恋すてふ♪

□瓦版騒動
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しばらくは原田が前を歩いていたが、人が更に少ない場所に来ると加子を引き寄せた。


「さ、左之助さん!?」


辺りには人一人いない。
例の気配を除いては。

しっかりと抱きしめられていたが、加子が見上げると原田は顔を近付けて来た。


「え、あ、駄目っ……」

「分かってる。心配するな」

「え?」


すると突然、近くの狭い脇道に原田は加子を連れ込んだ。


「さ、左之助さんっ。何をっ……!」

「しー、俺に任せとけ」


そう言って、原田はそっと脇道の入り口に近寄った。
何をするのか加子が見ていると、原田は右側に視線を向け素早く手を伸ばした。同時に、


「わっ」


という男の声。原田に力強く引っ張られ現れたのは知らない若い男であった。

加子も近付く。男は原田に強く掴まれた腕が痛いと声をあげている。


「うるせぇ、お前加子をつけてどういうつもりだ!」

(左之助さん、気付いてくれてたんだ……!)

「答えろ!」

「き、気のせいだ! 俺は何も……!」

「嘘吐け! ずっと後つけてきたのばれてねぇとでも思ったのか?」

「左之助さん……」


原田に近寄り、着物の袖を掴む。


「加子、こいつ知り合いか?」


その問いに、首を横に振る。
男は逃げようと暴れまわるが、原田の力が強いのかそれは叶わない。


「で、何でこいつをつけてた? 言わねぇと痛い目みるぜ」

「くそっ……!」


男は敵わないと思ったのか、暴れるのを止め話しはじめた。


「その女、ここらじゃ有名な女流作家らしいじゃねぇか。ここらだけじゃない。精通しているものの間じゃその名を知らない者はいない。ちょっと調べればいい情報が出てくると思ったんだよ」

「情報って……こいつを調べてどうするんだ?」

「そんなん、売るに決まってんだろ。こっちは金が手に入るし」


その言葉で、加子はもしかしてと思った。


「数年前、私のことが宮島瓦版の偽物に載ったけど……まさか」

「あぁ、あれ。確かに俺だよ。けど、まさか偽物だったとは知らなかった。本当だぜ? 情報が欲しいって言った奴が宮島瓦版のもんだって名乗ったから」

「おい待て。加子、どういうことだ? 前にもあったのか?」


原田が険しい顔つきを見せる。


「うん……あの時も数日つけられてる気がして……放置してたら宮島瓦版に載せられて。でも、その瓦版、偽物で結局誰の仕業か分からなかったの。瓦版の人が、然るべきところに報告したら同心が見廻るようになってつけられることもなくなったけど」

「……今回も数日つけられてる感じがあったのか?」

「ううん、今回は今朝から。前の時、兄ちゃんにちゃんと言うようにって怒られたし、帰ってから言おうと思ったの。だから左之助さん、そんな怖い顔しないで」


自分が怖い顔になっていることに気が付かなかった原田は、加子に謝ってから再び男に顔を向けた。
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