クロスシリーズ

□五色の戦士、仮面の守護
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「まさか……脱皮した!?」
「そんな馬鹿な。さっきまでだってクロックアップしてたんだぞ!?」
 基本的に、ワームはサナギの時にクロックアップは出来ない。しかし、キカンシャバンキ……いや、リニアバンキは、ワームで言うサナギ、つまりキカンシャだった時からクロックアップし、こちらを翻弄していた。
 それが不自然に思えたのだろう、ぜいぜいと息を吐きながら、加賀美は風間の言葉に対し、半ば怒鳴るようにそう声を上げた。その、刹那。
「遅かった、か。他の連中はどうでも良いけど、兄貴までやられるのは嫌だなぁ……」
 そんな声が、矢車の耳に届く。そして、その声の方向には……自分と同じデザインの、黒い飛蝗の姿。
「おま、え……」
 図らずも声が掠れるのを感じながら、思わず矢車は手を伸ばし、近寄ってくる黒い飛蝗の腕を掴む。
 二度と会えないと思っていた相手。共に闇の中の光を見ようと誓った存在。そして……己が手にかけた、最高の……
「相棒……」
「ごめん兄貴。遅れた」
 笑みを含んだ声でそう返す存在は、黒の飛蝗、パンチホッパー。それは漆黒の影を纏い、屍の山を瞬く間に築く男、影山(かげやま) (しゅん)が変身した姿……


「おお! パワーアップしたゾヨ!」
「キカンシャバンキが、リニアバンキになったでオジャル」
「さすが、害務大臣殿の持ってきた物ナリ!!」
 一方、ヘルガイユ宮殿では。キカンシャバンキからリニアバンキへと進化……と呼んでも過言ではない変化を遂げた蛮機獣を見て、三大臣がわいわいとはしゃいでいた。
 しかしその一方で、「パワーアップアイテム」を持ってきた害務大臣……ムダニステラは、形容し難い、複雑な表情でそれを眺めている。
「……いや、これはちょっと……わっちも驚きでありんすよ」
「どういう意味ゾヨ?」
「今回持ってきた『アレ』は、確かに『ワーム』の力を記憶した物でありんすが……通常ならせいぜい、擬態能力とクロックアップが出来るだけの物であったはず。脱皮までは出来ないはず……でありんした」
 言葉をそのまま受け取るならば、リニアバンキへの進化は彼女にとっても予想外だったと言う事らしい。
 それでも、悪い方向の「予想外」ではないのだろう。確かに渋面を浮かべてはいるが、進化したと言う事はそれだけ強くなったと考えるべきだ。
「劣化した訳じゃないなら構わないでオジャルよ」
「今日こそゴーオンジャーを倒し、ヒューマンワールドを我らの住みやすい、汚れた世界に変えるナリ」
「やるゾヨ、リニアバンキ」
 どこまでもポジティブに物事を考える三大臣を一歩引いた位置から眺めつつ、ムダニステラは冷静に今起こった状況を分析する。
――って事は、これは効き過ぎたと言う事でありんすかねぇ。って事は、確実に大きな負担がかかっている、と考えるべきでありんしょうが…………――
「そんな事、わっちの知った事じゃあありんせん」
 小さく、それこそ三大臣の耳には届かない程の声でそう呟き……彼女はその口元を、邪悪に歪めたのであった。



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