掌編小説

□光の滝
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ゴボゴボゴボ……―――


無理矢理乗せられた小さく狭く揺れる乗り物から乱暴にほうり出された。
僕は大きく口を開けてパクパクと息を吸い込んだ。あの乗り物のせいで少々酸欠気味だ。
呼吸が落ち着くと僕は辺りをキョロキョロと見渡した。見たことも無い風景。僕が産まれた場所で無いのは確かだ。

「ここ何処だろう?」

「さあな。どうやら連れてこられたのは俺達だけのようだな」

一緒に乗り物に入れられた三番目の兄が言った。

「じいさんが言ってたろ、俺達は買われたんだ。もう皆が居る元の場所には戻れない。ここでずっと暮らすんだ。大丈夫、どうせたいして変わらないさ。あそこでも買われてたようなものだしな。こっちの方が広くて清々するぜ」

そう言うと兄はふらふらと離れて行ってしまった。この世界にすぐに慣れた様子だ。僕はと言うとまだ戸惑っている。
僕の産まれた世界は少し薄暗く、沢山の家族に囲まれていた。
同じといえば……―――
僕は空を見上げた。キラキラと光の滝が降り注いでいる。


ゴボゴボゴボ……―――


暫く色々と探索し、兄が言ったようにあまり変わらない事がわかった。世界は四角く、世界の外は違う世界。食事は定期的に与えられ、あの光の滝が存在する。


僕等の生活は平和そのものだった。多少地震や怪音に怯える事もあったが、段々と慣れていった。だけど………


「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」

「……何だよ、五月蝿いな………寝かせておいてくれよ…………」

始めは疲れているだけだと言っていた。僕もそれを信じていた。だけど兄の衰弱は日に日に進んで行った。一日の殆どを寝て過ごし、食事も取らなくなって行った。
僕は心配で心配で兄が暫く動かないと慌てて近寄り声をかけたり、身体を揺すったりした。その度兄は煩わしそうに身体を動かしたり、悪態をついたりした。空元気。それらは全て僕を心配させまいとしてして強がっている事だとわかっていた。
やがて兄はぴくりとも動かなくなった。声をかけても何も言い返して来ない。

「起きてよお兄ちゃん。寝たふりなんてもういいよ。ねぇ……」


やがて空からいつも定期的に現れる乗り物が降りて来て、兄の遺体を何処かに持ち去ってしまった。
僕は独りになってしまった。
今でも空から定期的に食事が与えられ、兄が居たときと同じ生活が続く。その生活に慣れていく。兄の居ない生活に。
僕もいつか兄の様に衰弱して死んでいくのだろうか、この狭い世界で、一人で。僕が死んだら兄と同じ所に連れていってもらえるのだろうか?
僕は光の滝を仰ぎ見た。


ゴボゴボゴボ……―――





「ねーママー。金魚さん独りで寂しく無いかなぁ?」

「そうねぇ、今度お友達買いに行きましょうか」

「うん!よかったねー金魚さん」





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