恋すてふ♪

□十三.夜の都
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加子が原田と再会して、幾日か経った。あれから一度も原田とは会えていない。両親は旅館の勉強に忙しく、加子もその手伝いとして簡単な仕事を熟していた。

ある日、加子はいつものようにお使いを頼まれた。しかし、無事に辿り着いたものの今度は帰り道が分からなくなってしまった。
来た道を戻ったのだが、どの道を曲がったら良いのか――さっぱりであった。

そうしているうちに日が暮れ、とうとう夜になる始末。
昼間は賑わう京も、夜になるとその面影すら感じない静けさ。不思議な感覚に襲われるが、どうにも怖い。

加子は急ぎ足で道を歩いた。

が、やはり今歩いてる道がどこか分からない。行きの道より、帰りの道の方が長く歩いている。もしかしたら、全然違うところにいるのではないか。
そう思い始め、いよいよ恐ろしさは増した。


その時であった。
加子の背後で何か音が鳴った。思わず肩を震わせ、足を止める。
音は桶が動く音のようだった。桶と言えば、屋根の下にある天水桶。積み上げた桶が鳴るのはただ一つ。

誰かがいる――。

風なんかじゃない。加子の頭には「夜=辻斬り」ということが真っ先に浮かんだ。
振り返ることも怖く、咄嗟に走る。

気配が同時に走り出す。
加子は京の地形を利用し、物陰に隠れた。

そして辺り一面に、高音の笑い声が響いたのだ。背筋が凍るようなおぞましさ。気持ち悪さと同時に、不安が一気に湧き上がってくる。

じっと身を潜めていると、辺りは静かになった。


(大丈夫……かな?)


ゆっくりと、瞑っていた目を開けて様子を窺う。少しだけ身を乗り出し、物陰から通りを見た。

誰もいない。

ほっと胸を撫で下ろした加子は、辺りを警戒しながらも姿を出す。
そして再び歩き出そうとした、その瞬間――


「キャァアアアー!!」


後ろで、あの恐怖の声がした。
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