クロスシリーズ

□過去の希望、未来の遺産
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「何と言う事を……! 貴様達! 何をしたのか、分かってるのか!? そこにいるのは、ジョーカーだぞ!? ジョーカーだ! カテゴリーキングも、どこかに……」
「俺の事か?」
 意図せず上擦ってしまう声を上げながらも、私は周囲を見回してあの忌々しい皮肉な笑みを浮かべた男の顔を捜す。
 そしてその顔から放たれているであろう声は、私の後ろから響いた。振り返り、視線に入る姿はまだ人の物ではあるが、所詮その本性は戦う事しか考えないアンデッド。
 仮面ライダー達に紛れて立つジョーカーとて、アンデッドの中では飛びぬけて闘争本能の強い存在。
 こんな化物に、平和を望む心などあるものか。
「こいつらが残れば……人類は滅びる。世界は滅びる!」
 ヒトの始祖たるヒューマンアンデッドが封印されている以上、このバトルファイトにおいて人類の「勝利」はない。
 人類こそが、この星の支配を担うに相応しい種であると言うのに。
 ……そう。私の作る、新たな人類こそが!
「だったら私が……私が新しい世界をぉぉぉっ! はははははは……ハーハッハッハッハッハ!」
 ……何故、そんな目で見る、ライダー達よ。
 私は哀れではない。
 私は愚かではない。
 私は誤っていない。
 個々に違いなど持たせるから、互いに憎みあい、傷つけあい、時には殺しあう。
 だからこそ私は、皆が同じ考えを持つ新たな「人類」を作ろうとしていると言うのに。
「今からでも遅くない! こいつを封印しろ! 封印しろぉぉぉぉ!」
 そうだ。神はケルベロスの……私の存在を認めたではないか。アンデッドとして存在する事を。
 だから、私が残れば良い。そうすれば、人類は残る。世界は残る。新たな人類が、勝者となる!
「封印されるのは……お前だ」
 言葉と同時に、今まで人の姿をしていたカテゴリーキングがその本性を現す。
 その刹那、相手が手を……否、剣を、振るった。
 私の命を絶つべく。
 ……何故だ、神よ。
 ……私に囁いたではないか。
 …………封印されたアンデッドを解放し、バトルファイトを再開せよと。
 それなのに……何故、私が死なねばならない……?
  ……ああ、そうか。
   …………「駒」だったのは……
    ………………私の、方か……


「……何故だ……!」
「何故。何故、無駄に人の命を奪うんだ!」
 物言わぬ骸と化した天王路を見つつ、剣崎と橘がギラファアンデッドに問いかける。だが、問われた方は鼻で小さく笑い……
「奴はアンデッドだったんだぞ? それだけで充分だ」
「もう、戦う力はなかった!」
「ただの人間だ!」
 骸の額から流れる血の「赤」が、死なぬはずの「アンデッド」ではなく、か弱いただの「人間」である事を示している。
――……結局のところ、天王路はアンデッドになる事が出来なかったって事か――
 己の剣に付いた血と、雨に流れる天王路の血を見比べながら、ギラファアンデッドは心の奥底でせせら笑う。
 ケルベロスの存在は、確かに自分にとって脅威だった。純然たる力も、そして特異な能力も。だからこそ、「封印」してもらわねば困る。あんな物騒な「アンデッド」は存在する事が許せない。あれはジョーカーと同じで、バトルファイトの均衡を崩す。
 人間として屠る事が出来たのは、彼にとっては幸いだった。
「無駄だ。奴はケルベロスを倒すために、俺達に力を貸したに過ぎない」
 熱くなっている剣崎達とは違い、始だけは淡々とした様子なのは、やはり彼が感情が希薄なアンデッドだからなのか。
 それとも天王路に対して、特に何も感傷はないからなのか。彼の表情からは、それを窺い知る事は出来ない。
「そうなのか? ……嘘だったのか!? 『平和を実現させよう』って!」
 怒りと……そして悲しみの混ざった声で、睦月がギラファアンデッドに向かって怒鳴る。
「嘘じゃないさ。俺はジョーカーを封印し、万能の力を得る。俺の平和に、人類など不要だ!」
 そう言うと、ギラファアンデッドは天王路にしたのと同じように、睦月の体に向かってその大剣を振り下ろす。
 ただ、天王路の時とは違い、致命傷には至っていない。深い傷ではあるが、命はつながっている。
 だが睦月の生死などどうでも良いのか。ギラファアンデッドは足元に落ちるケルベロスのカードを拾い……始に向かって宣言した。
 ……お前を封印するのは、俺だ、と。


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