BOOK

□理由
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「どうして俺の言葉は信じられないの…?」


チャンソンは私を見つめ悲しそうに瞳を揺らした


そんな悲しそうな顔したって私は騙されない

どの子にもきっとそんな顔してスキをつくんでしょ…?


「自分自身に聞いてみたら…?」


私はそう言い放った


どうしてこんなにイライラするのか

チャンソンがどんな風に女の子と付き合っていたって私には関係ない

なのにますます心がざわざわする


「名無しさん…何か怒ってる…?」

「どうして私が…?
私はただチャンソンの暇つぶしにされたくないだけ…!」


こんなみじめな自分消えてなくなればいい

その位今の私は情けなかった


「危ない…!」


私のすぐ横を自転車が通り抜けていくとチャンソンは私を抱き寄せ車道から遠ざけた

チャンソンの熱い体温が私の心をかき乱す


「私の事は放っておいて」


チャンソンから強引に離れるとやっと呼吸が出来た


「名無しさん…もしかして俺が怖いの…?

それとも…俺を深く知るのが怖い…?」


チャンソンはくい入るように私を見つめるとそっと手を伸ばして私の頬に触れた

その瞬間胸のざわざわがすうっと消えて胸が熱く高鳴る自分を知った

チャンソンに満たされている自分に気付いた瞬間だった


「怖いよ…!
チャンソンが怖い…」


そう

きっととっくに気付いていた

チャンソンという大きな波に飲み込まれたら

きっと溺れてしまう

そしてもう戻れなくなると知っていたから


「それでも…俺をもっと深く知って…?」


チャンソンの眼差しが私を熱くさせる

それでも踏み切れないのは自分が自分でなくなってしまいそうで怖いから


「怖いよ…」


絞り出すように小さく呟く

チャンソンはそんな私を見て小さく笑った


「怖さを克服するには…その怖いものの中に思い切って飛び込んでみるのがいいって知ってる…?

ほら、こんな風に…」


そう言ってチャンソンは私をきつく抱きしめた

不安も恐れも打ち消す程の高揚感が私の心を満たす


「もし…私の事泣かせたらすぐにジュノの所に行くからね」

「分かってる…大切にするよ」


チャンソンは私の頭をそっと撫でると優しく微笑んだ


「だったら…今すぐ携帯の女の子達のメモリー全部消せる…?」


私は少し意地悪してしまった

本当にそんな事してほしいなんて思ってないけどチャンソンの本気を知りたかった


「いいよ」


チャンソンは一瞬驚いた顔をしたけれどすぐに返事をした

何のためらいもなく携帯を取り出すと淡々とキーを操作し始める


「ちょっ、ちょっと待ってっ!!」


私は慌ててチャンソンの携帯を取り上げた


「ほ、本当にやらなくてもいいってば…!」


私は心臓がドキドキしてしまった

まさか本当にやろうとするなんて思わなかった


「別に俺は全然構わないけど?」


そう言って不敵な笑みを浮かべて私を見つめた


「いいってば、もう…!」


なんだかつまらない

ジタバタしてるチャンソンにほーらやっぱりね、なんて悪態つきたかったのに…

私は思わずジロリとチャンソンを睨む

チャンソンはそんな私を力強く抱き寄せると耳元で囁いた


「俺を試すなよ…!

そんな事しなくても名無しさんへの愛を証明してみせるから…!」


次の瞬間私はチャンソンに激しく唇を奪われた

チャンソンの情熱にのみ込まれそうな程の熱い口づけが私を溶かす


「んっ…んん…!!」


漏れ出る声さえも唇でふさぐキス

一瞬も離すまいと激しく絡め合う舌

こんなにも私を恍惚とさせる愛を

こんなにも甘く淫靡な愛を

手放せるはずなんてない


「もう後には退けないよ…?」


チャンソンが妖艶な眼差しで私を誘う



分かってるよ


何も恐れる事はない

自分の気持ちを信じて進んでいけばいい


なぜなら

愛に理由なんていらないと教えてくれたのはあなたなのだから…



〜END〜
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