クロスシリーズ
□五色の戦士、仮面の守護
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正拳突きだ、と理解するのに半瞬、そしてそれを相手がかわしたと理解するのにもう半瞬。
全部で一瞬と言う、拳士にとっては充分すぎる時間をかけた後、ジャン達は弾かれたようにリンリンシーに向かって駆け出し……
「研ぎ澄ませ、獣の刃!」
「響け、獣の叫び!」
『滾れ、獣の力!』
『ビースト・オン!!』
最後の「ビースト・オン」と言う言葉だけは綺麗に重なり、スクラッチの誇る最新技術の結晶であるスーツが、ジャン達の体を覆う。
それを見止めるや、仮面の戦士とそれに守られていた青年は不審そうに首を傾げ、リンリンシーの方は忌々しげに大きな舌打ちを鳴らす。
「ゲキレンジャーかっ!」
「やい、ゾワゾワ! お前達の好きにさせない!!」
言葉とほぼ同時に、ジャンは武器の一つであるゲキヌンチャクを取り出すと、勢い良くそれを振り抜きリンリンシーの肩を叩く。
その攻撃でバランスを崩し、よろめいた所を見逃さず、今度はランとレツの蹴りが相手の胸部へと極まる。
「ふぐぅっ!」
胸への直撃のせいで肺の空気が押し出されたらしい。呻くような声と共に、盛大な呼気がその口から漏れる。
呼吸は拳法を扱う者にとって大切な要素である。それを乱され、目を白黒させながらも何とか自身のペースを取り戻そうとリンリンシーは何度か呼吸を繰り返す。
しかしそこへケンの追撃。サイブレードによる首へのチョップが、整えた呼吸を再び乱す。
「うぐ、ふっ、ふぐぅっ……」
――ここで倒されては、何の意味もない。今は亡き三拳魔の皆様方の顔に、泥を塗る結果に……!――
思い、一時退却すべくリンリンシーはばさりと羽根を広げる。
逃げる、と言う意図を察したのか、二つの影が相手を逃がすまいとそちらに向かって駆ける。
方や紫、そして方や赤い光を纏う銀。二つの影はほぼ同時にリンリンシーの前で拳を固め……
「逃がすか! ゲキワザ、厳厳拳」
「逃がすかよ。お前には聞きたい事があるんだ」
『……何?』
まさか自分以外にも、と言う思いがあったのだろうか。紫……ゴウと、銀……見知らぬ戦士と化した青年の動きが一瞬鈍る。
その一瞬を機と取ったのだろう。リンリンシーはその拳が自身に届く寸前で大きく宙へと飛びあがり、拳の方は空しくも空をきるのみ。
「チィ、分が悪い上に鬱陶しい……人間を襲うのは、また今度にしてやる」
言いながら、リンリンシーはばさりと羽根を翻すと、そのまま後ろも見ずに飛び去ってしまう。
鷲の見た目は伊達ではないのか、ほとんど無音に近い風切り音を鳴らしながら、リンリンシーの姿は見る間に小さくなっていく。
「しまった!」
「おい、逃げるなハゲワシ!」
一応そう怒鳴るのだが、それで逃げない悪役はいない。リンリンシーはリンシーと共に、どこかへと飛び去ってしまった。
後に残ったのは、大量の灰と瓦礫、そして仮面の戦士とそれに守られていた青年。
この現場の意味する事を、ゲキレンジャーはまだ、知らなかった。目の前に立つ、「狼だった青年」の正体も、そして……先程のリンリンシーが、ほんの少しだけ「変質」していた事も。