恋すてふ♪

□十三.夜の都
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振り返ることも出来ない。
かといって、背を向けていると斬られるかもしれない。

どうすれば良いのか、加子は分からなかった。
そしてもう一度、高笑い。加子はきつく目を瞑った。

その時だった。誰かが加子の目を手で覆い引っ張ったのは。


「っ!」


心臓が跳ね上がった。引きずられる感覚と共に耳にしたのは、刀のぶつかり合う音であった。


「やっ……!」


暴れ出す加子を、誰かは強い力で制止する。


「や、だっ……!」


何をされるのか――もはや混乱状態の加子であったが、次に聞こえた「動くなよ」という声に動きを止めた。

それは、聞き間違えるはずもない。


「原田、さん?」


目を解放され、振り返り見上げる。薄暗いがはっきりと見て取れた。


「あぁ。驚かせてすまねぇな」

「あの、一体何が……」

「……何も聞くな。見るな。しばらくじっとしてな」


優しい口調で制され、顔を掴まれた加子は強制的に原田の顔を見上げさせられた。


「俺を見てろ」

「!?」


その言葉は、一瞬にして加子の耳に周りの刀音を聞こえなくした。

胸の鼓動を誤魔化すように、顔を逸らそうとしたが原田がそれを許さない。


(どうかっ、顔が赤いのが知られませんようにっ……)


顔面が真夏の陽を浴びるように熱い。


「ぅ……ぁの……」

「今日は何してた?」

「ぇっと……お使いして……」

「また迷ったのか?」

「ぅ、はぃ……」

「しょうがねぇな。俺がまた送ってやるから」

「ぁ、ありがとうございます……」
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