BOOK

□君のいる世界
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予感がしてた

今日は彼がやってくるんじゃないかって

私は何の取り柄もないけど勘だけはいいんだ

もうすぐ来る
そして家のベルが鳴るんだ

ずっと待ち続けてたその音がもうすぐ聞こえるんだ

はやる気持ちを抑えながらベッドから抜け出しつま先立ちでキッチンへと向かう

時計の針はもう午前二時を過ぎてる
吐き出す息は白く、指先はあっと言う間に冷たくなる

私はストールを掛け直しながらお湯を沸かす支度を始めた

冷え切った身体でやって来る彼に熱いコーヒーを淹れてあげたい



予想していたはずのベルに思わず驚いてしまった私の心臓が小さく高鳴る


「チャンソン…?」


玄関のドアの前に駆け寄ってそっと声をかけた


「開けて」


少しそっけない声でつぶやくチャンソンの声を聞くだけで胸が張り裂けそうになる

私はかじかむ手で急いでドアを開けた


「寒かったでしょ?」


鼻先を赤く染めたチャンソンは私をじっと見つめていた


「今コーヒー淹れるね」


するとチャンソンはキッチンへと向かう私の腕を黙ったまま強引につかんだ


「要らない」


またもそっけなく一言だけそう言うとつかんだ腕を強く引き寄せて私を抱きしめた

冷たいチャンソンの手の平が私の頬を包むと今度は反対に熱いぬくもりで唇を灼かれる


「んっ・・んっ・・・!!」


チャンソンは呼吸のタイミングに合わせながら少しずつ私の息と心を乱していく

もうそれだけで私の身体は熱く疼き出す


ろくに挨拶もなしで突然こんな事をするなんてほんとは私の本意じゃない

いつもチャンソンの強引なペースに何も言い返す事が出来ない


まなざしひとつで私はあなたの言いなりで

指先ひとつで私はあなたの望むがまま


ほら、だからいつだってそうやって強気な態度で私を弄ぶのね



「待ってたの・・?」


ぬくもりを取り戻したチャンソンの指先が私の胸先を何度も弄ぶ

その度に身体は激しく揺さぶられて、気が遠のきそうになる


勢い良く吹き上がるポットの湯気をちらりと見るとチャンソンは私の反応を待った


「待って・・ない・・」


息も絶え絶えにそう言うとチャンソンは意地悪に微笑んだ



「素直じゃない子はいい事してあげないよ・・?

言ってごらん・・・ほら・・?」


そう言うと指先を軽くひねって私の反応を楽しむ

チャンソンはいつもこうやって優しい口調で私をいじめる


私が一番欲しい言葉をくれないくせに

私を一番にしてくれないくせに


それなのに

どうして私はあなたのいいなりになってしまうの・・・?


「待ってた・・!ずっと待ってたのっ・・!!」


たまらずにそう吐き出すとチャンソンは満足げな笑みで私を見おろした


「いい子だね・・素直な名無しさんが一番可愛い・・」


その言葉を聞くだけでその瞳に見つめられるだけで自分が女であることを嫌と言うほど思い知る

拒みたくても何度頭の中で否定しても結局は素直に受け入れてしまうのだから私の頭なんてチャンソンの前では何の役にも立たない


「ほんと、素直・・!」


チャンソンは私の震える肩に軽く唇を押し当てるともう一度唇を深く重ねた

深く重なるたびにチャンソンのひげに当たってチクチクする


「ひげ…」

「嫌・・?」


唇を離してちょっとけげんそうに私を見た


「ううん、全然・・むしろ・・」


そう言いかけたところでチャンソンが私の脚を強引に開く


「むしろ・・何・・?」


いじわるな瞳で私を射抜くとまたこうやってわたしをいじめる


「こんな格好いや・・」


恥ずかしくて必死に脚を閉じようとしてもチャンソンはそれを許さない


「質問に答えて」


チャンソンは私の顔にかかる乱れた髪の毛をゆっくりと優しくかきあげて覗き込むように見つめた

それだけでもう逆らう気力なんて全部吸い取られてしまう


「男らしくて…いい」


そう言ってチャンソンのあごにそっと指を滑らせた

チャンソンの舌がはだけた胸元へと滑り落ちる

無我夢中でチャンソンのしなやかな身体にしがみついて快感に身を委ねた

身体中が歓びで震えてチャンソンが与えてくれる快感になす術もなく頭の中が真っ白になる


今日も私の心と身体はチャンソンに支配される

同じ事の繰り返しだと分かっていても決して逃れる事など出来ない夜

決して抗う事など出来るはずがない


チャンソンに支配されたこの世で一番幸せで一番切ない夜になると分かっていても…
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