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□第一ボタンの主
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「名無しさんっ…!!」


突然玄関の扉が開かれるとチャンソンが私めがけて駆け寄って来た


「ビックリした…!!
随分早かったね…?」


チャンソンは息を切らしながら私にすごい勢いで抱きついた


「そんなに急ぐ事ないのに…!」


そう言ってチャンソンの肩をポンポンしながらも私は幸せに満たされる


「だって一秒でも早く会いたかったから」


そう言ってぎゅうっと私を抱きしめるチャンソンは

世界で一番愛おしい私の末っ子


「名無しさんも早く会いたかったでしょ…?」


甘い吐息と共に大好きなチャンソンの声が身体中に沁み渡る


「子供じゃないんだから…」


少し顔を背けながら私は呟いた


「ほんと名無しさんは素直じゃないね…こんなにニヤニヤしてるのにまだとぼけるつもり?」

チャンソンは私のほっぺをつんつんしながら口を尖らせた


何も言えなくなった私はチャンソンのほっぺを両手で挟んで


「ブサイクにしてやるっ!!」


そう言って思いきり両手で挟んでやったのに

全然かわいいって

どういう事?


「名無しさんはいつでも可愛いよ?」


真面目な顔してそう言うと私をまっすぐ見つめてにっこりと微笑んだ

その瞬間、私は軽くめまいを起こした


ねえ、チャンソン…?

チャンソンの笑顔はまぶしすぎるの


チャンソンの笑顔はいつだって私の味方で

いつも私に元気をくれる


でもそれはきっと私だけじゃなくて

チャンソンを大好きなみんなもきっと同じで


だから

この無邪気な笑顔も

まっすぐな瞳も


私だけのものじゃない


そんな事分かりきってるけど

そんなの覚悟の上だったけど


チャンソンの突然の不意打ちに閉じ込めておいた心の鍵が開いてしまう


「名無しさん…?」


チャンソンは私のほんの少しの表情の変化も声の翳りも一瞬で見抜いてしまう

だから良くも悪くもチャンソンには絶対に嘘はつけないんだ


「ちゃんと…約束守ってるんだね…」


シャツの襟元に視線を落としたまま私は言った

ぴったりと閉じられたチャンソンのシャツの第一ボタンにゆっくりと手を伸ばす

するとボタンは、はらりと音もなくこぼれ落ちた


「ボタン取れかかってたんだね」


チャンソンは床に落ちたボタンを少し探してから拾うと私に見せた


「良かった…どこかで落とさないで」


チャンソンはホッとしたような顔で小さく呟いた


私は再びチャンソンのシャツに手をかけると何も言わずに第二ボタンをゆっくりと外した


「名無しさん…?」


チャンソンは少し驚きながら私を静かに見つめていた


「ボタンつけてあげるから…」


震える指でゆっくりとボタンを外すと少しずつチャンソンの白い素肌が露になって私の胸を騒がしくする


最後のボタンを外し終わるまでチャンソンは何も言わずに私に身を委ねていた

見慣れてるはずのチャンソンの素肌が今日はやけに艶かしく映って見える


「すぐ終わるから」


軽く深呼吸して気持ちを静めてから私は椅子に座った


そんな私をじっとみつめると静かに横に座った


「みんな不思議に思ってるでしょう…?」


私は視線を下に向けたまま針を進める


「え…?」

「だって」


必死に私からの答えを探し出すように見つめるチャンソンの視線を絡め取るとチャンソンの艶やかでなめらかな肌にそっと触れた


もう

こらえていた気持ちを押し込めておけない

チャンソンを独り占めしたい

私のわがままな願い


もう…


隠せない
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