翡翠の瞳 深紅の眼

□第8章 越鳥『南』枝に巣くい、胡馬『北』風に嘶く
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 満月が湖面に映り、波の揺らめきがそれの形を変えている。
 "屋形"に向かう丘には、ススキが群生しており、秋風がその穂影をくすぐっている。

 夏が終わると、"男"たちは稲を刈り、米の収穫に勤しんだ。
 出来上がった新しい米は、雨の中に住まう、"あの男"のところにも届いただろう……。









 群生するススキの間に、人影が1つ……。やがて、その影は4つ加わり5体となった。



      ・・・
「で…、結局あの人の、女性関係は解らないままなの…?」



「そうね…」



 赤い髪の女が答えた。



「アンタまた、何か隠してるんじゃないの?」



 金髪の娘が、つっけんどんに、ケンカを吹っかけるように言った。



「まぁ、落ち着きなって…、アタシも同行したんだ。ホントに何も、解らなかったよ…」



 ずいぶんと体格のいい、茶褐色の髪の女が擁護する。髪は高い位置で、1ツに纏まっていた。



   ・・
「彼の実家はどうなんだ?日記とか…、めぼしいものがあるだろう?」



 蒼い艶を放つ髪の女が、別ルートからの捜索を提案したが、使用人服の女に首を振られた。


 ・・・
「うちはの居住区は立入禁止…、あの方からも行くな…と言われているわ…」



「スイラン…、もう…そんな約束事に縛られてる場合じゃない…」



 蒼い髪の女…セイラが、スイランと呼んだ使用人服の女を咎めた。



「あら…、1人、誘惑すれば喋りそうな人…、いるんじゃない?」



 赤毛の女…エンラが、満月を背にして愉快そうに言った。



「キサメ…って人のことかい?秘密を守るために"同朋殺し"をする男が、そう簡単に口を割るかねぇ…」



 茶褐色の髪を秋風に靡かせた女…シンラは、疑い深げに"キサメ"という男の強靭な精神力を物語った。



「エンラは、ただ男と寝たいだけでしょ?インラン、色魔女!」



 金髪の娘…サイランは、いつになくエンラに突っ掛かる。『出し抜こうとした』ことを、よほど根に持っているらしい。
 それで、『本体』に危険が及んだ…。常に自分勝手な行動を取る赤毛の女を、金髪の娘は良く思わない。


『女』を武器にしている……。


 それが、彼女の気に食わない所だった…。しかし、分身である以上は、『同一の者』である。


『そんな部分があるなんて…』と、誰かが嫌気をさしていた。



「寝物語に聞き出せるようなら、私はそれで構わないけど…」



 使用人服の女『セツ』が、不本意極まりないが致し方ない……という意味合いで、皆の前で言い放った。



「スイラン!正気なの!?」



 サイランが目を丸くする。



「でも、使えない情報は持って来ないで。あくまでも、あの人に関する『女』の情報なんだから……」 



「ホント…、どういった心境の変化かしら?『女関係』を洗え…なんて、ずいぶん『躍起』ね……」



「そこから、『事件』のきっかけを、掴めるかもしれないでしょう?どうして、『好きな女を殺すに至ったか?』知りたいのよ……」



「そうかしら……?」
 という声を残して、4体の影は満月の光が差す、ススキの丘から消え去った――。
















 
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