恋すてふ♪
□十七.てふの幸せ
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男たちは足を止めて振り返る。
「あ? 俺達?」
「てめぇら以外に誰がいるんだ。嫌がってる女を無理矢理連れて行こうとするなんて、馬鹿がやることだぜ」
「ぁあ!? 何だと!?」
加子の腕を掴んでいた男が、漸く手を離しもう一人の男と立ち並ぶ。助け舟を出した男と対峙するが、加子には見えない。二人の軟派男の背で隠れているのだ。
「てめぇには関係ねぇだろ!」
「そうだぜ? それとも、困ってるやつは放っておけない、良い子ちゃんか?」
げらげら笑う男たちに、周りの観光客も不快に感じて見遣る。
「はぁ……。お前らみたいな奴は、言っても分からないんだろうな」
「そういうこった。俺達はこれからこの可愛い子と一緒に楽しく散歩するんだ。お前はあっちへ行った行った」
しっしっ、というように手をひらひらさせ男たちは再び加子の方に向く。
「さぁ、行こうぜ」
再び男の一人が加子の腕に手を伸ばしたが、掴むことは叶わなかった。
「うぉっ!」
という声と共に男が後ろに倒れたのだ。
尻餅を着く男。
「……ってぇー! 何すんだゴラァ!?」
「何って……言っても分からない奴には、拳で分からせないとな」
「何だと……!?」
男が睨み付ける先には助け舟を出してくれた男――。
加子はその男の顔を見た瞬間、時が止まったように感じた。
「ま、俺の女を口説く奴は問答無用で拳で分からせるが――」
そこにいたのは、この数年――ずっと想い続けてきた最愛の人。
――原田だった。
思わず、口を両手で覆ってしまう。
夢じゃない。昔みたいに和服ではなく、最近の西洋ブームでよく見かける洋服姿だったが、見間違えるはずがない。間違いなく原田左之助本人だった。
「なっ……」
「何だよ、男いんのかよ!」
「今ならまだ許してやるが、どうする? このまま去るか、俺と一戦するか」
原田の射抜くような鋭い眼光に、軟派男たちは息を呑み慌てて去って行った。(慌てすぎて途中で転けていた)
「……全く。少し目を離すとすぐに男が寄ってくる。ずっと心配だったんだぜ?」
「……」
「……加子?」
何事もなかったかのように話しかける原田に、加子は目に涙を浮かべ「馬鹿」と口にした。
数年ぶりの突然の再会。なのに、まるで空白期間が無かったかのような態度にどう反応していいか分からなかった。
「おいおい、馬鹿って……助けてやったのにそれはねぇだろ」
「――っ、馬鹿は馬鹿なの!」
やっとまともに声が出た。
沢山聞きたいことがある。何故突然やってきたのか、何故久しぶりなのにそんな普通の反応なのか、これは夢なのか――。
しかし、上手く言葉に出来ず加子は溢れる涙を拭い続けた。
もう二度と会えないかもしれないと思っていた。嬉しいやら驚きやらで言葉が出ない。
泣き続ける加子に、原田は少し困ったような声で告げた。
「とりあえず、場所を変えようぜ。さっきのといい、お前が泣いてるのとで色んな奴に見られてる」
止めどなく流れる涙のせいで、手が離せない加子。原田は優しく加子の右腕を引くと、肩に手を回して歩き出した。