BOOK

□理由
1ページ/2ページ



「じやーんけんぽんっ!」


やったっ!!
私は思わず小さくガッツポーズをしてしまった


「じゃあ、買出し係は名無しさんとジュノね」


宿舎で家飲みをしていた私達はお酒が切れたので買い物に行く人をじゃんけんで決めることになったのだった

密かにジュノに片想いしている私には思ってもみないチャンスだ



「うわ、俺ってこういう時に限って負けるんだよな…」


ジュノは重い腰を持ち上げ背伸びをした


「しょーがない…名無しさん行こっか」


私はうきうきして玄関へと急ぐ


「ちょっと待ってて」


ジュノはそう言って一度部屋の中へと入っていった


「あれ…?ジュノは?」


少しして私の前にやって来たのはジュノではなくチャンソン


「んー、なんかおなか痛いって」

「え…大丈夫…?」


急いで部屋に戻ろうとするとチャンソンが私の腕をつかむ


「代わりに行って来てって」


そう言って私の腕を強引に引っ張って外へと連れ出した


「チャンソン痛いってば!もう、ばか力なんだから…」


少し大げさに腕をさすっているとチャンソンの大きな手が私の頭を撫でた


「ごめんごめん」


そう言って笑うチャンソンの眼差しはお酒が入っているせいか今日はいつにも増して色っぽい

思わずその瞳に見入ってドキッとしてしまったなんてチャンソンには死んでもばれたくない


「もー腕が痛いから帰りの荷物は全部チャンソンが持ってね!」


私は無理して早歩きしてチャンソンの少し前を歩く


「はいはい…名無しさんヌナの言うとおりにします…!」


そう言うと私が頑張って空けた距離をチャンソンはあっという間に縮めて私の隣に並ぶ


はあ…なんでチャンソンと二人きりで歩いてるんだろう

本当は隣にいるのは大好きなジュノだったはずなのに…

思わずため息が漏れる


「ジュノじゃなくてがっかりした…?」


不意にそう言われて私は言葉を失う


「ジュノが好きなんでしょ」


「何急に…!変なこと言わないでよ」


明らかに動揺している私を見つめてチャンソンが笑った


「名無しさんヌナは分かりやすいんだから隠しても無駄だよ?」


チャンソンのまっすぐな瞳に見入られて私はため息をついて観念した


「ジュノのどこが好きなの…?」


私はなんと答えようか考えて少し間を置いてから答えた


「優しいところ」

「後は?」

「誠実なところ」

「後は?」

「男らしいところ」

「後は?」

「天使の笑顔!」

「後は…?」

「まだまだいっぱいあるけど…」


私はジュノの事を思い浮かべていた

いつもまぶしくてキラキラ輝いて

私にはもったいないくらいの男の子


「へー、まるで王子様だね」


そう言ってチャンソンは笑った


「何よ…?いけない…?」


私はチャンソンの笑いが気に食わなくて少し語気を荒げた


「いや、別にいいけどさ」


そう言うとチャンソンは歩みを止めた


「でも本当に好きになるのに理由なんていらないはずだ…

俺が名無しさんを好きな事に理由がいらないみたいに…!」


そう言って真剣な眼差しで見つめるチャンソンの瞳がいたずらに私の心を激しく揺さぶる


「冗談が過ぎるよ…?もしかして罰ゲームでもやらされてるんでしょ…?」


私はまた早足になってチャンソンの前を歩く


こんなの真に受けてたら心臓が持たない

それにチャンソンは女の子なんて困ってないはずだ


「今のは忘れてあげるから、もう二度と私をからかわないで」


ますます早歩きになる私の腕をチャンソンは後ろから思い切り引っ張った

反転させられた私の身体は勢い余ってチャンソンの胸に抱きとめられてしまう


「俺の言葉は信じられない…?」


ぎゅっと私を抱きしめるチャンソンの鼓動が痛い位に胸を突き刺す


「ジュノの言葉なら 信じる」


そう言ってチャンソンの腕を振り払った


「チャンソンの言葉は…信じられない」


私はチャンソンの瞳をまっすぐに見つめ言った


本当は痛い位に胸がうるさく鳴ってる

だけどチャンソンは違う
この胸のドキドキは恋なんかじゃない

チャンソンに恋するはずない

だってチャンソンはジュノと全然違う

チャンソンはジュノみたいに誠実じゃない
チャンソンはジュノみたいに優しくない



それなのに

ただまっすぐに私を見つめるチャンソンの眼差しが痛いほど胸を刺すのは

どうして…?
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ