掌編小説

□隣の魔女
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突然だがボクの隣には魔女が住んでいる。
誰も知らないけれど、ボクは知っているんだ。
誰かって?
それはボクの隣に住んでいる橋本さん。
橋本さんは去年の四月にボクの家の隣に引っ越してきた。
初めて会ったのは引越しの挨拶をしにきたとき。
目が合って、橋本さんはにっこりと笑った。
今思えばあれは獲物を発見した喜びの笑顔だったんじゃないだろうか?
あぁ、なんてことだ……。
話を戻すが、橋本さんは何故かママと親しくなって、よくママは夕飯を少し多めに作っては橋本さんにあげていた。
橋本さんは橋本さんでケーキなんかをくれた。
そのケーキに毒が入ってやしないかって?
だいじょ〜ぶ!それは近所の美味しいケーキ屋さんのケーキに間違いない!!
ボクだってお使いで買いに行った事だってあるんだぞ!エッヘン!
ここまではいたって普通なんだけど、ボクは見たんだ、橋本さんが魔女である証拠を。
橋本さんは黒い猫を飼っている。
これだけでは十分とはいえないが、魔女は黒猫やカラスなんかを飼っているものだって本に書いてあった。
それよりもっと凄い証拠。
ある日ママに頼まれて夕食を届けにいったんだ。
すると出てきた橋本さんは黒尽くめで、橋本さんの部屋の中は黒いカーテンで真っ暗。明かりはロウソクだけ。しかもそのロウソクの周りにはドクロやカボチャのお化け。そして……部屋の奥にはドラキュラや他の魔女たちが居たんだ!
みんな赤い目や青い目でボクを見た。
ボクが固まってたら橋本さんが「どうしたの?」って。
ボクはあわててママから渡された煮物を差し出した。
橋本さんは「ありがとう。あ、ちょっと待っててね」と言って部屋の中に戻っていった。
その時「きゃーーーーーー!!」っていう若い女の人の悲鳴が聞こえた。
ボクは怖くて、直ぐに家に逃げ帰り、ベッドの中で震えた。
橋本さんは魔女だったんだ。
しかもあんなに仲間が居る。
きっと秘密を知ったボクを魔法でヒキガエルに変えてしまうか、消してしまうに違いない。
あぁ、なんて不幸なんだろう!
隣に魔女が越してきたせいでボクはこれから恐怖とともに生きなくてはならない。
その翌日から橋本さんはいつもの橋本さんに戻った。
でも安心は出来ないぞ、きっとボクを油断させて魔法をかけるんだ!
それからボクは町でも直ぐに橋本さんを見付けられるようになった。
そのだびに目で追って見つからないように祈ってる。
でも……最近橋本さんを見ると胸がギュッとなってドキドキして顔が熱くなる。
あぁ、きっともう何かの魔法をかけられてしまったんだ!!
あぁ、もう直ぐ僕は死んでしまうに違いない。
こんなにも胸が苦しいんだから……。




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