クロスシリーズ

□過去の希望、未来の遺産
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「嘘、だ。嘘だ、嘘だ嘘だ……嘘だぁぁぁっ!」
 ダークローチとして、自分達の体がこの世界に送られていた。
 その言葉を聞き、リュウタロスはそう叫びながら、がくりとその場に膝をつく。
 ハナは口元を押さえて後退り、ジークは知っていたのか、渋い顔でイマジンを睨みつけ、モモタロスは……血が滲むほど拳を握り締め、唇をきつくかみ締めていた。
 ダークローチとして送られてきたと言う事は、既に体は存在しないと言う事。それどころか自分の意思とは無関係にこの世界を破滅に追い込んでいたと言う事でもある。
 そして何より……もしかすると、その「体」を知らぬ間に剣崎や睦月、そして良太郎や侑斗、更にはキンタロスやウラタロスが刻んでいる可能性があると言う事実。知らぬとは言え、それを良太郎達が知ったら……きっと彼は自分を責める。
 それが、リュウタロスには何よりも嫌だった。
「……冗談じゃねぇぞ」
 しばしの沈黙の後、ようやく搾り出すようにモモタロスが吐き捨てる。
 その赤く光る瞳に、怒りを湛え、イマジンを真正面から見据えて。
「俺の体が、あんなセンスの欠片もねぇのでたまるか!」
 …………
 再び、沈黙が落ちる。
 とんでもなく重い話だったはずなのに、その一言で台無しになったような、何とも言えない沈黙が。
「あんたの怒る所はそこ!?」
「それ以外に何があんだよ。本当は異世界の住人であったにしろ、俺は『俺』だ。格好良く戦うのが好きで、良太郎に憑いて、今はこの姿で、『野上桃』って名乗っちゃいるが案外モモタロスってセンスねぇ呼び名も気に入ってて……早い話、そう言うのを全部ひっくるめて今の『俺』なんだよ。本当の目的とか、住んでた世界とか、体がどうなったとか、そんな小せぇ事は関係ねぇ!」
 ハナの入れたツッコミにそう言い切り、モモタロスは口元に不敵な笑みを湛え、その場にいる全員を庇うようにして彼らの前に立つ。
 ……イマジンの言葉が、ショックでないと言えば嘘になる。
 だが、「元の体」が何であろうが、どうなっていようが関係ないと思っているのも事実だった。
 今の彼にとって重要なのは、「良太郎と共に過ごした時間」。それが偽りでない限り、モモタロスの意志を挫く事は、誰であろうと……それが例え神であろうと、不可能な事。それだけの信頼を、彼は抱いているのだから。
「小さい事、か。ふむ、実にお前らしい考え方だな、お供その一」
「おうよ! ……って、お供その一って呼ぶなって何回言ったら覚えるんだテメーはっ!」
「では、赤いお供の方が良かったか?」
「色でも呼ぶな!」
 いつもの調子を取り戻したように、ジークとモモタロスの二人は言い合う。
 ……無論、言い合うと言うよりは、モモタロスのツッコミをジークが聞き流しているだけにしか見えないのだが。
 それでも……彼らの心を折ろうと画策していたイマジンを不快にさせるには充分だったらしい。
 アンデッドイマジンは小さく舌打ちをすると、その右手を彼らに向け……気付く。
 先程まで、最も取り乱していたリュウタロスが立ち上がり、自分を見て笑顔を向けている事に。ただし、その目は笑ってなどいなかったが。


 イマジンがこちらに右手を差し向けた瞬間。
 橘は、後ろで呆然と座り込んでいた龍太が立ち上がるのを感じた。
 何故かは分らないが、かなりのショックを受けていたはずだ。そしてあれだけのショックから立ち直ったとは考えにくい。だからと言って、逃げる様子もない。
 なら、何を?
「……お前、やっつけるね? 良い?」
 ともすれば無邪気とも取れる声に振り返り……ぞくりと、橘の背に冷たい物が駆ける。
 そこに浮かぶのは、酷薄な笑み。紫の瞳は暗い色を纏い、軽く首を傾げている仕草はどこか獲物を狙う獣に似ている。
 最初に出会った頃の始を連想させるその眼に、橘は龍太の持つ一面を垣間見た気がした。
「出来るか? 貴様に?」
「……答えは聞いてないっ!」
 言うが早いか、龍太は腰に銀色のベルトを装着、一番下にある紫のボタンを押して取り出したパスケースをベルトにタッチする。
「変身!」
『GUN FORM』
 電子音が告げると同時に彼の体を鎧のようなものが包み、紫色の仮面ライダーへと変身した。全体的に、どことなく龍をイメージさせる。それは両肩に展開しているパーツが、玉を持った龍の手のように見えるからか。
 無論、それは橘達が見た事のないライダー。少なくとも、BOARDのライダーシステムではない。強いて言うなら、この間見た青いライダーに似ている。あの時は亀に似ていると思ったが。
「電王か。だがその姿……どうやら、俺がいた時間より、更に先の時間から来たようだな」
「うるさいよ」
 面白そうに言うイマジンに対し、電王と呼ばれた仮面ライダー……龍太は不機嫌そのものの声で短く言い放ち、いつの間にか構えていた銃を撃ち放つ。
 まるで、踊っているようなステップを踏みながら。
「『月の子』の裏切り者が。真実を知ってもなお、電王として闘う事を選ぶか」
「僕は、お姉ちゃんや良太郎がいるこの世界が好きなんだ。良太郎のいない世界なんて、面白くないよ」
「世界が統合されれば、その気持ちは忘れる。特異点に関する記憶が、消える」
「それが嫌だって言ってるの! お前の答えは聞いてない!」
 心底苛立ったように言いつつ、更に龍太は攻撃を続ける。
 だがイマジンの方も、その攻撃を軽々とかわしていた。
 龍太が冷静な判断を失っている事も原因の一つだろうが、何より相手の動きが良い。龍太の調子が良かったとしても、攻撃が当たっていたかどうか……
「仕方ない。電王もまた、『皇帝に愛された子』の一人。消さねばならんか」
 言うが早いか、イマジンは今までとは比較にならない速さで、その腕を振るった。


 アンデッドイマジンが腕を振るった瞬間。
 リュウタロスがその動きに合わせて大きく吹き飛んだ。
「あぐっ」
「小僧!」
「龍太!」
 小さく上げた悲鳴に、モモタロスと橘が心配そうな声をあげる。
 何が起きたのか、いまひとつわからないが……その姿や今までの攻撃から考えると、恐らく蜘蛛の糸のようなものを鞭のようにしならせ、自分を叩いたのだろう。
 ゆっくりと起き上がりながら、迫り来る相手に向かって再び発砲する。
 ……当たるとは思っていないが、体勢を立て直すまでの時間稼ぎにするつもりだった。
 攻撃の当たった胴がズキズキと痛み、集中力に欠けて狙いが上手く定まらない。
 痛い、怖い、逃げ出したい。
 そんな負の感情が、リュウタロスの心にじわじわと広がる。
 だが同時に、それを押し返すほどの怒りも、彼の心の中で燃え上がっていた。
「負けたくない……負けない。こんな奴に負けるなんて、絶対に、やだ!!」
 叫び、一旦身を引いて相手との距離をとる。
 変身もフルチャージも、持っているのがパスではなくチケットである以上、使えるのは一回だけ。
 そのなけなしの一回を……彼は今、使った。
『FULL CHARGE』
 パスをセタッチし、電子音が告げると同時に、両肩に展開しているドラゴンジェムからエネルギーが放出。デンガッシャー・ガンモードにチャージされていく。
「最後行くよ。良い?」
 ゆっくりと構えながら、彼は問う。
 その声に、問いに、そしてキリキリと弓を引き絞るような緊張感に。不吉な物を感じ取ったのか、アンデッドイマジンは小さく舌打ちすると再び大きく腕を振るう。
「答えは、聞かないけど」
 アンデッドイマジンの攻撃が胴に再び炸裂したのと、リュウタロスが引鉄を引いて必殺技であるワイルドショットを放ったのはほぼ同時。
 相手に吹き飛ばされながらも、リュウタロスは自分の放った攻撃の行き着く先を見届ける。
 ……変幻自在のモモタロスの「俺の必殺技(エクストリームスラッシュ)」や、相手の動きを拘束するウラタロスのソリッドアタック、近距離攻撃で回避不能なキンタロスのダイナミックチョップに比べ、自分の必殺技であるワイルドショットは遠距離かつ軌道が一直線である為かわされやすい。
 実際、彼の攻撃が何度もかわされてしまっている事を、モモタロスもハナも知っている。
 だが、かわされる訳には行かなかった。今回だけは、何が何でも。
 ……それなのに。
 無情にも、アンデッドイマジンはリュウタロスの渾身の攻撃を、体を反らす事でいとも容易くかわしたのである。
「そんな……」
 思わず漏れたその言葉は、誰の言葉だっただろうか。
 アンデッドイマジン以外の全員が、愕然とした表情でその様子を眺める。
 フルチャージのせいか、それとも攻撃を受けすぎたせいか。リュウタロスの変身も解除され、傷だらけになった生身の体を敵前に晒す。
「残念だったな」
 その場に座り込んでいるリュウタロスに、ゆっくりと右腕を向け、アンデッドイマジンは不敵に笑いながらそう言い放つ。
「イマジンでありながら同族を裏切った罪……その身で贖ってもらおう、紫の龍よ」
 敵が、そう言ったその瞬間。
 何かの「音」が聞こえてきた。
 ……聞こえてきたそれは。牛の鳴き声に似た、汽笛の音……


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