クロスシリーズ

□五色の戦士、仮面の守護
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【08】



 黒の飛蝗……パンチホッパーこと、かつて闇の中へ沈み、そして死んだはずの影山瞬の登場に、ライダー達の動きが止まった。
「お前は……」
「俺もそこの蠍と同じ。ワームの擬態だ。だから……この一戦が終わったら、また兄貴の手で、俺を闇の底へ叩き返してくれないか」
 それまでは、また兄貴の弟として戦いたい。そう付け加え、現れたパンチホッパーは並み居るウガッツを殴り飛ばし、リニアバンキまでの道を開く。
 だがそいつは、もう一度「影山瞬」という存在を手にかけろと言う。喪った者は二度と戻らない。その事は理解しているし、数年かかったが納得もした。
 それなのに……今また、ワームの擬態とは言え、同じ顔、同じ声、同じ性格をした存在が帰ってきた。
 ……ひょっとしたら、ワームと言う存在の本来の存在意義は、そう言った「喪った悲しみを癒す為」にあったのかもしれない。
 大切な人を喪い、悲しみに暮れる存在を、その「大切な人」に成りすます事で癒す。その見返りに、人間社会の中で平和に暮らしていく……それが、いつの間にか「人間を滅ぼすための擬態」へと目的が変わったのかもしれない。
 何故か、加賀美は現れたパンチホッパーを……そして隣で戦うサソードを見て、そう思った。
 矢車が悲しんでいたから、「彼」は影山に擬態したのかもしれない。そして、この場にはいない岬祐月が悲しんでいたから、「こいつ」は神代に擬態したのかもしれない。
 その上で……彼ら自身が耐えられなかったのだろう。自分が、ワームである事に。だから「殺せ」と頼んだ。
 ……随分と、残酷な仕打ちをする物だ。例えそれが仮初の姿でも、その姿の者が死んだら、悲しむ人間がいると言うのに。
「そいつは、お前達の仲間か?」
 何も知らない大翔が、矢車と影山を見比べながら問いかける。色こそ違え、同じデザインの二匹の飛蝗。だからこそ「仲間か」と問いかけたのだろう。
 その問いに、矢車はフンと鼻で笑い……
「『仲間』? そんな生温(なまぬる)い物じゃない」
「何?」
「こいつは俺の……相棒だ」
 そう言うと同時に、矢車は影山の後ろに佇んでいたワームを蹴り、粉砕する。同時に影山も、矢車の後ろにいたウガッツを殴り飛ばす。
 その様子と彼の答えに納得したのか、大翔も軽く頷き……
「成程な。なら……俺達も行くぞ、相棒」
『了解だぜ、アニキ!』
「トリプターソウル、セット。Go-On!」
『バタバタバタバター!!』
 ウィングブースターにセットされた、炎神トリプターのソウルが、エネルギーとなって敵を粉砕する。その後を追うようにして、影山が走り、取りこぼされた敵を、殴り飛ばす事で完全にその息の根を止めていく。
『へへっ! アニキと俺のコンビネーションは凄いだろ!』
「はっ! 笑えよ。どうせ俺なんか、兄貴がいなきゃ、俺は何も出来ないんだから」
『うっ……それを言ったら、俺っちの方が何も出来ないと思うんだけど……』
 暗く、陰鬱なのは鎧の色だけではなかったらしい。トリプターまでも影山のネガティブな空気に巻かれ、自己嫌悪に陥りそうになる。
――そうだよ。どうせ俺っちも、ヒューマンワールドじゃアニキがいなきゃただのお荷物……――
「……トリプター、俺はお前が相棒で良かったと思っている。俺の相棒はお前しかいない。……分るな?」
 周囲を巻き込んでのネガティブ思考に呑まれかかっているトリプターに気付いたのか、大翔が溜息混じりにそう言葉を放つ。
 大翔とて、トリプターと出会わなければ、今ここにはいない。おそらくは窮屈な社交界で愛想笑いを浮かべ、これが己の限界と諦めていただろう。そんな諦念を……そして限界を(ブレイク)したのは、他でもないトリプターだ。
「俺はお前と言う相棒を持てて誇りに思う。お前は、違うのか?」
『……アニキ……そんなの、俺も誇りに思ってるに決まってる!』
 感極まったように、アニメーションのトリプターの絵の目元には涙が浮く。それを横で眺め、影山は深い溜息を吐き出し……そして、陰鬱な声で言葉を吐き出した。
「良いよなぁ、キラキラ光ってる奴は。光に愛されてて。どうせ俺なんか……」
 その声に、いつの間に隣に立ったのだろう。矢車が影山の肩を軽く叩き……
「相棒、俺達は光に愛されていない分、深い闇に愛されてる。……それ以上を望むのは、贅沢だ」
「……兄貴……っ!」
 今の言葉のどこに感極まる部分があったのかは分らないが、影山には心打たれる「何か」があったらしい。嬉しそうに仮面の下で笑うと、襲い掛かるワームやウガッツを殴り飛ばす。
「なら……やるぞ、相棒」
「ああ、兄貴!」
「ライダーキック」
『Rider Kick』
「ライダーパンチ!」
『Rider Punch』
 大きく……その飛蝗に似た外見その物のように。二人は高く飛び上がると、その足に、そして拳にタキオン粒子と呼ばれるエネルギーを纏い、交差するようにして敵を蹴散らし、殴り散らす。
 遠距離から打ち抜く光と、近距離から蹴り抜く闇。そんな好対照な二組の「兄貴と相棒」が、いつの間にかリニアバンキへの一本道を開いていた。それに気付き、真っ先にその道を走ったのは、二人の「赤」……天道と走輔。
「サーベルストレート!」
 叫びながら、まずは走輔がロードサーベルで横に一閃。そしてそのすぐ後ろを、天道がカブトクナイガン・アックスモードで縦に一閃する。
 しかし……手応えがない。
 斬った物が、リニアバンキの残像だと気付いた瞬間、走輔の体は大きな衝撃と共に宙を舞っていた。
――高速移動って奴かよ!――
 心の中で毒吐きながら、走輔は隣に走っていたはずのもう一人の「赤」の姿を探す。しかし、その姿を自分の視界に捉える事は出来ない。おそらくは、彼もまた「クロックアップ」なる高速の世界に突入した為だろう。
 走輔には、それがとても悔しかった。
 スピードに自信があったのに追いつけない……と言うのも多分にある。だがそれ以上に、相手が蛮機獣でありながら、それに対して一切手が出せないという事実の方が、悔しい。協力したいのに、自分が動けば足手纏いにしかならない。
 正義の味方は、世界を守ってこその存在なのに。
 そんな焦りを感じたのか、リニアバンキの攻撃から立ち上がった走輔に、神代が声をかける。
「おい、そこの赤いの」
「色で呼ぶなよ。俺には江角走輔って名前が……」
「そんな事より、蛮機獣に対抗したいのだろう?」
 そう言って……神代は、一つのソウルを走輔に手渡した。
 ……カミサマの使いから贈り物だ、と苦笑めいた声と共に。


 一方、天道の方はそのリニアバンキ相手に激しい攻防を繰り広げていた。
 クロックアップした上で、それでも相手のスピードは自分を僅かに上回っている。ハイパークロックアップをした状態なら何とかなるかも知れないが、それも攻撃が当たらなければ意味がない。
 リニアモーターカー……定義はいくつかあるのだが、ここでは「磁気浮上式鉄道」の事を指す。これは、電磁石の力を用いて車体を浮上、推進させる事で摩擦による減速を低減させた乗り物だ。
 その原理を利用しているのか、敵の体は地面から僅かに浮いており、減速する気配がない。それどころか地面からの摩擦がない事を利用し、動いている際に発せられる音も、空気抵抗によって生まれる甲高い音だけと言う静かさ故に、居場所が掴み難い。
 そもそも、何と反発し合って浮いているのかは分らない。だが、そこはガイアークとか言う組織が関わった異形だ、地球その物と反発しているのかもしれない。
 相手はおそらく、何らかの形でワームの能力を手に入れた蛮機獣だろう。通常のワームならば、こんな動きはありえない。と、言うか耐えられない。機械の体だからこそ、こんな無茶なスピードを出し、無茶な攻撃が繰り出せるのだ。
 しかも……相手は、その「反発する力」を上手く利用して、自身に向けられた攻撃を、僅かにだが曲げている。カブトクナイガンは、天道が纏う鎧と同じ、ヒヒイロカネという「金属」で出来ている以上、磁場の影響は少なからず受けてしまう。
 近接戦は向かないとなると、銃撃戦に持ち込むしかない。しかし、相手が距離をとる事を許さない。結果的に、近接戦になってしまうのだ。
――さて、どうするか――
 圧倒的に不利な状況下であるにもかかわらず、天道は冷静に周囲を見回し、事を焦らない。
 天の道を往き、総てを司る者。それが天道だ。だからこそ、彼が強く望めばそれが叶う。少なくとも、彼の祖母はそう言っていた。だからこそ……望む。今、この状況を打破する事の出来る方策を。
 そんな風に思った瞬間。
「ライダーシューティング」
『Rider Shooting』
 その音は、天道自身の後ろから聞こえた。それが、クロックアップした風間の放った攻撃だと気付くと同時に、天道は大きく横へ跳び退り、エネルギー弾の弾道をあける。
 だが、それすらも予測していたのか。リニアバンキは天道とは逆方向へ飛び、目標を見失った銃弾は近くの岩場にぶつかって弾け飛んでしまった。
『Clock Over』
「そんな……ある程度の追尾は可能のはずですが!」
「その速さを上回る敵、と言う訳だ」
「……どうしろと言うんです、そんな相手」
 通常時間に回帰し、半ば呆れたような声で言いながら、風間は天道に声をかける。
 その一方で天道の方は、いつの間にやらその手に銀色のプラスパーツ、ハイパーゼクターを構えていた。
「ハイパークロックアップで闘う。おそらく、勝算はそれくらいだろう」
「そう言う事なら、俺も行くぞ、天道!」
 いつの間に側にいたのか、加賀美もその手にハイパーゼクターを構えている。
 ……以前、「別の歴史」へ向かった際に手に入れた、ハイパーゼクターが。
『ハイパーキャストオフ!』
『Hyper Cast Off』
『Change Hyper Beetle』
『Change Hyper Stag Beetle』
 天道と加賀美の纏う鎧が更に変化し、二人の「角」の部分が一回りずつ大きくなる。
「風間、その辺の雑魚は頼む」
「やれやれ。突風からそよ風に……と言う訳ですか」
 加賀美の言葉に、苦笑気味に返しながら風間は、いつの間にか二人の女性とはぐれてしまったらしいゴンを標的に定めたらしいウガッツに向かって容赦のない連射をぶちかます。
 何だかんだ言って、風間にとってゴンは大切な存在なのだ。
「ゴンもまた美しい一輪の花。それを散らそうとする風は疎ましい物ですからね」
 そう呟き、彼は小さな百合の花を守る微風となるべく、駆け出していった。


「へっへ〜ん! そんじゃ、マッハ全開でぶっちぎるぜ! 準備は良いか? 相棒!」
『勿論だぜ、走輔!!』
「そんじゃぁ……ハイパークロックアップソウル、セット!」
『Hyper Clock Up』
 神代から渡されたソウル……それは「ハイパークロックアップソウル」と呼ばれる物らしい。彼曰く、この世界に来る前に、黒尽くめの自称「神の使い」から、「多分役に立つと思うよ〜」と言う一言と共に押し付けられた物だそうだ。
 正直、その「神の使い」とやらを胡散臭いと思ったが、これが自分達に与えられた対抗手段だと言うのなら、やらないよりもやった方が遥かに良いはずだ。
 そして走輔は、何の躊躇もなくマンタンガンにソウルをセットする。その瞬間、天道達「仮面ライダー」の物と同じ電子音が彼の耳に届いた。
 そう認識した刹那。走輔のスーツが強化される。天道達のような「鎧」ではないが、自分達のスーツをより強固にしたような印象だ。スピードルに似せたメットは、より嘴部分が大きく突き出し、肩にはショルダーガードのような物がついている。握っていたマンタンガンは一回り大きくなり、左手に持っていたロードサーベルは刀身が自身のスーツと同じ、真紅に染まっている。
 周囲の動きがスローになり、ウガッツの動きもそれを蹴散らす仲間達の動きも、皆全て遅すぎるように思える。唯一まともな速度で動いているのは、敵であるリニアバンキと、それと戦う天道と加賀美。それが分ると同時に、走輔はすぐに認識を改めた。
 周囲が遅くなったのではない。自分が……それこそ、「マッハ全開」の高速の世界へと突入したのだと。
 よく考えて動かなければ、おそらく自身が引き起こす衝撃波で仲間をも傷つけかねない。そう認識し、走輔はまずリニアバンキを仲間から遠ざける事を思いついた。
 先程リニアバンキに攻撃された際に、自分の感じた衝撃の大きさを考えると、あながち考えすぎとは言えないだろう。
「行くぜ、相棒!」
『ドルドル! ここからが本当のスピードキングだぜ!』
 言うが早いか、走輔はリニアバンキに向かって一気に駆け出し、その体をロードサーベルで縦一閃に斬り裂く。が、それは妙な手応えと共に僅かに反れ、致命傷には至らない。とは言え、まさか走輔までもが高速移動出来るとは思っていなかったらしく、リニアバンキは小さな悲鳴を上げ、加賀美はあからさまに驚いたような声を出した。
「あんた……クロックアップできたのか!?」
「へっへ〜。正義の味方は、最後の最後で逆転の手段を手に入れるんだっぜ!」
 そう言うが早いか、今度はマンタンガンを構え、相手を見据える。同時に天道と加賀美も、腰につけたハイパーゼクターの角を倒し、その足にタキオン粒子を纏わせた。
 それが、最後の一撃と言わんばかりに。
「いかに電磁石と言えど、こちらの力が強ければ反発する力も保たない」
「つまり、エネルギー最大のこの攻撃を反らせるかって事だ!」
『Maximum Rider Power』
『ハイパーキック!』
 天道と加賀美の声が重なり、二人分のハイパーキックがリニアバンキの体を捉える。そして直後……
「スピードルソウル、セット! Go-On!!」
『ドルドルドルドルー!!』
 音速を超えた、超速の弾丸がリニアバンキの胸を貫き、ドォンと爆音が鳴り響き、リニアバンキを中心に小規模な爆発が起こる。
 倒したのだと思った、まさにその瞬間。爆発の中心にいた「それ」は、煤だらけのボロボロになりながらも両手を挙げ……
産業革命(サンギョーカクメー)!」
 最後の足掻きと言いたげに声を上げると、リニアバンキの体が見る間に巨大化していく。
 十メートルや二十メートルでは利かない。恐らくは五十メートルを超えるだろう。
「ええぇぇぇぇ!?」
 仮面の下でぎょっと目を見開き、加賀美が抗議じみた声を上げる。そのすぐ脇では風間と神代が呆れたようにその巨体を見上げ、数歩分離れた場所に立つ矢車と影山は忌々しげに舌打ちを鳴らし、走輔の側に立っていた天道は、ほうと感心したような声を上げた。


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