琥珀色の液体が氷山を滑り下りていく。 グラスに注がれるそれは10年ものの梅酒だった。 それを眺めていると、自然と口元が綻ぶ。 「梅酒の作り方教えてやるよ」 ぶっきらぼうに彼はそう言った。 黒く日に焼けた顔をした作り酒屋の息子だ。 いいよ、と私は首を横に降る。 まだ高校生だった私はお酒に興味などなかった。寧ろ嫌っていた。 正月に飲まされる御神酒は美味しくなかったし、興味本位で舐めた麦酒は苦かった。 それでも幼なじみの彼は、いいから作るんだよ、と私を自分の家へと引っ張っていった。何とも強引な話しだ。 彼の家には既に梅酒を作るための準備が調っていた。 私は渋々と彼に従い、梅を漬けた。 言われるがままに黙々と作業をした。 瓶の蓋を閉め、今日の日付を書いたラベルを貼る頃には、何か大きな達成感があった。 「いいな、二十歳の成人式の時に二人であけるんだぞ。それまで飲むなよ」 私はその瓶を大事に抱えて頷いた。 しかしその約束は守られることがなかった。父の仕事の都合で私が引っ越してしまい、成人式に参加できなかったからだ。 梅酒が注がれたグラスを持ち上げる。 カラン、と音を立てて氷が琥珀の海の中で泳いだ。 その揺れに合わせて左手の薬指の指輪も光る。 しばらくその様を見詰めていたが、隣の男がグラスを差し出して来たので乾杯をし、口をつける。 喉を通り抜け、それは心まで満たすようだった。 「どうだ?」 隣にいた男が聞いた。 「美味しい」 私は彼に笑顔を向ける。 「当たり前だ、俺が作り方を教えたんだから」 そう言って彼も笑った。 |