BOOK

□僕だけのもの
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「ビックリした…?」


名無しさんはいたずらっぽく笑うと僕の頬にそっと触れた


「どうしても会いたかったの」


突然の訪問に僕の胸は一気に熱く高鳴る


「ばんそうこう貼りに来たの」


「えっ・・・?」


意味がわからない僕はじっと名無しさんを見つめた


「だって怪我したんでしょ・・?」


確かに今日僕は仕事中に失敗してしまった

大勢の人の前で派手にミスって恥ずかしい思いをしてしまった

その時確かにちょっと怪我したけど・・・

その時の事、誰かに聞いたのかな


「大げさだよ、全然大した事ないよ」


僕はちょっと大げさに笑って見せた


「いいから見せなさい」


そう言って僕のTシャツの裾をまくった


「ちょっ…大丈夫だって…!」


僕は思わず身体をひねって急いで裾を引っ張った

そんな僕を見て名無しさんはクスクスと笑い出す


「なんで恥ずかしがるの?」


そう言ってTシャツの中へ手を忍ばせるとそっと僕の背中に触れた

名無しさんの少しひんやりとした手の感触がますます僕を熱くさせる


「…大丈夫そうね」

「だから大した事ないって…」


「じゃあ…次はこっち…」

「え…?」


次の瞬間、僕は柔らかな名無しさんに包まれて思わず息をのんだ


「私がばんそうこうの代わりだよ」


そう言うと僕の頭を優しく撫でてもう一度強く抱きしめた

ただ名無しさんの甘い香りに身を委ねているだけなのにどうして僕はこんなにも満たされてしまうのだろう

聞かなくたって分かる

きっと名無しさんは今日失敗した僕を心配して来てくれたんだ


「名無しさん…」


僕がそう言うと名無しさんは熱く潤んだ瞳で僕を見つめた


「チャンソンの傷を癒せるのは…私だけだよ…?」


ふわりと微笑むと名無しさんは熱く火照った唇を僕に重ねた


「ここも…私だけのもの…」


離した僕の唇を惜しむ様に愛おしそうに指でなぞる


「ここも…ここも…全部…私が直してあげる…
これからも、ずっと…」


唇から首筋、胸に滑らせた指を追いかるように名無しさんの熱い唇が僕の肌をなぞる


「そうでしょ…?」


僕の鼓動を確かめる様に胸に頬を寄せると名無しさんは小さく呟いた


いつも

僕の味方でいてくれる事

僕を優しく見つめるその瞳に救われてる事

ありのままの僕を愛してくれてる事


全部夢のように眩しくて

名無しさんに出会えた事が奇跡みたいで


それなのに


「愛してる…名無しさん」


こんなありきたりな台詞しか思いつかない自分に腹が立つ


「傷…もう痛くない…?」


見上げた名無しさんの瞳が眩しくて愛しさがこみ上げる


「うん、でも…ずっとこうしていたい」


僕を優しく包みこむ名無しさんの小さい身体を確かめるように僕は強く引き寄せ抱きしめた


「私もだよ・・・」


そう言って僕らは笑い合った


ほら

気が付けば僕の心はいつの間にかぬくもりを取り戻してる

気が付けば僕はいつのまにか笑顔を取り戻してる



だから

たくさんの羽根で作られた毛布みたいな名無しさんの心は僕だけのもの

僕だけを癒して包んでくれる僕だけの名無しさん


ずっとずっと僕だけの優しいぬくもり…




〜END〜
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