過去ログ

□拍手ログB
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琥珀色の液体が氷山を滑り下りていく。
グラスに注がれるそれは10年ものの梅酒だった。
それを眺めていると、自然と口元が綻ぶ。



「梅酒の作り方教えてやるよ」

ぶっきらぼうに彼はそう言った。
黒く日に焼けた顔をした作り酒屋の息子だ。
いいよ、と私は首を横に降る。
まだ高校生だった私はお酒に興味などなかった。寧ろ嫌っていた。
正月に飲まされる御神酒は美味しくなかったし、興味本位で舐めた麦酒は苦かった。
それでも幼なじみの彼は、いいから作るんだよ、と私を自分の家へと引っ張っていった。何とも強引な話しだ。
彼の家には既に梅酒を作るための準備が調っていた。
私は渋々と彼に従い、梅を漬けた。
言われるがままに黙々と作業をした。
瓶の蓋を閉め、今日の日付を書いたラベルを貼る頃には、何か大きな達成感があった。

「いいな、二十歳の成人式の時に二人であけるんだぞ。それまで飲むなよ」

私はその瓶を大事に抱えて頷いた。
しかしその約束は守られることがなかった。父の仕事の都合で私が引っ越してしまい、成人式に参加できなかったからだ。



梅酒が注がれたグラスを持ち上げる。
カラン、と音を立てて氷が琥珀の海の中で泳いだ。
その揺れに合わせて左手の薬指の指輪も光る。
しばらくその様を見詰めていたが、隣の男がグラスを差し出して来たので乾杯をし、口をつける。
喉を通り抜け、それは心まで満たすようだった。

「どうだ?」

隣にいた男が聞いた。

「美味しい」

私は彼に笑顔を向ける。

「当たり前だ、俺が作り方を教えたんだから」

そう言って彼も笑った。




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