恋すてふ♪
□十七.てふの幸せ
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「加子? もしかして……もう他に男がいるのか?」
「……え?」
思わぬ言葉に驚く。
「いや、黙り込んでるからよ……」
何年も会っていなかった。もう会えないということも考えなかったわけではない。
そんな自分が、加子の人生を縛ることは出来ないとも思っていた。
「もしもう良い奴がいるなら――」
「ち、違うの!」
慌てて加子は否定する。
「良い人なんていない。あれから恋なんて一切してない。私には、原田さんだけです」
「本当だな?」
「はい。本当です」
真っ直ぐ原田を見て告げた。嘘偽りのないその瞳に原田も安心したように息を抜く。
「良かったぜ。もし他の男がいるなら、俺は一人で舞い上がってたことになるからな。……恥ずかしいよな」
頭を掻く原田。
「ま、他に男がいたとしても無理にでも奪い返すつもりだったが」
「ええ!?」
「……何だよ。そんな驚くことか?」
加子の反応に再び緊張を走らせる。
「だって……原田さんだったら、諦める気がして……」
「何だ、そういうことか。――確かに、今までの俺だったらそうしてたかもな。けど、今の俺は違う。置かれている立場も環境も変わった。これからは好きに生きられる。第二の人生だ。だから、俺はこれからを加子と行きたい」
「……良いんですか? もう京に戻らなくても。私と一緒でも」
「加子と一緒が良いんだよ。心配するな。もう京にいる理由も、お前の近くにいられない理由もねぇよ」
幕府と新政府の戦いの末、新しい時代が来た。そのことは加子も知っていたが、その戦の中で新選組が滅んだことは知らなかった。
尤も、原田はその前に新選組を離隊していたが。
原田からそれ聞き、加子はホッと息を吐いた。沢山の人命が失われたことを考えると不謹慎かもしれないが、加子は愛する人と共に過ごすことが出来るのだ。
「じゃあ……宜しくお願いします」
「あぁ、これ以上ないってくらい幸せにしてやるよ」
陽気な春が瀬戸の波風に乗って、共に帰る二人を優しく撫でる。
『てふの幸せ』END
2014年11月10日