クロスシリーズ

□五色の戦士、仮面の守護
4ページ/80ページ


 そして、こちらは丈瑠と源太。こちらは只今ナナシ連中と交戦中である。
「こりゃ、センサーの故障って考えた方がしっくり来そうだぜ、丈ちゃん」
 「な」に濁音が付きそうな声を上げて斬りかかってくる有象無象を、自力で習得した居合刀、サカナマルで切り払いながら、源太は自分に背を預けてくれる幼馴染の「殿様」に言う。丈瑠の方は、シンケンマルを既に「烈火大斬刀」に変え、切り払うというよりは薙ぎ払うくらいの勢いでナナシ連中を倒している。
 呑気そうな声の源太とは逆に、丈瑠の胸の内には妙な違和感があった。
――アヤカシが、いない――
 黒子の話では、見たのはナナシではなくアヤカシだったはず。では、それは一体どこにいるのか。そう思った時、丈瑠の視界に一人の男の姿が映った。
 自分達より確実に年上。三十より少し手前だろうか、精悍な顔つきの青年だ。山菜採りに来た一般人という可能性もちらりと浮かんだのだが、どうにもそんな風に思えない。男の放つ空気は、どことなく自分達と同じ……「戦う者」特有の物があると直感した。
「うーん、おっかしいなぁ。確かヤマビコ退治に来たはずなんだけど」
「なぁぁっ!」
 呑気な声を上げた男に気付いたらしい。ナナシの中の一体は、丈瑠達にくるりと背を向け、迷う事なく彼に向かって蛮刀を振り上げ、襲い掛かる。
 ここから男までの距離はかなりある。間に合わない……丈瑠も源太もそう思ったその時。
 男は、特に驚いた様子も見せずにひょいとナナシの攻撃をかわすと、逆にその首筋に向かって手刀を叩き込んだ。
「あのおっさん……戦い慣れてる!」
「おーい、そこの金色君。聞こえてるぞー」
 男は気を悪くした風もなく朗らかな声を返すと、更にとんでもない事を言い出した。
「なあ青年達、手伝おうか?」
「手伝う、だと?」
「そ」
 短く答えた男が懐から取り出したのは……鬼の面の装飾が施された金色の音叉。こちらが返答を返すより先に、その男は自身の手の甲にそれをぶつけて鳴らす。
 音叉特有の澄んだ音が響き渡り……やがて男はそれを額に近付けた。
 瞬間、彼の額に音叉に施されている物に似た鬼の面が薄く浮かび上がる。丈瑠がそれを認識したと同時に、今度は紫色の炎が男の体を覆った。
「何……っ!?」
 驚きのあまり、丈瑠の攻撃の手も止まる。
 彼の体が燃え上がったから……ではない。彼を覆う紫紺の炎の向こうで、男の姿が変わっていくのが微かにだが見えたから。
「はぁぁぁぁぁ……破ぁっ!」
 次の瞬間、気合と共に自らを包んでいた炎を腕で払い飛ばすと、男はその姿を彼らの前に現す。
 ……否。既にその姿は「男」ではない。暗い紫を基調とした、しかし僅かに赤の混じった「鬼」。
「まさか……そんな事ってあるのかよ!?」
「ん? 鍛えてますから」
 源太の言葉に、やはり朗らかな声で返しつつ、その鬼は背に付けていた棒を外し、構える。それは何となく、太鼓の(バチ)のように見える。先端に赤い石が取り付けられている物の、武器と呼ぶには少々心許ない。
 「侍」である丈瑠から見ても、すぐに分かる。この鬼は強いと。彼が常に戦いの中に身を置く者であろう事は、その一分(いちぶ)の隙もない構えからも見て取れた。
「それじゃ、行きますか」
 言うが早いか、鬼はまず近くのナナシの腹へ、その「撥」の一撃を入れる。次に流れるような動作で背後にいたナナシ二体を、片手でそれぞれ叩きのめし、更に襲い来る別のナナシの胸部を蹴り飛ばす。
 ……撥の攻撃が炸裂する度、ドンドンと太鼓を叩くような音が鳴る。その音が、そして鬼の動きそのものが。まるで目に見えぬ太鼓を叩いているように見えた。
 それを見て、やはり強いと実感する。おそらく自分達があの武器を渡されても、あれ程上手くは使いこなせないだろう。リーチの長さなら源太のサカナマルと同等だが、「斬る」と「叩く」では動きもダメージも異なる。
 あの鬼は、「叩く」攻撃だけでナナシを沈黙させている。それはつまり、見た目以上に彼の攻撃が強力であるという事だ。
 それからどれ程経っただろうか。いつの間にか全てのナナシは消滅し、残っているのは赤と金、二人のシンケンジャーと紫の鬼だけ。
 変身を解き、不審そうな顔を向ける二人に、鬼もまた顔だけ変身を解いてにこやかに笑う。
「お前は……何者だ?」
「ん? 俺?」
 自分を指差すと、男は敬礼に似たポーズを取り……
「俺はヒビキ。よろしくな」



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ