大きな白い猫は背中に街を乗せてゆっくり歩く。 墨で塗り潰したような真っ黒な街。 この猫を見かけた人は、変わった模様か、誰かが白い猫の背中をキャンパス代わりに悪戯でもしたかと思うだろう。 だけどよーく見ていると、その模様が動いている事に気付くだろう。 煙突は黒い煙りを吐き出し、教会の鐘は揺れる。運が良ければ影絵の様な鳥が群れを成して白い空を飛んでいくのが見えるかもしれない。 猫はその鳥達が鼻先を通る度にむず痒くて仕方なく、くしゃみをしては身体を揺らす。 平面の街がいつから背中にあるかは猫も知らない。 生まれた時からあったのか、誰かが猫の背中に住み着いて、街を造ったのか。それとも、誰かの悪戯描きが現実になったのか。 だけど猫は気にしない。 鼻が痒くなるときもあるけれど、街は猫を不快にしないし、生活に支障が無いからだ。街が背中に在るだけで、普通の猫と何等代わりはない。 猫は気ままに自分の生活を送ってる。 背中の街もまた、自分達のペースで生活している。 きっと街の住人は猫の背中に住んでいるなんて思ってもいないし、世界はここだけだと思ってる。 猫は大きく欠伸をして、屋根の上にごろりと寝転んだ。 |