クロスシリーズ

□五色の戦士、仮面の守護
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【Task13:古代の戦士】



 命がけの冒険に、今日も旅立つ者がいる。
 密かに眠る危険な秘宝を守り抜くために、あらゆる困難を乗り越え進む、冒険者達!


 サージェス財団。
 民間の団体でありながら、世界各地で失われかけた貴重な宝を保護、管理する団体である。
 保護した宝の多くは、所有する博物館に展示し、一般に公開もしているが、回収した中には、強大な力を秘めた秘宝、プレシャスも存在しており、そちらはその力の大きさ故、悪用されぬよう厳重な保護と迅速な回収を行っている。
 そのプレシャスの回収に向かう実働部隊が、「轟轟戦隊ボウケンジャー」。明石(あかし) (さとる)をチーフとし、伊能(いのう) 真墨(ますみ)最上(もがみ) 蒼太(そうた)間宮(まみや) 菜月(なつき)西堀(にしほり) さくら、そして高丘(たかおか) 映士(えいじ)の六人で構成されている。
 そして今、長野県のある山奥に「霊石」と呼ばれるプレシャスがあると言う情報を受け、ボウケンジャーはその場所へ霊石回収のミッションとして、向かっている最中であった。
「それにしても、霊石か……何て言うか、ちょっと曖昧だよな」
「曖昧?」
 崖を登りながら呟いた真墨の言葉を聞きとめたのか、菜月は可愛らしく首を傾げながら問い返す。
 かなり急な崖であるにも関わらず、誰一人として息を切らせていない辺りは、流石にプロだ。
「霊石って言うと意味が大分広いからね。『賢者の石』とか『龍顎(りゅうあぎと)の玉』とかも、霊石の一種って扱いになるよ」
「つまり『霊石』とは、『不思議な力を持つ石』の総称です」
 蒼太の言葉をさくらが継ぐ。教えてもらった方は、へぇーと間の抜けた声を返すが……果たしてわかっているのかどうか、微妙なところである。
 もっとも、菜月のそんな態度はいつもの事ではあるのだが。
「ま、どっちにしろプレシャスなんだろ? 回収するに越した事はねぇってこった」
「シルバーの言う通りだ。ネガティブ達がいる可能性もある。充分に注意しろ」
「はーい」
「了解です、チーフ」
 元気に返事を返す菜月と、真面目な答えのさくら。両極端な答えだが、彼女達らしい返し方だ。
 フ、と口の端に笑みを浮かべながら明石が思ったその時、彼の視界に小さな洞窟のような物が目に入った。
 山の中だ、洞窟がある事自体はそれ程不思議ではない。動物の巣穴、植物の存在していた跡など、様々な要因で洞窟は出来る。
 だが……今回見つけた洞窟は、そんな風に自然に出来た物ではなさそうだと直感した。
 それは他のメンバーも同じらしい、まずは真墨が洞窟の入り口を軽く眺め……ニヤリと笑った。
「明石、こいつはやっぱり人工物だ。それも……かなり古い」
「つまり、遺跡って奴か」
「そうみたい。だけど……」
「入り口は破壊されています。それも、つい先程」
 てきぱきと周囲を調べ始めていた蒼太とさくらが、この洞窟……否、遺跡の入り口だった物と思しき欠片を見せる。
 かなり強引な力で開けられたらしく、粉々、と言う表現をしても差し支えない程度には砕け散っていた。
――ネガティブに先を越されたか――
 思うと同時に、明石の表情がきゅっと締まる。プレシャスの力を悪用しようとする存在を、一括して「ネガティブシンジケート」と呼ぶ。
 ネガティブの中にも様々な組織があるが、その中でも特にボウケンジャーと関わるのは、神官ガジャが率いるゴードム文明、龍の力で世界を支配しようとする創造王リュウオーン率いるジャリュウ一族、己の経済利益のために動く忍集団、幻のゲッコウ率いるダークシャドウ。
 そして厳密にはネガティブとは言えないのだが……人間駆逐を目的に動く、クエスターが挙がる。
 ネガティブからプレシャスを守る事がボウケンジャーの任務。もしもどこかの組織が既にこの場所にあるとされている「霊石」を持ち去った後だとしたら……うかうかしている場合ではない。悪用される前に、何としてでも取り返し、保護しなければ。
 そう思った矢先、遺跡の中を覗き込んでいた菜月が、ふと不思議そうな顔をして明石の袖を引っ張った。
「どうしたイエロー?」
「チーフ、何か……変な音がしない?」
「変な音……?」
「うーんとね、ガギィンとか、ゴッって感じの音」
 菜月の言葉に軽く眉を顰め、遺跡の中から響く音に耳をすませる明石。
 それに倣う様に他の面々も耳をすませ……そして、それが戦いによるものだと気付くのに、そう時間はかからなかった。
 聞こえてくるのは気合と共に吐き出される呼気と、争いによる喧騒。音が反響している事を考えると、遺跡の奥の方で戦っているらしい。
「ひょっとして、中でプレシャスの取り合いでもしてるのかな?」
「可能性は否定できないな。全員、警戒しつつミッションを遂行する」
 菜月の言葉に深刻に頷きつつ、明石はパチンと指を鳴らして端的に指示を下すと、気配を殺しながら奥へと進む。それに続くように、真墨、菜月、蒼太、さくら、殿(しんがり)に映士の順で曲がりくねった……だが、分岐のない一本道を歩む。
 山の中、それも最近まで封印されていたような場所であるにも関わらず、空気はそれ程澱んでいない。むしろ、清々しい印象すらある。
 壁そのものが淡い光を放っており、神秘的な雰囲気を醸し出している。
 恐らく、現代には既に存在しない鉱石の類で出来ているのだろう。
――霊石があると言う話は、当たりかもしれないな――
 心の中でのみ呟きつつ、更に奥へ進む。
 神聖な空気の中、それに似つかわしくない戦いの音。次第に近くなるそれに警戒しながらも、ようやくその音源の元へ到着した。
 どうやらこの遺跡の最奥らしい。広い空間と、突き当りには祭壇らしき物、そしてその中央に淡く輝く石がある。
 そしてその清浄な空間の中で、茶色っぽい蝙蝠を連想させる異形と、赤い鍬形を連想させる異形が激しいバトルを繰り広げていた。
「何だ? ネガティブ同士の争いか?」
「わからん。だが油断は禁物だ」
 真墨の訝しげな問いに冷静に答えつつ、明石はじっと事の成り行きを見ている。
 本来ならこの争いを止めて、プレシャスを回収すべきなのだろうが……冒険者の勘とでも言うべき物が、彼にこの戦いを見守るように告げていた。
「バゼ、ボボビギス、クウガ!?」
「相変わらず、何を言ってるのか分らないな……」
 蝙蝠の方の言葉の意味は不明だったが、鍬形の方は明らかに日本語。しかも彼にも蝙蝠の言葉は理解し難いらしい。どこか苦笑の混じったような声が、鍬形から漏れていた。
 向かい来る蝙蝠の攻撃をかわしながら、鍬形は足を突き出し、カウンターの要領でその腹部を蹴りつける。
 その威力が大きかったのか、近くの壁に叩きつけられると、蝙蝠は呻くような悲鳴を上げて力なくその場に崩れ落ちる。
 止めを刺すには絶好の機会だが、どういう訳か鍬形の方は躊躇したように蝙蝠を見やる。
「こんな狭い空間で倒す訳にも行かないし……だからと言って放っておく訳にも……」
 呟かれた言葉は、心底困ったような色が窺える。
 蝙蝠を倒すと言う意思はあるようだが、ここで倒すつもりはないらしい。どういう理由かはわからないが、ここで止めを刺すには何か問題があるのだろう。
 ……それにしてもと、明石はその二体の異形を見ながら不審に思う。
 今まで出会ってきたどのネガティブシンジケートとも異なるフォルム。強いて挙げるならアシュやクエスターに似ていなくもないが、それも少々違う気がする。仮に相手がアシュだとしたら、真っ先に映士が反応するはずだ。
――新手のネガティブか?――
 そんな可能性が明石の頭を掠めた瞬間、蝙蝠はこれ以上の戦いは不利と判断したのか、ばさりと羽を羽ばたかせ、鍬形との距離を広く取り……
「ガサダバゲゲルン、ラブガベザ、クウガ!」
 悔しげな……しかしどこか楽しげな、まったく正反対の気質を兼ねた声でそう言うと、蝙蝠は鍬形から逃げるべく唯一の出口……つまり明石達のいる方へ向かって飛んできた。
 それが危険だと判断するのと、反射的に変身ツールであるアクセルラーを構えたのはほぼ同時。明石は瞬時に遺跡の壁でアクセルラーに付いているタービンを回し、赤いアクセルスーツを纏った「熱き冒険者」……ボウケンレッドへ変身、腰のホルダーに下げていたサバイバスターで蝙蝠に対して威嚇射撃を行った。
「バビ!?」
「へ!?」
 明石の射撃に反応し、蝙蝠の驚愕の声と、鍬形の間の抜けた声が響く。おそらくはこちらの存在に気付いていなかった為だろう。
 だが、今は鍬形よりも先に蝙蝠の方を相手にする事が先決と判断すると、明石は油断なく銃口を慌てて飛び退った蝙蝠に向け直す。
 自分の後ろでは、明石に倣って他の面々も変身しているらしい。僅かに視界に入ったさくらの銃口は、油断なく鍬形の方へ向いている。
 鍬形の方は困ったように両手を挙げているが、どうやら蝙蝠の方は先程の明石の攻撃に怒りを覚えたらしい。瞳に憎悪を湛え、忌々しげに低く唸るとその口を大きく開け……
「ザラゾグスバ、リントゾロ!」
 そう吠えたかと思うと、再び蝙蝠は勢い良く明石に向かって襲い掛かる。
 その行動をもって、明石は蝙蝠を「敵」と判断。相手の左の翼を撃ち抜くと、すぐさまサバイバスターにスコープショットをセット、サバイバスターをスナイパーモードに変え、右の翼も撃ち抜いた。
 両の翼を撃ち抜かれた蝙蝠は、宙を舞う事が出来なくなり、床にどさりと派手な音を立てて落ちる。
「クライマックスシュート!」
「え!? ちょっと、危険で……」
「危険?」
 そこを見逃さず、映士を除く五人の射撃の気配に気付き、鍬形がそれを止めようと手を伸ばす。しかし、既に引鉄を引かれた五つのサバイバスターはその銃口からエネルギーを放ち、蝙蝠の腹部を撃ち貫く。
 その瞬間、蝙蝠は反射的にぎゃあと喚き……そのまま地に伏せ、赤い血を流しながらも絶命した。
 一方で、明石達を止めようとしていた鍬形の方は、しばらくの間身を強張らせていたが、彼の言う「危険」が起こる気配がないと察したのか、ゆっくりと警戒を解き……
「ば、爆発しなかった……?」
 ほっとしたような、驚いたような、何とも言えない声を上げながら、鍬形の異形は明石達の方へ歩み寄ろうとする。
「動くな」
「ええっ!?」
 蝙蝠のような敵意は感じられないが、それでも不審な存在である事には変わりない。近寄る赤い鍬形の異形……と言うよりも戦士らしき存在に向けて、明石はサバイバスターの銃口を向けなおす。
 こちらの行動に驚きの声と両手を挙げて害意がない事を示してはいるが、用心するに越した事はない。
 未だ彼がネガティブである可能性は否定できないし、この遺跡の守護者(ガーディアン)と言う可能性も捨てきれないのだから。
「ハザードレベル……『2000』!?」
「つまり、それだけ危険って事!?」
 明石の後ろで、さくらは鍬形に向けてハザードレベルを計測していたらしい。その数値が示されるや否や、冷静な彼女らしからぬ驚きの声が上がる。
 それにつられてなのか、蒼太もやや上ずった声を上げ、鍬形の方を見やる。
 存在その物がプレシャスなのか、それともプレシャスを持っているのかは不明だが、どちらにしろ危険度を示すハザードレベルが「2000」と言うのはただ事ではない。
 通常、三桁でもかなりの脅威とみなされるのだ。それを軽く超えた「2000」と言う数値は、使い道によっては世界を破壊しかねないレベルと言っても過言ではない。
 色々と聞きたい事がある物の、当初の目的はこの場にある「霊石」の回収。内心の驚愕を隠しながらも、明石は真墨と菜月の方を見やり、指示を出す。
「ブラック、イエロー。霊石の回収は任せた」
「ああ」
「了解」
 出された指示に小さく頷き、真墨と菜月は鍬形の方に注意しながらも祭壇に向かい、そこに静置されていた丸い水晶の様な石をプレシャスボックスと呼ばれる箱に納め、回収する。
 勿論、その水晶からプレシャスとしての反応がある事を確認した上で。
「それで、お前は何者だ? 何故ここにいる?」
「いや、俺……」
 両手を挙げたまま、困ったような声で言った鍬形がひょいと肩をすくめた瞬間。その体が僅かに光り、次の瞬間には自分達と違わぬ「人間」の姿になっていた。
 見た目は明石より少し年上、やや下がり気味の眦に、人の良さそうな笑顔を浮かべた青年。服装から考えると、自分達と同じ「冒険者」と言う印象の装備を持っている。
「俺は、五代(ごだい) 雄介(ゆうすけ)って言います。ここに来た理由は、もちろん冒険しに」
 にっこりと、敵意どころか悪意すらなさそうな素敵な笑顔を明石達に向け、「五代雄介」と名乗ったその男はそう言うと、すぐに不思議そうな表情になって、逆に問う。
「そう言うあなた達こそ、何者なんですか?」
 と……


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