掌編小説

□黄色い幸せ
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何処にでもある小さな花。
何の変哲も無い黄色い花。
でも、その小さくて黄色い花は初めて名前を付けてもらった。


「あなたはハッピーよ」


それは春の始め。
桃子ちゃんは庭で黄色い花を見つけた。
ママが植えたわけでも無く、その花は花壇の端っこでちょこんと、でも一生懸命花を咲かせていた。
桃子ちゃんはその花をとても好きになった。
ママが綺麗に植えた花壇で美しさを競うように咲き誇っている花達よりもこの花が美しく思えた。


初めて名前をもらったその花は嬉しくって嬉しくって桃子ちゃんにお礼が言いたかった。

次の日、桃子ちゃんは幼稚園から帰ってくると、さっそくあの黄色い花に話をしに行った。

「こんにちはハッピー」

「こんにちは」

驚いたことに返事が返って来た。
よくよく見てみると、黄色い花の上に小さな小さな男の子が座っていた。
彼は自分の顔より大きな、ふわふわの黄色い帽子を被って笑っていた。


すぐに桃子ちゃんとハッピーは大の仲良しになった。
桃子ちゃんは毎朝幼稚園に行く前に「行ってくるね」とあいさつをかわし、幼稚園から帰ってくると、その日起こったことや色々な話をした。そして、ハッピーの為に毎日欠かさず水をあげたし、ママに間違って抜かれないように「ハッピー」と書いた名札を作って、ハッピーの横に刺してあげた。
ハッピーは毎朝幼稚園に行く桃子ちゃんに「いってらっしゃい」とあいさつをかわし、幼稚園から帰ってきた桃子ちゃんの話を楽しそうに聞いていた。そして、毎日綺麗な黄色い花を一生懸命咲かせては桃子ちゃんの笑顔を見て喜んだ。


でもある日、どんなに水をあげてもハッピーの元気が無くなって来た。

「どうしたのハッピー?」

「桃子ちゃん、お願いがあるんだ。きっともうすぐ僕は枯れてしまう。泣かないで、これは仕方の無いことなんだよ。だからお願い。僕が枯れたら白い、真っ白い僕の子供達ができるんだ。だからできるだけその子達を遠くまで飛ばしてあげて。色々な世界を見させてあげて」

桃子ちゃんはハッピーと別れるのは悲しかったけど、しっかりと約束をした。


それから数日後。
ハッピーはもう現れなくなった。
黄色い花はしぼんで、花びらを落としていった。


それからまた数日が経った。
ハッピーが言っていたように、真っ白いふわふわの花が黄色い花の代わりに咲いていた。
風にゆれると、その花はふわりと空へ飛んでいった。
桃子ちゃんは約束を守るため、その白いふわふわの花を持って2階へと上がった。
そしてベランダからハッピーの子供達に向かって勢いよく息を吹き掛けた。
真っ白いハッピーの子供達はバラバラになりながら風に乗り、それぞれの旅へと出発した。
それは春の雪の様で、幸せを運ぶ白い妖精達の様だった。

「さよならハッピー。元気でね」

桃子ちゃんは青空に元気よく叫んだ。
ハッピーの子供達はその声に答えるようにくるくると舞って、どんどん高く、どんどん遠くへと旅立った。
桃子ちゃんはみんなが見えなくなるまで見送った後、飛ばさずに取っておいた数個のハッピーの子供達をハッピーがいた近くに埋めた。
来年またハッピーに会えるように。





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