恋すてふ♪
□四.転機〜託した想い〜
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――加子は、迷っていた。
飛脚問屋の前で、悩みに悩んでいた。手元にあるのは、辞退届と作品。親は見ていない。
こっそり出してしまおうか、と迷った。
しかし、もし両親に見つかったらという思いが加子の手を自然と「辞退届」の方へ向けていた。
「出すしか、ないよね……」
意を決して、足を踏み出そうとした。その時である。
加子を呼び止めた者がいた。
その顔を見て、加子は目を見張った。
「原田さん……」
帰ったのではないのか。もう二度と会うことはないと、思っていた。
「それ」
「……すみません」
加子は素直に話した。徹夜して、寝過ごしてしまい約束を破ってしまったと。
ごめんなさい、と頭を下げる加子。原田はきっと怒っている。そう思った。
しかし、当の原田は怒ってはいなかった。
加子の、肩を優しく叩き顔を上げさせる。
「本当に、寝過ごしただけなんだな?」
「……はい。申し訳ありません」
「いや。親に見つかったんじゃねぇかって、心配したんだぜ」
そう微笑む原田に、不覚にも胸がきゅっとなる。
「お、怒ってないんですかっ」
「怒ってるわけねぇだろ。結局、出すか出さないかはお前次第。出すって言ったお前が、約束を破るなんて相当のことじゃねぇとないだろうからな」
どうしてここまで自分を信じてくれるのか。会って数日しか経ってないのに、なぜ。
加子は、原田を見つめた。
ふと目が合う。思わず視線を逸らした。
「それ」
「え?」
「燃やそうぜ」
原田が指したのは、辞退の文だった。
「目の前で燃やした方が、吹っ切れるだろ」
それから話し合った結果、その文を浜辺で燃やすことにした。