こんな事言って困るのは自分なのに

ヌナっていう居場所さえなくなってしまったら

チャンソンのそばにさえいられなくなってしまうかもしれないのに…
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