クロスシリーズ

□五色の戦士、仮面の守護
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「どうぞ! 『アニキサラダ』です!」
「……マキト兄ちゃん、何でこのタイミングでそれ?」
「今朝は良い野菜が取れたからな!」
「いや、それ理由になってねぇよ、兄貴……」
 通された家は、本当にごく普通の「家」だった。閑静な住宅街に佇む一戸建て。家の中はアットホームな雰囲気と、「家庭」特有の温もりを感じる。
 ……玄関に入ってすぐ脇に摩訶不思議な「隠し部屋」があり、そこには何故か「喋る鉢植え」に「勝手に動く絨毯」、明らかに自分とは異なる動きをとる「鏡」などがある事を除けば。
 驚く彼らを尻目に、この家の住人らしい六人に通されるまま……そして出されるまま、その何とも言えないネーミングのサラダを取り分けて頬張る。
 緑ジャケットの青年の「今朝取れた」という言葉は嘘ではないらしく、サラダはしゃきしゃきしていてとても美味しかった。
 そのサラダのお陰かどうかは分らないが、緊張もほぐれ、ある程度互いの説明も終わった頃。紺色のジャケットの青年……面々から「ヒカル先生」と呼ばれていた「天空聖者」なる彼が納得したように頷いた。
「成程、さっきのは不死の生物……アンデッドというのか」
「ああ。普段は俺達が保管、悪用されないように管理しているんだが……いつの間にか、一枚ずつ消えていた」
「それで、探していたら俺達と遭遇したって事か」
 橘の言葉に、黄色いジャケットの青年……五兄弟の下から二番目、次男の翼が返す。
 ちなみに彼は、何故か先程から剣崎の服に何か白い液体を噴霧している。彼曰く、「下手(したて)に出て成功したての仕立て薬」らしい。「ボロボロの服じゃ不審者だろ」と言うのが彼の言い分であり、更に言えばその薬は「布の為の薬」との事。
「道理で倒せない訳だよ。バンキュリアみたいな物だろ」
「でも、封印ってちょっと凄いよね。睦月ちゃん強かったし」
「あの、ちゃん付けは止めて下さい……」
 兄弟の末っ子である赤ジャケットの少年、魁の言葉を聞いているのかいないのか、ピンク色……上から二番目、長女の芳香は睦月の頬を突きながら言った。
 ……天真爛漫と言うか、何と言うか。姉がこうだと、おそらく下の三人はとても苦労している事だろう、と睦月は思う。
「君達が魔法使いって言うのも、流石に驚いたけど……でも、あんなの見たら、信じるしかないよな」
「魁の錬成術と、芳香の変身魔法、ですね」
「ああ。俺の……俺達の『変身』とも違う。呪文のような物も唱えていたしな」
 剣崎に返した緑色の長男、蒔人に、始も淡々と言葉を返した。
 信じ難い事ではある物の……アンデッドを探す際に、なにやら銀色の幕のような物を通った事を考えれば、「この場所」は自分達が普段住んでいる世界とは違う「異世界」であると推測できる。
 特に始と橘は実際に「異世界」へ赴いた事があるだけに、簡単に実感できるし、それ故に「自分達が知らない事も、異世界だから」で何とかなりそうな気がしていた。
 もっとも、彼らがかつて赴いた世界とは、根本的に異なるのだが……彼らがそれを知る事はない。
「でも、おかしいんじゃないかな?」
「おかしいって、何が?」
 真剣な表情で言ったのは青いジャケットの次女、麗。
 不思議そうに問いかけた剣崎に頷きながら、彼女は部屋の壁にかけてある鏡を指差し……
「私達『メメの鏡』で、アンデッドの出現を知ったんですけど……そもそも、『メメの鏡』はインフェルシアが関わっている事しか映し出さないんです」
「そっか。マンちゃんも、アレを見て私達に知らせたんだもんね」
「はい。でござりますです」
 麗の言葉に芳香も頷く。その脇では「喋る鉢植え」……マンちゃんこと、マンドラ坊やと言うらしい存在もこくこくと頷いている。
 彼らの「敵」……この世界を侵略しようとしている存在を「インフェルシア」と呼ぶらしい事は、話の最中に聞いている。どこの世界でも、人間を排除し、そして自分達の物にしようと画策する存在はいるのだと苦笑気味に思いもした。そして彼らとは逆に、人間を守ろうとする者達がいる事も。
 それぞれにはそれぞれの理由があり、そしてそれぞれに戦う相手がいるのだから、干渉するような事はしないつもりだったが……インフェルシアが今回の「アンデッド解放」の一件に関わっているとなると、そうは言っていられない。
 不死の生物であるアンデッドを利用し、不死身の軍団を生み出す可能性だって、ないとは言い切れないのだ。下手をすれば新たなアンデッドを生み出す事だってやりかねないのだ。
 ……かつて自分達の世界に存在していた、天王路なる男がやろうとしていたように。
「まさか……カードを盗んだのは、そいつらじゃ!?」
 はっとしたように顔を上げ、睦月が真剣な表情で言ったその瞬間。再び橘の持つアンデッドサーチャーが鳴り響き、更には壁にかけてあった「メメの鏡」に、怪物に追われ逃げ惑う人々の様子が映る。
「あれは……ゾビル!」
「アンデッドも映ってる……やっぱり、あいつらがアンデッドを解放したのか!?」
「厄介にゃ事になってるにゃぁ。どうする、旦那(だんにゃ)
 魁の言葉に、剣崎も声を荒げて言う。その脇では、ヒカルの持つランプの中から「喋る猫」ことスモーキーがちらりと彼を見て問う。
 だが、その問いに答えるまでもないのか。
 鏡に映る様子に、彼らの心は一つに纏まった。ほぼ同時に立ち上がると、彼らは互いに頷き合い、アンデッドサーチャーの指し示す場所に向かったのであった。



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