恋すてふ♪
□十四.炎のように熱く
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「好きだ」
「え?」
右頬に触れていた指が、そのまま首に下りた。
「――ったく、俺がこんなに夢中にさせられるなんてよ」
「原田さん……?」
「耐えようとしたんだがな……お前が俺を見るから無理だった」
そう言うと、原田は右手で加子の顎を持ち上げた。
「もう、離したくねぇ」
再び唇が合わさった。
「ん……原田さん」
「そんな声で呼ぶな。帰らせたくなくなるだろうが」
「っ」
何度も離れてはくっつく。二人の間は熱く、加子の胸は高鳴る。頭がボーっとし、空気を吸うことを求めていた。
それでも、原田は止めない。
ついに加子は原田の胸を押し返した。
「原田さん、苦しいですっ」
息を切らせながらそう告げると、原田は小さく謝った。
「何で……」
「何でって……話、聞いてたか?」
原田は苦笑したが、直ぐに
「俺は加子が好きだ」
真剣な声色で言った。そして加子を強く抱きしめた。
「……原田さんは、強引ですね。人の気持ちも無視して、こんな」
「それ位、好きなんだ。それに、お前だって嫌なら抵抗するだろ?」
図星だった。
そして原田も同じ気持ちだったことに、胸の奥が満たされていく気がした。
「――私も、好きです」
加子は、緊張で声を震わせて自分の想いを伝えた。
原田はその答えに満足したのか、口元に笑みを浮かべ加子にまた顔を近付ける。
が――
「ちょっと、待って下さい」
「ん?」
「私、さっきのが初めてだったので……その……どうやって応えたら良いのか、分からないです」
目を伏せる加子に、原田は微笑んで唇を寄せた。
「俺に任せとけ」
ただそう言って深く、熱く、それでいて優しい口付けを加子に浴びせた。
加子は、原田に全てを委ねされるがまま。
「加子……」
もはや、理性が吹っ飛びそうになっている原田。色気を含んだ声で名前を呼んだ、その時だった。
――ゴーン
「……」
「……」
遠くで寺の鐘が鳴ったのだ。二人の間に、何とも言えない空気が流れる。
(本当は限界なんだが……)
新選組には門限がある。それを破ると、切腹。今の鐘は、門限の半刻程前に鳴るものだった。永倉や藤堂と一緒に外出(主に島原)すると、つい時間を忘れてしまうのでこの鐘が帰る合図でもあった。鐘の音を聞いて帰らないと、門限に間に合わなくなってしまう。
幸い、ここは島原ではない。
しかし、加子を送ってそれから屯所に帰るということを考えると、無視できない刻限だ。
原田は名残惜しさを感じながらも、加子の体を離した。
「送っていく」
手を引き、物陰から出ると今度こそ真っ直ぐ加子を送り届けたのであった。
『炎のように熱く』END
2014年6月6日