クロスシリーズ

□五色の戦士、仮面の守護
13ページ/80ページ

【06】



「なかなかゴーオンジャーに勝てないでオジャル」
「蛮機獣の強さも、そう簡単には上げられないゾヨ」
「最近ではゴーオンウィングスも、鬱陶しく我々の邪魔をしてくるナリ」
『はあ〜あ……』
 大きな歯車が回る広間。ここはガイアークの本拠地、ヘルガイユ宮殿の真ん中。そこで、三人の幹部が、カウンターバーのような作りをしている席で、ネジやらナットやらをつまみにして、深い深い溜息を吐いた。
 一番背が高く、渋い声の金色の存在は、害地大臣ヨゴシュタイン。その肩書きの通り、大地を(よご)す事を目標としている蛮機族。語尾に「ナリ」が付くのが、彼の特徴だ。
 半身ずつで銅色と銀色の二色を持つ、甲高い男の声をしているのは、害気大臣キタネイダス。彼は大気を(きたな)くするのが得意な蛮機族であり、語尾に「ゾヨ」とつける。一番細いのも、ひょっとすると彼かも知れない。
 そして唯一、人間と同じ顔をしているセクシーな紅一点は、害水大臣ケガレシア。水を(けが)す蛮機族で、二人の仲間からは「ケガちゃん」と呼ばれる事もしばしば。語尾に「オジャル」をつけるあたりも可愛らしい。
 そんな彼らの目下の敵は、マシンワールドにいた頃からの仇敵である「炎神」を味方につけたこの世界の人間……ゴーオンジャーとゴーオンウィングス。幾度となく蛮機獣と呼ばれる機械生命体を生み出しても、悉く彼らに倒されてしまい、彼らの願い……自分達の住みやすい、大地を汚し、大気を汚くし、水を汚した……所謂、汚染された世界に住むという計画は、一向に進んでいなかった。
 正直、蛮機族を生み出すためのアイディア切れと言う感もある。溜息を吐きたくなるのも当然だろう。
 そんな彼らに一つの影が近付く。ケガレシア同様、人間と同じ顔。髪は高く結われ、金属で出来ているらしい服は、どこか着物を連想させた。
「なぁんか、暗いでありんすねぇ〜」
「何者ゾヨ!?」
「お初にお目にかかりなんし。わっちはガイアーク害務大臣、ムダニステラと言う者でありんす。ステラと呼んでおくんなし」
 ムダニステラと名乗ったその女は、振り返って敵意を向ける三大臣に対してすっと頭を下げる。その仕草は、どことなく昔いたと言うこの世界の高級娼婦……花魁(おいらん)と呼ばれるそれを連想させる。
「害務大臣……?」
「ナリか?」
「そうでありんす〜。実は、そんな風に落ち込んでいる三大臣の皆様にご助力を……と思い、わっちはこのようにヒューマンワールドにやって来たでありんす」
 暗く、落ち込んでいた三人に比べ、異様なまでのハイテンションでムダニステラはそう言うと、一本の細長い「何か」を彼らに見せ、手渡す。
 その奇妙な物体をしげしげと眺め……やがて、不審その物の表情で、ケガレシアが問いかける。ひょっとすると、「可愛い女幹部」の座が奪われるかもと危機感を持っているからかも知れないが。
「これは、何でオジャルか?」
「蛮機獣のパワーアップアイテムなりよ〜。これを使うと、ちょっと面白い事になりんす」
「こら! 『ナリ』はヨゴシュタインの口癖ゾヨ!」
「真似をしないで欲しいナリ」
「あうわぁ……食いつくトコは、パワーアップじゃなくてそこでありんすか……」
 一瞬だけ驚いたような、そして憐れむような顔をしたが、それでも彼女はにっこりと綺麗に笑うと……
「さあ! スペシャル蛮機獣を作って欲しいのでありんす。わっちはここで応援してるでありんすよ〜」
 無責任とも取れるその一言に、三人は顔を寄せ合い……
「本当にあいつは信用できるのでオジャルか?」
「何か、胡散臭いゾヨ」
「害務大臣と言う肩書きも、微妙ナリ」
「追い返すゾヨ?」
「本当に蛮機族なのか、疑わしいナリ」
「そもそも、蛮機獣が欲しいなら自分で作ればいいでオジャル」
「あうぅ、聞こえてるでありんすよぉ……何なら、わっちを利用するだけって考え方でも良いでありんすからぁ……」
 軽く落ち込みながら、ムダニステラは何とか三人にその気になって貰おうと泣き落としにかかる。無論、そんな物は効きやしないのが蛮機族……ガイアークなのだが。
 しかし、実際こちらとしても行き詰っているのは事実。ならば……持って来た物を利用させてもらうのもアリかも。そして上手くいったらその時の手柄は奪ってしまおう。そんな考えが三人の中に浮かび……その日、一体のスペシャル蛮機獣が生まれた。


 ジャラ、と音を立てながら、一人の男が陰鬱な表情で歩いている。
 彼の名は、矢車(やぐるま) (そう)と言う。
 「闇に身を沈めた男」を自称し、事実彼の身は……いや、精神は、闇に沈んでしまったと言っていい人生を送っている。
 黒い革のジャンパーに、同じ素材のパンツ。ジャラリと言う音は、彼が自らの身に「枷」のように纏っているチェーンの音らしい。
「……世界は……俺には眩しすぎる……」
 目を細め、本当に眩しそうに彼は空を眺める。そうして思い出すのは、彼が亡くした「(相棒)」の事。
 ……本当の兄弟だった訳ではない。だが、その生き様が、そして人生が。自身とあまりにも似通っており、見捨てていられなくなった。だから、「弟になれ」と誘い、二人で闇に身を沈めた。「相棒」と呼び、共に光を疎い、そして己は底辺にいるのだと言う、心地よい痛みに酔いしれた。
 だが……その彼も、矢車すら知らぬ「闇」を知り、そして……
「あれから何年も経つと言うのに……忘れられない、か」
 そう言って彼がポケットから取り出したのは、どこかの写真家が取ったという、白夜の写真。
 「闇に身を堕とした俺達でも、見れる光がある」と、勇気付けられた写真だ。
 一緒に見に行こうと、「弟」と誓った白夜を……彼はまだ、見る事が出来ないでいた。経済的な問題もあったが、何よりも……彼の中ではまだ、整理がついていないのかもしれない。
――我ながら、随分と甘いものだ――
 思いながら苦笑したその時。ポンと肩を叩かれ、振り返る。
 そこに立っていたのは一人の女性。自分よりも僅かに年下といった所か。利休鼠色の、虎のアップリケのついたパイロットジャケットのような物を着ており、脚線美に自身があるのか、随分と短い丈のパンツを履いている。髪はポニーテールに括られており、それなりに愛らしい印象を持つ。
 誰だ、と矢車が問うよりも先に、女性の方が先にむくれたような表情で言葉を紡いだ。
「もぉ! こんな所にいたの、アニ? 探したんだから!」
「何?」
「今日は私と一緒に買い物に付き合ってくれる約束でしょ!? 逃げようたって、そうは行かないんだからね」
 不審に思う矢車をよそに、彼女はポンポンと言葉を投げつけてくる。しかも、矢車の腕をぐいぐいと引っ張って。
 ……どうやら、誰かと勘違いしているらしい。
「悪いが……俺に妹はいない」
「……何言ってるの、アニ?」
「だから、人違いだ」
 呆れたような溜息と共に、冷たくそう言い放ってその場を去ろうとするが……女性がしっかりと自分の腕を掴んでいて離さない。振り解いて立ち去っても良いのだが、随分としっかり掴まれているので、恐らく振り解くのも一苦労だろう。
 そんな矢車の考えをよそに、彼女は頭の先から爪先までを何度もなめるようにして見つめるが……
「そりゃあ、今日は服装がいつもの世界一キラキラな感じとは違うけど……何処から見てもアニじゃない。ね、ジェットラス」
 まるで誰かに同意を求めるように放たれた言葉に、思わず矢車は周囲を見回す。だが、この場には自分と目の前の女性以外誰もいない。
――俺に見えない誰かでも見えているのか?――
 と、少々失礼な事を思った次の瞬間。女性は何やらグリップのような物を取り出し、そこに何か四角い物……正確には長方形の二つの角を斜めに切り落としたような形の六角形の物だったが……をはめ込むと、ヴンと小さな音が鳴ると共に、ホログラムが浮かび上がった。
 虎とジェット機を掛け合わせたような、アニメーション。それがまるで、意思ある者のようにこちらを見やり……
『ギィィン。確かに、大翔以外の何者にも見えないな』
「でしょう? おかしなアニ」
 どうやら自分は、「ヒロト」と言う男と勘違いされているらしい。しかも、どうやらその男と瓜二つのようだ。
 ふぅ、と軽く溜息を吐くと、矢車は自分に出来る最大級で冷たい視線を彼女に送ったその瞬間。
「女性にそんな氷のような視線を送るのは、失礼と言うものですよ?」
「……誰だ?」
 唐突に聞こえてきた声の方に、冷たい視線をそのまま送ると……そこにはギターケースを持った、茶色い服装の男が、小学生くらいの少女を連れてこちらに向かっている所だった。
 その顔に、矢車は覚えがある。好んで関わろうとした事はなかったが為に、顔見知り程度の認識だが。
「女性は花。花に氷は冷たすぎる」
「あなたは?」
「失礼。さすらいのメイクアップ・アーティストです。あなたのように美しい方は見た事がない。例えるなら、海から生まれ出でた美しい……美しい…………」
「『美しい人魚姫』」
「そうそう。それそれ」
 まるで漫才のような掛け合いをする男性と少女。それは、かつて属していた組織、ZECTの誇る鎧、ドレイクの資格者である風間(かざま) 大介(だいすけ)と、彼がいつも連れて歩いていた小さなパートナー、ゴンこと高山(たかやま) 百合子(ゆりこ)だった。ちなみに「ゴン」とは、一時期百合子が記憶を失っていた時に、「名なしの権兵衛」からつけられた通り名のような物である。
 相変わらず、肝心なところで間の抜けた男だと思う。優男(やさおとこ)女誑(おんなたら)し、重度のフェミニスト……発言からはそう取れなくもないのだが彼の場合心の底から「全ての女性は花」と思っている節がある。
 そんな彼の後ろには、見覚えのない団体がいる。青、黄色、黒の、色違いのジャケットを纏った三人組だ。デザインから考えると、矢車の腕を掴んでいる女性の友人か何かだろうか。
美羽(みう)、それに大翔さんも!」
「兄妹仲良く、買い物っすか?」
 黄色のジャケットの女性に次いで、青いジャケットの男がにこやかな笑顔で言葉を放つ。
――……どうやら、余程自分の顔はその「ヒロト」に似ているらしいな。だが、どうせ俺なんか……――
 軽く苛立ちにも似た感情を覚えながら、近寄ってくる三人組と、何故か楽しそうにクックと笑いをかみ殺している風間に視線を送る。
「お前、今俺を笑ったな? ハッ、良いよなぁ、光に愛された奴は」
「私は風。闇も光も関係なく、自由気侭に花の間を行き交う者。しかし花は光のある所で咲き誇る。……光に愛されているのは、私ではなく花の方ですよ」
 囚われない、と言いたいのだろうか。だが、今の風間はゴンと言う存在に充分囚われていると思う。だが、その事に何か感想があるかと問われれば全くない。通り過ぎるだけの存在だと言うのなら、自分の側からも通り過ぎて欲しい。
 風は時に、忘れかけた光の匂いを運んでくるから。
 微かな光の気配に、再度目を顰めた刹那、自分を「アニ」と呼んでいた女が矢車の顔をひょいと覗き込んだ。
「アニ? どうかした? 今日ちょっと変よ?」
「そう言われてみれば……ちょっと雰囲気が違うかも。ほら、スマイルスマイル」
 銀色の女同様、黄色いジャケットの女も矢車の顔を覗き込むと、彼の頬をつまんで無理矢理口角を上げさせる。
 言葉通り、彼に笑顔を作らせるためなのだろうが……その行動に不快感を覚え、自分に出来る最高具合の冷たい視線を相手に送る。
「だから、そんな視線を送るのは失礼と言う物ですよ。送るなら男性に送るべきでしょう?」
「男なら良いんすか!?」
「適当すぎる……」
 矢車の表情を窘めた風間の言葉に、青、黒の順に抗議の声をあげている。
 だが、矢車にとってはどうでも良い。早くこの煩い集団から離れ、自身の望む闇の中へと帰りたい。
 そんな風に思ったその瞬間。
『ウガァァァッツ!』
『ウガッツ!』
 灰色を基調とした、何やら機械のような印象を抱かせる異形達が、前触れもなく現れた。
 しかも……どう考えても、こちらに対して友好的とは言えない雰囲気だ。
 その異形の後ろには、親玉だろうか、黒い……蒸気機関車のような姿の異形が偉そうに立っている。それを見止めるや否や、隣に立っていた女性……多分、美羽と言うらしい彼女は矢車から手を離し、能天気そうに近付いてきた三人組もまた、キリとした表情でその異形達に目を向ける。
「ガイアーク!」
 黒いジャケットの男が叫ぶ。恐らく目の前の異形が、ガイアークと言う名なのだろう。ただ、それが個体名なのかひっくるめてそう言うのかは分からないが。人間を襲う「何か」なのかもしれないが、目の前の連中を助ける義務も義理もない。こちらに襲い掛かってくるようなら、返り討ちにしよう……そう思いながら、矢車は自信の体に巻きついている鎖を、再びじゃらりと鳴らす。
 その音に反応するように、灰色の、おそらくは雑魚と呼んでも差し支えなさそうな異形達が、一斉に彼らに向かって襲い掛かる。
 それに反応するように、風間はゴンを後ろに下がらせ、どこからか自身の変身アイテムであるドレイクグリップを構える。が、それよりも一瞬だけ、カラフルなジャケットを着た面々が声を上げる方が早かった。
『チェンジソウル、セット! Let's, Go-On!』
 綺麗に重なった声を訝しく思い、矢車は軽く眉を顰めて隣の女性を見やる。
 次の瞬間、そこに立っていたのは「銀色の戦士」。青、黄色、黒のジャケットの面々も、対応する色のボディスーツを纏った戦士になっている。
 デザインとしては同じ種類の戦士かもしれない。車を連想させる三人組とは異なり、銀色の彼女だけは僅かに飛行機のようなデザインも含まれており、彼らとは違うようにも見えるが。


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ