クロスシリーズ
□過去の希望、未来の遺産
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「全てのアンデッドは封印した! 残っているのはジョーカー! 君一人だ!」
降りしきる雨の中、天王路が殺された場所と似たような工場跡で、剣崎一真は怒鳴るようにそう叫ぶ。
その体は傷だらけで、押さえている右腕が、特に痛々しい。
相手は、相川始。
……いや、ジョーカーと呼ぶべきなのか。
瞬きを一切せず、その構えに人間らしい物は感じられない。
「……出来れば君とは戦いたくない!」
「戦う事でしか……俺とお前は語り合えない」
泣きそうな顔で放たれた言葉に対して返ってきたのは、あからさまな拒絶。そしてその言葉を放つと同時に、相川始の姿が変わった。
何のカードを通した気配もないのに、相川始からカリスへと。それを見て、剣崎ももはや戦うしかないと悟ったのか……咆哮にも似た叫び声を上げ、ブレイドに変身しながら彼に立ち向かう。
それに対して、カリス……いや、「彼」は、「ジョーカーと言う名のアンデッド」としてブレイドを迎え撃つ。
「どうした!? その程度か!? いくらお前が手加減しても、俺は……容赦はしない!」
その言葉通り、ジョーカーは情け容赦なく、反撃の暇も与えぬよう、幾度となくブレイドを殴り飛ばす。
――そうだ、こいつはアンデッドなんだ。倒さなければならない相手なんだ!――
殴られた事で、「彼」の決意を理解したのか。今ようやく、ブレイドも……剣崎一真も決意した。
目の前にいる存在を、アンデッドとして「封印する」事を。
繰り出されたジョーカーの攻撃をかわすと、ブレイドは一旦距離をとり……ジョーカーに向かって勢い良く駆け出す。
ジョーカーも、それに呼応するようにブレイドとの距離を詰めるべく駆ける。
ブレイドもジョーカーも、武器を持っていない。互いの拳で、蹴りで……相手を攻撃していた。
殴って、蹴って、そしてその度に空から降り注ぐ水と足元に溜まった水が跳ね上がり、彼らの視界を濡らしていく。
やがて、ブレイドが大きく飛び上がった。
ラウズカードを読み込んだ様子はないのに、その足には彼の持つスペードの六……サンダーの力が宿っているように電光が奔っている。
…………ブレイドのキックが、ジョーカーに極まる。
それは、ブレイドの渾身の一撃だったらしい。ジョーカーは一瞬だけその場に膝をつくが、再び立ち上がると、ブレイドを倒すべくよろよろと前へ進む。
「…………」
だが、ジョーカーがブレイドの側まで歩み寄るよりも先に。無言のまま、ブレイドはプロパーブランクを投げつけた。
ひゅん、と風を切り、カードは豪雨を切り裂くように飛んで……ジョーカーの胸の飾りへ突き立つと、光を放ち始める。
……それは、ジョーカー封印の瞬間。
「……天音ちゃん……」
カードに完全に封印される前に。
確かに、相川始がそう言ったように聞こえた。
そして剣崎一真もまた。
カードを受け取る事なく力尽き、足元に広がる水溜りの中へ、派手な音を立てて倒れこんだのである。
……全てのアンデッドを封印すると言う結果を以って、このバトルファイトは終焉を迎えた……
「おい、これ……本当に『異世界』なのかよ?」
ブレイドとジョーカーの戦いを、デンライナーの中から見ていたモモタロスが、思わず呟く。
相変わらずデンライナーを風の膜が覆ってはいるが、外の様子は見ることができるし、音もきちんと届く。
デンライナーから外に出る事だけはできないが、様子を知る分には問題ないようである。
「僕達も特に変わった様子はないし……」
「心配損やったな」
ウラタロスとキンタロスも、拍子抜け、と言った風に外の様子を眺めている。
「アイツ……封印されちゃったね」
「ジョーカーは、世界を滅ぼす。それを防ぐには、封印するしかないもの」
リュウタロスの言葉を、ハナが冷静に返した。
ダークローチの群れを見た彼女にとって、ジョーカーは危険な存在であると言う認識がある。
剣崎の行動は正しい。そう思っていた。
「だが、やはり異世界だ。ジョーカーも、そしてあの戦士も。元の世界の紛い物に過ぎん」
他の面々が観光気分でいる中、ジークだけは心底不愉快そうな表情で外の様子を眺めていた……