恋すてふ♪

□瓦版騒動
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「加子、これはえらいことになった」

「うん……」

「でも、姉ちゃんの行動ここまで知っとるって……」

「何か心当たりはないんか?」


兄に聞かれ、加子は初めてここ数日の出来事を打ち明けた。
最近つけられている気がしたが、危害とかなかったから放っておいた。と。

すると兄は険しい顔をし、加子を怒鳴りつけたのである。


「馬鹿じゃろ! 何ですぐ言わんかったんや!」

「だって! 危険とかなかったし。外だけだったし」

「それはたまたまかもしれんじゃろうが! この先、襲われんという保障もないじゃろ!? 今回は放置しとったけぇこれ書かれたんじゃけぇの!」

「じゃあ、兄ちゃんに言っとったら何とかしてくれとったん!?」

「当たり前じゃ! お前をつけとったやつをぼこぼこにしちゃるわ!」


そう叫んだ兄に弟は「兄ちゃんかっこいい」と呟いた。
直後、そこへ父がやってきて三人に怒鳴り声をあげた。


「お前らは声がでかいんじゃ! 旅館まで丸聞こえじゃったぞ! お客様に不快な思いをさせんなや!」


すると兄が


「すまん、父ちゃん。じゃけどこれ見たら父ちゃんも同じ反応すると思う」


と、瓦版を父に差し出した。
加子は思わず弟の影に隠れた。

兄が指さした箇所を読んでいる間、誰も喋らなかった。その沈黙が緊張感を高め、ぎゅっと弟の着物を掴んだ。

やがて父はぐしゃっと瓦版を握り、般若の如き顔で「潰す」と口にした。
加子と弟は一瞬震えた。


「と、父ちゃん……何も潰すってことは……」

「何を言うとるんじゃ。お前の私生活が世間に明るみになっとるのにようそんなことが言えるの。それとも、お前自ら載せること許可したんか?」

「そんなこと許可してない! 最近、外に出たら誰かの視線感じるなとは思ってたけど……」


その言葉に父は兄の顔を見た。


「お前、知っとったんか?」

「知らん。今さっき初めて聞いた。じゃけ、加子に何で言わんかったんか怒っとったんよ」

「……勝手に人の娘をつけ回し、勝手に世間に広め……許さん。そして加子!」

「は、はい……」


急に名前を力強く呼ばれ肩を震わせる。


「お前も外で恥ずかしい真似すんなや! 名が知られとる以上、どこで見られとるんか分からんけぇの」

「ご、ごめんなさい……」


それから父は兄を連れ、宮島瓦版を作っているところに向かった。
しかし事態はもっと深刻だったのである。
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