BOOK

□彼
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愛に順番なんて関係ないと人は言う

けど名無しさんを好きになったのは僕が先だったんだ


いつまでも気持ちを伝えられないまま時は過ぎ、いつしか名無しさんはチャンソンの彼女になった


それでも僕は良かった
そばで名無しさんの笑顔が見られるだけで十分だったから


「何か手伝うよ?」


名無しさんが隣に立って僕を覗き込む

一瞬顔が近づいて僕はドキッとした


「もうすぐ出来るから大丈夫だよ」


そう言うと名無しさんは優しく微笑んだ


半年前、名無しさんはチャンソンと別れた

その後名無しさんのあまりの落ち込みように耐えられなくなった僕は思い切って気持ちを打ち明けた


僕が名無しさんの傷を癒やしてあげる

チャンソンの事を忘れられなくても構わないから僕を見て、と


そして僕達は付き合うようになった

もうすぐ100日記念日

名無しさんは覚えているだろうか…?


「美味しそう!!」


そう言って名無しさんが無邪気な笑顔を僕に向けた

名無しさんのすべてが眩しくて大切で僕の胸を焦がす

この気持ち、名無しさんも同じだよね…?


「ニックンは本当に料理が上手だね!
ニックンの奥さんになる人が羨ましい…!」

「名無しさんさえ良ければいつだって作ってあげるよ…?」


僕がそう言うと名無しさんは“私なんかもったいないよ”そう言って笑った


「後片付けは私がやるね」


そう言って食後のコーヒーを出してくれた

キッチンからは水の流れる音と食器の音が重なって心地良く響いている


「名無しさん…」


僕は洗いものをしている名無しさんの背中をぎゅっと抱きしめた


「ニックンどうしたの…?泡ついちゃうよ…?」

僕は黙ったまま名無しさんの唇を奪った

少し驚いたような仕草をしてから名無しさんはそっと僕に身を委ねた

水の流れる音が僕達の漏れ出る音をかき消す


「ニックン…?」


唇を離すと名無しさんが僕をまっすぐに見つめた


「名無しさんが欲しいよ…!」


すると名無しさんは恥ずかしそうに小さく頷くと僕の胸に寄り添った


僕は頭のてっぺんからつま先まで痺れる位に胸がいっぱいになった


「名無しさん、本当にいいの…?」


思わず聞き返してしまった僕を名無しさんは優しく抱きしめた


「どうしてそんな事言うの…?私はニックンの彼女だよ?」


そう言って背伸びをして僕にそっとキスした

僕はあたたかい名無しさんの身体を抱きしめると深く唇を重ね合わせた……
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