◆香り棚


□クチナシスイーツ
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同じクラスの、
あいつの視線が気になっていた。



目が合う。
でも、すぐそっぽ向かれる。或いはすぐに俯く。


友人は少なくないと思う。
でも、全ての人に好かれるとは思ってもいないから
他人が自分をどう評価しようが別段気にはしない。


とはいえ、あからさまに顔を逸らされると


「俺、なんか悪ぃことしたか」
「もしかして、このオレンジの髪で、怖がってるとか、か?」
「もしかして、俺って、あいつに嫌われてんのか・・・?」
「なんなんだよ・・・?」



そんな気分になってくる…………………………




                                     クチナシスイーツ。





「今日が何の日だか知ってるか、諸君」
「ねぇ啓吾。・・・長い?それ」
「もぉーーーーー水色ぉーーー」
「嘘。聞いてあげるから。なに」
「1日だから、席替えじゃん。おまけに6月1日は衣替えだよ?一年のうちで一番すばらしい季節がやってきたと思わないかい、同志よ・・・」

両手を掲げて、うっとりとした顔で語る啓吾。
それを聞いていた一護は、やれやれ、という表情で。
「もうすぐ梅雨だろ?じめじめしてイヤなだけじゃん」
「席は、こんないっちーの隣より、可愛い女子の隣がいい、俺・・くっ」

啓吾が項垂れて、すぐそばにある机に突っ伏した。

「へーへー。俺も啓吾の隣は遠慮するぜ」
「あ、もう。なんだよぅ〜つれないな、一護はっ」
「啓吾はいつも楽しそうでいいね。ね、一護」
「・・・あぁ」
「なんだよぅ。一護も、水色も楽しみじゃねぇの?衣替え。女子のあの爽やかな夏服をみたまえよ!
あの美しい二の腕とかさー、くーーっ」

啓吾の目には、衣替えした真っ白な半袖のシャツを着た女子の背景には
少女漫画で言うところの薔薇を背負ってたり、細かい点描が描かれて映っているのだ。
と一護は思った。

「別に」
「僕も、そんなに。個人の趣味の問題じゃない?」
「ちぇ、なんだよなんだよーーーノリ悪ぃなぁ?」
「席替えもさぁ、毎月一回やるとか、かったりぃじゃん・・・」
「でも、気分変わっていいじゃんいいじゃーん」
「ったく・・啓吾はお気楽でいいよな・・・」
「まったくだよ。啓吾はいつも楽しそうでいいね」
「さっきも言ったぜ、水色」
「一護ぅ!水色ぅ!!!」


HR開始の鐘が鳴る直前、クラス委員の朽木ルキアが箱を持って黒板の前にやってくる。
「席替えのくじ、ひいて下さいなーー早いもん勝ちですわよーー」

「こういうくじに早いも遅いもねぇよなぁ」
「はいはい、そこのオレンジの髪の方!問答無用ですわ!くじひいたら黒板にかいてある番号の座席に座って下さいなーーーー」
「わーったよ」

一護が面倒臭そうに箱に手を突っ込んで、4つに折りたたんである小さめの紙を一枚とる。開けてみれば、

「15」番

啓吾がすかさず聞いてくる。「いっちごーー。何番?」
「…………………15」

15は窓際の一番後ろだ。

啓吾は、ぶはっ、と吹き出し、
「いちごが15?・・・・・なんだよ〜なんでそんなことになっちゃうわけ?あっははははは」
「笑うなよ・・・ったく・・・啓吾は?」
「7。廊下側の真ん中」
「老化が進みそうだな?」
「え?なにそのギャグ。一護が考えたの?え?いまの一護が?え?」
「・・・・・・・もうつっこむな・・・いいから・・・・」
「もぅ〜一護もおちゃめさんなんだからーっっ」

啓吾が一護の肩をばしばしと叩くと
水色がその輪にまざる。

「座席どうしたー?僕は廊下側の一番前。一護と啓吾は何番?」
「番号は言いたくないけど、窓際一番後ろ」
「…なにそれ。でも一番いい席じゃない?」
「そうか?ま、とにかく先生来る前に座ろうぜ」

クジのとおり
窓際の一番後ろに座る。


ここからだと、皆の様子が大体わかるんだよな……
退屈はしねぇかもな。

そう思っていると、誰かが大声で叫んだ。
「ねえねえ、暑いから窓あけてーーー、窓際の黒崎くーん」
「………」
「暇そうなの、黒崎くんだけだよー」
「……暇って・・・・・・」

一護は「仕方ねぇなぁ」と呟きながら立ち上がって窓を開け始める。


窓際の席だと、こうやって必ず窓開け閉めだの、カーテンの開けしめだの、雑用をやらされるんだった。
窓際は俺だけじゃねぇのに
俺がやんのか?めんどくせぇ…

そう思いながら窓を開けていると、
教室の端っこの窓を、一人の女子が開けていた。


あいつーーー七瀬マキだった。

俺の顔を見る度にそらす奴、だ。


・・・・偶然か?
・・・・会話聞いてて窓開けンの手伝ってくれた?
どっちだ?


ーーーーーーーーーーーわかんねぇ。



不意に目が合い、一護の体はビクっと反応する。

「今日、…暑いよね」そう言われた。
「暑いよな」と返事すると、
七瀬は、また俯いて、黙々と窓を開けた。


自分が暑いから開けたのか?
なんだ。・・・・・・・やっぱ・・・・わかんねぇ。



井上織姫が、一護のそばにきて声をかける。
「黒崎くん!!隣だよーーー。一ヶ月よろしくね」
「あぁ・・」
「私が教科書忘れたら見せてね!」
「あぁ・・・」
「私がプールの授業で水着忘れたら貸してね」
「あぁ・・え?」
「もぅ、黒崎くん。心ここにあらずだよ?どうしたの?」
「・・・悪ぃ。なんでもねぇから気にすんな」
「そうなの?」

織姫は、苦笑いしながら
それ以上は話を続けずに、自分の椅子に座った。


…七瀬は、どこの席だ?
そう思って姿を追ってみれば、窓際の隣の列で前から4番目。


俺の、2つ前の隣。



・・・・ふーん・・・同じ班になんのか。
ま、だからどうなんだ?って話だけどな・・・・



一護が、片肘をついて
マキの背中を暫く見ていると
開け放した窓から、心地よい風が入ってきて
窓の白いカーテンを揺らし、同時に一護の髪をも揺らした。
一護は、目線を、
窓から見える青い空に移した。



・・・・いい風吹いてんなーー…。



*******


一護誕生日に向けて。
公式の某イラストのイメージ。

2012.06.29


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