クロスシリーズ

□五色の戦士、仮面の守護
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【EPISODE16:冒険】



5月13日 4:47 p.m. 長野県 灯溶山


 五代の目の前では、仮初の姿である「軍服の男」から、本来の姿であるカブトムシ種の未確認生命体、ゴ・ガドル・バが悠然と立ち塞がっていた。彼の後方では、先程明石達ボウケンジャーが倒したはずのコウモリ種の未確認生命体、ズ・ゴオマ・グと思しき存在が、白い法衣を纏った中年男性……神官ガジャと共に、菜月とさくらの前にいる。
 ゴオマを「思しき存在」と評したのは、五代が先程見た時と比較して、異なる部分があるからだ。体を覆っていた布……多分、人間で言うところの服に当たる物は、鋼のような光沢のある物質に変質しているし、広げた翼もメタリックな輝きを帯びている。
 何が起こったのかは知る由もないが、少なくとも非常に厄介な事になっているらしい、と言うのだけは分る。こちらも手を貸した方が良いだろうとも思う。
 思うのだが……ガドルがそれを許さない。彼女達の側へ向かおうとしかけた五代の前に瞬時に立ち塞がり、楽しげな声で言葉を紡ぐ。
「クウガ、ボンゾボドビガラゾダゴグ」
 その言葉と同時に、ガドルの体が金に光る。それは、ゴ・ガドル・バの持つ「電撃体」と呼ばれ、かつてはその姿で、五代に瀕死の重傷を負わせた事すらある。
 彼は自身の研鑽を怠らない。間違いなく、グロンギの中でもトップクラスの実力を持つ存在だ。
 過去の経験から、このままでは危険と判断したのか、五代もその姿を「赤の金」……ライジングマイティと呼ばれる姿から、かつて勝利した際の姿である「黒の金」こと、アメイジングマイティへと変貌を遂げる。
 「黒の金」の呼び名の通り、この姿におけるクウガの基本色は黒。それまで右足だけに着いていたアンクレットが左足にも装着され、手甲にある「リント文字」と呼ばれた古代文字は「雷」を表すそれに変化した。
 以前勝てたからと言って、今回もこの姿で勝てるかどうか……正直、分らない。相手は戦う事を至上の喜びとしている存在だ。自分と戦う為の準備くらいは、ある程度していると考えて良いだろう。
 そう五代が思った瞬間。ガドルはふっと鋭く息を吐き出すと、一気に五代までの距離を詰めにかかった。
 早いと思うよりも、体が動く方が先だったらしい。五代は繰り出された拳を無意識の内にかわし、逆に自分の右ストレートを繰り出していた。
 今まで経験してきた数々の戦いが、アマダムの……と言うよりは五代本人の反射神経と反応速度を鍛えた。特に、自身に向けられた敵意には、過敏に反応できるようになっている。それは五代にとって、非常に不本意な出来事ではあるのだが、今の状況に置いてはありがたいと言えなくもない。
 カウンターで放たれたクウガの拳を喰らい、数歩後ろへ向ってたたらを踏みながら、それでもガドルは心底楽しそうな声で言葉を発する。
「ボボゲゲルビバデデ、ガサダバゴグドギデ……リントゾゾソドグ」
「もぉ〜、何言ってるのか全然わかんないよぉ」
「『このゲームに勝って、新たな王として……リントを滅ぼす』だそうじゃ」
 斬りかかかるゴオマの笑い声の合間を縫うようにして、ガドルの言葉が聞こえていたらしい。五代の後方で菜月の抗議の声が上がる。そしてその抗議に言葉を返したのは、彼らから少し離れた場所で、ニヤニヤと卑下た笑みを浮かべているガジャだった。
 恐らくガジャは既に未確認の言葉を理解できるのだろう。そうでなければ意思の疎通など出来ないし、そもそもガドルが従うとは思えない。
 ガドルの様子から考えて、「従う」と言うよりは「利害が一致したから共にいる」ようにも見えるが。
 言語を理解できている時点で、ガジャは相当頭の良い人物である事が分かる。それなのに、どうしてその頭の良さを、他人の笑顔を守る方向へ生かそうとしないのか。
 不思議に思うより哀しく思いながら、五代は再び繰り出されたゴオマの拳を回避する。
「ちなみに今回のゲームは、リント……人間の戦士と『クウガ』を倒す事らしいぞ」
「人間の、戦士……」
 「人間の戦士を倒す」。その条件は、かつてガドルが未確認達の王たる存在、ン・ダグバ・ゼバと戦う為に提示されたゲゲルの条件と同じ物。その時は「人間の戦士」というのは、「男性警官」を指していたが、今回は違う。
 ……ボウケンジャーと言う色取り取りの存在は、間違いなく「人間の戦士」だ。それも、警察官などよりも、余程手強い。
 その明らかな手応え故に、ガドルはこの状況を楽しんでいた。かつてゲゲルを行う資格を失った事のあるゴオマはどうか知らないが、ガドルにとっては戦いこそが最大にして唯一の娯楽であり、「生きている実感」を沸かせる物。
 もっとも、そんな彼の心中を五代達が知るはずもない。だが少なくとも、このまま野放しにしておいてはいけない事くらいは充分すぎるほど理解できている。ある意味、戦いに身を置く者の……人を守る者の本能と言った所だろうか。
 苦笑気味に思いながら、改めて身構えた刹那。五代の目の前を、青と銀の戦士が過ぎった。
 それが蒼太と映士だと気付くと同時に、今度は彼らに追い討ちをかけるかのような黒い影が二つ、再び五代の目の前を過ぎる。
 確か蒼太と映士は、クエスターとか言う存在と戦っていたはず。と言う事は、今目の前を通り過ぎた黒い影が、そのクエスターなのだろうか。
 ……それにしては、随分とグロンギに近しい印象を受けたが……
「ジョゴリゾグスバ、クウガ!」
 名を呼ばれ、五代ははっと我に返る。他の面々、特に今飛んできた蒼太と映士の事が気になるが、今は彼らを信じ、目の前に立つガドルに集中すべき時だ。
 思い直し、瞬時に自身の気持ちを切り替えると、彼は迫り来るガドルを迎え撃つべく意識を落ち着かせた。刹那、ピリとした感覚が全身を駆け、それはすぐに意識を集中させた両足に集う。そしてやがてはバチバチと音を立て、放電と言う形で周囲にその力の一端を示しはじめた。
 五代の足に集う雷の力に気付いたのか、ガドルは嬉しそうに一声吠えると、五代と同じようにその足に電気の力を溜め、蹴りの体勢に入った。
 そしてそれは、五代も同じで……同時に大きく飛び上がると、宙で力を収束させた足を真っ直ぐに蹴り出す。足裏はそして、繰り出された必殺技とも呼べる程の力は、互いを相殺しあうかのようにぶつかり合い、生まれた膨大なエネルギーは光と熱と言う形をとって周囲を白く染め上げた。
 その強烈な光と熱、そしてそれによって生み出された「見えない波」のせいで、一瞬周囲から音が消える。
 その無音が菜月の脳裏に何かを(もたら)したのか、彼女ははっとしたように顔を上げると、音が戻ってきた事を確認し、ゴオマと切り結んでいたさくらに耳打ちをする。
 さくらは一瞬だけ囁かれた言葉に対し、ヘルメットの下で驚いたような表情を浮かべるが、すぐに納得したように一つ頷きを返すと、すぐさま武器を引き、傍でクエスターと睨み合う蒼太の腕を掴んだ。
「ピンク!?」
「ブルー、一時この場から離れます」
 さくらが言うと同時に、今度は菜月が映士の腕を掴んで、彼女と同じようにクエスターから……と言うよりは五代達の傍から引き離す。
「おい、菜月!?」
「このままここにいたら、危ないよ! 菜月達も巻き込まれちゃう!!」
 ……菜月には、予知能力のような物が備わっている。その力に、蒼太もさくらも、幾度か助けられている。
 それに、五代と出会った時、彼のハザードレベルは「2000」と言う驚異的な数字を指し示していた。見た限り、今の彼はその時よりも更に強化されている。当然、ハザードレベルも上がっているはずだ。
 故に、気付いたのだろう。あの二人の攻撃の及ぼす、余波の大きさと言う物に。
 そして五代とガドルを中心に一瞬の煌きが生まれた後。まるで巨大な風船が破裂したかのような音と衝撃が、周囲に容赦なく襲い掛かった。
 木々は薙ぎ倒され、逃げ遅れたゴオマはその衝撃に煽られ翼をもがれる。ガジャはおうおうと情けない悲鳴を上げながらたたらを踏み、蒼太と映士を見失ったクエスターの二人はその場に何とか踏み留まりながらも、悔しげに顔を歪める。
 衝撃が止むと、今度は永遠のような一瞬の静寂がその場に落ち……宙で、巨大な爆発が起こった。
 それは、五代の……いや、クウガの放った「封印エネルギー」が、グロンギの持つベルトである「ゲドルード」と呼ばれるそれを通じて、彼らの霊石である「ゲブロン」に注がれた証。
 その反応の大きさ故に、通常は半径数キロメートルの範囲で爆発が起こる。五代はそれを知っているが故に、あまり大きな被害が出ぬよう、宙に飛ばして相手を倒す事が多々ある。今回も、それを適用させたらしい。
 爆発の余韻の中、宙から舞い降りたのは……姿を「赤の金」に戻したクウガであった。
「ば、馬鹿な! あやつがああも簡単に……!!」
「驚いてる場合じゃないと思うよ、ガジャ」
「何!?」
 (おのの)くガジャの背後から、蒼太の声が響く。
 どうやら爆発が起こる寸前で、ボウケンジャーの武器であるデュアルクラッシャーをドリルヘッドで呼び出し、大地を穿つ事で地中に逃げ込み、先の難を逃れたらしい。
「モグラか、お前達は!!」
 渾身のツッコミを入れるも、ガジャのそれは軽く流され、蒼太の持つブロウナックルの起こした風によって、ゴオマ、そしてクエスターの二人は一箇所に纏められてしまう。
「て、テメェらっ!」
「ボセパ!?」
 ガイとゴオマの声が重なる。だが、そんな事は気にも留めず、さくらは菜月に支えられた状態でデュアルクラッシャーを、映士は自身の武器であるサガスナイパーを、それぞれ構え、その引鉄を引く。
 さくらの持つデュアルクラッシャーからはドリルの形をした破壊ビーム、映士の持つサガスナイパーからは鋼鉄をも撃ち貫くビーム。
 二種の光線は射線上で互いに引き合うように二重螺旋を描き、やがては一本の白い光線に纏まる。そしてそれは、ゴオマ、ガイ、そしてレイの三人の体を真っ直ぐに貫いた。
 ガジャは……実に悪役らしく卑怯ではあるのだが、その三人を盾にして逃れていたらしい。多少の衝撃こそあった物の、ほぼ無傷。とは言え幾度となく衝撃に煽られた結果なのか、それとも若さが足りないのか、彼は腰をトントンと叩きながらヨタヨタとよろめいている。
「くっ、こんな……リント如きにっ!!」
 いつもは冷静なレイまでも、悔しげに歯噛みするのとほぼ同時。
 ゴオマの方は当たり所が悪かったのか、普段の敵と同じように爆散し、レイとガイの二人の腕からは棒状の「何か」が抜け落ち、その姿をいつもの彼らに戻した。
「ちっ。壊れたか……ここはひとまず退くぞ、ガイ」
「覚えてやがれ、テメェら!」
 地に落ち、パキンと軽やかな音と共に壊れた「それ」を見て毒づくと、クエスター二人は苦々しい表情でボウケンジャーと五代を交互に見やりながら、その姿を消す。
 同時に、ガジャも手駒を失い不利と判断したのか、その場からおろおろとした様子で姿を消した。
 その事に、僅かながらに安堵しつつ、さくら達はクエスターが落としていった「何か」の傍に歩み寄る。彼らの変質は、確実にこの「何か」が原因だろう。
「これが、あいつらの使っていたプレシャスか?」
「破壊されたので、ハザードレベルはほぼゼロですが……間違いないと思います」
 レイとガイの体から抜け落ちたその欠片を拾いながら、映士とさくらが言葉を放つ。
 元は十センチ程の長さだったのだろうが、今は破片しか見当たらない。機械のような回線と、「G」を象ったシールが真ん中に張られている。
「あいつら、一体どこからこんな物を……」
「あのー……考えてる最中申し訳ないんですけど」
 真剣な空気を壊すかのように、五代はボウケンジャーの面々に声をかけ、未だダイジャリュウと戦うダイボウケンと、闇のヤイバと切り結んでいる真墨の方を指差し……
「まだ、終わってないみたいですよ?」



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