音が無い。 聞こえないのでは無い。音が‘無い’のだ。 僕の喉の奥から発せられた音は口から出ると、途端に泡のようになって天高く昇っていく。キラキラと光を発しながら薄暗い空を昇っていく。 眠った街に僕は独り。今は夜だろうか、朝だろうか。 近くの電信柱を蹴ってみる。足裏に固い感触と、痺れ。鈍い音は無く、光の玉が浮かんで消える。 誰かの家の生垣を撫でながら歩く。掌にガサガサと葉っぱが当たる。感触だけで音は無い。代わりに光の玉が浮かんでは空に消えていく。 音によって色が違うのか。そんな事を思いながら、色々な声を出してみる。口から色々な色と大きさの光が吐き出されていく。 何だか楽しくなった。色々な所を叩き、音色を楽しむ。字の如くその色を。 深海の街の中、独りきりの音楽祭。 色が奏でる音楽祭。 |