クロスシリーズ

□五色の戦士、仮面の守護
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 その頃、ガジャの前には菜月とさくらの女性二人、そこに五代が加わる形で立ち塞がる。
 そして軽くガジャの周辺に視線を向ければ、そこにはつまらなそうな表情でさくら達を見やる軍服姿の男と、先程「霊石の遺跡」で倒したはずの蝙蝠型の怪人の姿。そして彼らを盾にするようにして、ガジャは不気味に笑ってこちらを見ていた。
「あの蝙蝠は、先程『霊石の遺跡』で私達が倒したはずでは!?」
「それに、そっちの人も五代さんがやっつけたはずなんだよね?」
「残念だったな。そこの蝙蝠は、ゴードムエンジンによって生まれ変わっておる。そしてこやつもまた、ゴードムエンジンとは別の要因で生まれ変わった存在よ」
 さくらと菜月の問いに、ガジャはクックと楽しげに笑いながら答えを返す。
 どうやら高みの見物を決め込んでいるらしく、ガジャ本人が動く気配はない。それは救いなのか、あるいは彼の余裕の表れなのか。
 どちらにせよ、油断は禁物。思い、さくらはさっと身構えた。
「じゃあ、クエスターみたいな物!?」
 悲鳴にも似た菜月の声を合図に、蝙蝠型の怪人は妙に甲高い笑い声をあげて、女性二人に向かって飛び掛かかる。
 一方で軍服の男は、鋭い視線を五代に向け……
「ゴラゲゾダゴグボドグ、ゴセンザギバスゲゲルザ」
 低く、そう呟いたのである。


 更に別の場所。クエスターの前には、蒼太と映士の二人が立っていた。
 こちらも、普段の彼らとは少し違う。手持ちの武器が一回り大きくなっており、腰には見慣れぬ、金色のベルトが巻きついている。
「どうなってやがる!? クエスターの連中もやたらごつくなってるぞ!?」
「ネガティブが全員、パワーアップしてる……って事かな?」
 瞬時に自身達が置かれた状況を察したのか、蒼太は映士の声に鋭く答えながらも、自身の武器であるブロウナックルをガイとレイに向ける。
 アシュと呼ばれる戦闘種族であった彼らは、ガジャの埋め込んだゴードムエンジンによって変質、強化されていた。そこから更に強化されたような恰好になっている二人に対して警戒を厳にするのは、至極当然の事だろう。
 しかし、クエスターの二人はそんな彼らの警戒など気にしていないのか、ハッと鼻で笑うと、持っていた武器を無造作に構え……
「このまま人間皆殺し! 人間を……リントを殺しちまえ!」
「ああ。ゲゲルの開始だな」
 アシュとして、自身の種族に対する誇りを持つはずの彼ららしくない、グロンギ特有の言葉を発すると同時に、クエスターの二人は映士と蒼太に向って狂気に満ちた瞳を向けた。
 己の内から聞こえる、「ゲゲルのルール」に、無意識の内に従いながら。


「『トライセラトプス』、『ダーク』、そして『グロンギ』が二本。売り上げとしては上々と言った所ですね」
 ジュラルミンケースを抱えたスーツ姿の男……エステルが、戦いの場から少しだけ離れた位置で、それを楽しそうに眺めていた。
 ただ、彼の足元に地面はない。ふわふわと、それが当たり前であるかのように宙に浮いている。
「修復した未確認生命体四十六号(ゴ・ガドル・バ)も、まあまあの値で売れましたが……この世界にクウガが現れたのは、少々計算外ですね。何故この時代にグロンギを売りつけるとばれたのでしょう?」
 軍服の男……グロンギの中でも一、二を争う強さを持つ存在、ゴ・ガドル・バと、それに対峙するライジングマイティクウガを見つめながら、彼は心底不思議そうに呟きを落とす。五代の存在は、彼の言葉通り計算外だったらしい。落とされた呟きには、本人も意識しない程微かな不快の色が滲んでいた。
 その向こうでは、トリケラトプス型のダイジャリュウに苦戦しているダイボウケンの姿が見える。恐らく乗っているのは地上で見当たらない赤い戦士……ボウケンレッド、明石だろう。
「まあ、儲けもありましたし、ここで彼らが倒されても痛くも痒くもないのですが、一応は実験ですからね。データを取らせて頂きましょう」
 いつの間に持っていたのか、彼はハンディカメラを構え、それぞれの戦いを記録し始める。
 いや、「それぞれ」と言うのは正確ではないかもしれない。何しろ画面の中心に置かれているのは、「戦闘」ではなくネガティブの面々だけなのだから。
「人間以外への悪意の定着。そしてそれによって引き起こされる事象。その全てを観察させて頂きます。今回の件は、その為の『実験』でもあるのですから」
 低く笑うエステルの声は、風に乗って虚空に散る。まるで、世界が彼の悪意を拡散させるかのように。




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