クロスシリーズ

□過去の希望、未来の遺産
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 どうやら、やはりデネブの方が本名らしい。しかし何故名を偽る必要があるのか。
 理由はわからないが、それなりの理由があるのだろう……多分。
 だが、不思議な事にこれ以上突っ込んで聞こうと思えなくなっているのも事実で。何を口にしようか迷いながらも、剣崎はもう一度窓の外に目を向ける。
 先程と然程変わらぬ景色。ただ、所々に開くトンネルを見て……剣崎は少し、違和感を覚えた。
――何だ? 何かおかしいような――
 目を凝らして過ぎ行くそれらを観察し……そして、ようやく気付く。どのトンネルにも、線路がつながっていない事に。
 もしかすると建設途中なのかも知れないが、いくらなんでも線路のないトンネルが多すぎはしないだろうか。
 何より……何故だろう。あのトンネルを見ていると、全身が粟立つような感覚に囚われる。
「……トンネルが気になるのか?」
「ああ。気になると言うか……何だか、奇妙な感じがする」
 桜井……否、侑斗の問いに、剣崎は曖昧に頷く。
 言葉にしたいが、上手く言葉にできない……そんな感じだ。それでも何とか言葉を探しながら、侑斗達に対して自身の考えを口に出した。
「そうだな……不自然な感じって言えば良いのかな。あそこに存在する事が、妙な気がしてならないんだ」
 言いながら、自分でもそれが一番しっくり来ると思う。
 そんな彼に何を思ったのか、侑斗達は一瞬だけ目を大きく見開き……しかしすぐにその口元に不敵な笑みを浮かせると、感心したような声の侑斗と、真剣味を帯びた声の良太郎がそれぞれ口を開いた。
「……へえ、やっぱりわかるモンなんだな」
「あれは、『異世界への出入り口』らしいです」
「へえ、異世界の……って、異世界?」
 流すに流せないその単語に、ぎょっと目を見開いて問い返す剣崎。しかし二人……いや、五人は真剣な表情で頷きを返すだけ。
 ……今度こそ、完全に。
 訳がわからず、剣崎の思考は停止した……


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