過去ログ

□拍手ログB
2ページ/10ページ




厚い雲が空を覆っている。どんよりと暗い雲が。その空を見上げて、あぁ、またか、とカナオは思った。黒い雲の隙間から大きな目が覗いている。黒くギラギラした目。カナオにしか見えない不気味な目。
持っていたリードをぐいぐいと引っ張られてカナオは下を向く。愛犬のタロが尻尾をちぎれんばかりに振り、早く行こうとせがむ。

「お前はいいな気楽で」

そう言って頭を撫でてやる。
タロは嬉しそうに目を細めた。
カナオの顔から自然と笑みが漏れる。そんな自分に気付いて、どれだけコイツに癒されているだろうか、とふと考えた。それは計り知れないように思えた。
カナオがゆっくりと歩き始めると、タロが少し先を歩き出す。小走りにお尻を振りながら。
歩きながら空を見上げると、雲からは相変わらずの視線。まるで監視されているようだ。でも何に?
曇りの日に現れる不思議な目。
カナオを捕らえて離さない目。
あれは神の目だろうか、悪魔の目だろうか。
不安と苛立ちと恐怖。曇りの日は心がざわつく。
だけど、何も見えていない、そう装ってカナオは生きていく。誰にも言わない。誰にも言えない。だって自分にしか見えないのだから。
大丈夫、実害はないのだ。
そう、今の所は……。




次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ