クロスシリーズ

□五色の戦士、仮面の守護
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【Stage19:勇気の切り札 〜マージ・ブレイド・マジ・マジカ〜】



 小津ファミリーが、剣崎達を己の家に招き、互いの状況を簡単に説明していた頃。
 インフェルシアでは、メーミィがキイキイと甲高い声で怒鳴っていた。
「何なの! あの連中はっ! 不愉快!!」
 「あの連中」とは、無論剣崎達「仮面ライダー」の事を指す。心底苛立ち、パシンと扇子を自身の掌に叩きつけるメーミィの横では、ナイとメアも同意するように頷き……
「折角あたし達以外の『不死生物』に会えたのに、封印なんてするし」
「するしぃ」
「頭にきちゃう。ねー、メア」
「ねー、ナイ」
 こちらも愛らしく頬を膨らませ、互いに頷きあう。彼女達としては、自分以外の不死生物の存在と言うのは、他者には想像も出来ない程嬉しい物だったらしい。
 本人達は否定するかもしれないが、不死である彼女達は、心のどこかで「いつまでも取り残されてしまう」と言う孤独感のような物を感じているのかも知れない。だからこそ、「封印される」と言う欠点こそあれ、「不死」であるアンデッドには友愛にも似た愛着があったのだろう。
 二人が斯様に苛立つ中、魔導騎士ウルザードだけはどこか楽しそうにフム、と笑った。
 そんな彼の「笑み」に気付いたのだろうか。ズヴェズダはひょいと彼の顔を覗き込むと、不思議そうな……それでいてどこか底の見えない不気味さを感じさせる声で彼に問う。
「楽しそうですね、ウルザード様」
「……俺にそう言った感情はない」
「あ、すみません。騎士として、彼らと戦ってみたい……そう思っているのかなって。あの、もしも出すぎた事なら申し訳ないんですけど」
 ズヴェズダの言葉に、ウルザードは一瞬だけ黙り込み……そうかもしれないと気付く。
 己の中にある「騎士」としての何かが、あの戦士達に反応しているのかもしれない。無意識の内に剣の柄に手をかけているのは、自身が彼らと剣を交えたいと言う衝動に駆られているからだろうか。
 だが……少し、それも違うような気がする。確かに現れた未知の戦士達と戦ってみたいと言う思いはあるが……それ以上に、魔法使い達と接触した事その物に「何か」を感じている。
――俺は、嬉しいのか? 魔法使い達とあの戦士達の邂逅が――
 そんな感情は持ち合わせていない。そう言ったのは自分なのに。
 戦士達と出逢った事で、魔法使い達が何かしらの成長を見せるはず……そんな確信が、ウルザードの胸中に根付き、その事を「嬉しい」と思う自分がいる事に驚く。
 「成長して、自分と互角に戦えること」が嬉しいのではない。「成長してくれることその物」に対して嬉しさを感じている。
――……何故だ? 何故俺は、魔法使い達の成長を嬉しいと感じている?――
 おかしいと思う。自分は、ン・マの為に働く駒に過ぎないはずなのに。それなのに、時折抱える違和感は一体何なのか。他人が気付かぬ程、僅かではあったが首を傾げてウルザードは思案を巡らせる。彼らの成長が嬉しいと感じる理由と、今まさに抱いている違和感について。
 そんなウルザードの疑念を余所に、メーミィはもう一度パシンと自身の掌に扇子を叩きつけ……そしてヒステリックに喚き散らした。
「とにかく! このままじゃ何の意味もないわ! あの憎き魔法使い共を倒すチャンスだと言うのにっ!」
「そ、それなら、あの……メーミィ様……」
「何!? 言いたい事があるならはっきりと仰い!!」
「は、はひぃぃぃ! すみませんごめんなさいごめんなさいっ!」
 苛立っているメーミィに怒鳴りつけられ、ズヴェズダはやはり顔に似合わない恐縮加減でペコペコと謝ると、やがて何かを決意したようにその顔を上げた。
 その口の端を、奇妙な笑みの形に歪めて。
「次は、僕自身が行こうと思うんです。その、残り二体のアンデッドを解放して。それと……冥獣ゴーストを、一体貰いたいんですけど……」
「ゴーストなんて、何に使うのよ?」
「使うのよ?」
 ズヴェズダの言葉に対し、不思議そうに問いかけてきたナイとメア。
 冥獣ゴーストは、とりわけ強いと言う訳ではない。むしろ冥獣にしては弱い部類に属する。特異な力と言えば、宙に浮いたり姿を消したり壁をすり抜けると言った程度だ。勿論、それはそれで十分な能力ではあるのだが、いかんせん腕力、武力と言った「戦う力」に関しては皆無に等しい。
 だからこそ、魔法使いを倒すのには向いていないと思うのだが。
 しかしズヴェズダはそう思っていないのだろう。浮かべていた邪悪な笑みを更に深め……やおら、やってきた折に彼女達に見せた「アンデッドではない、もう一つの物」を取り出した。
「これを挿して、仮面ライダーに対抗します。所謂、ドーピングです」
――Undead――
 ズヴェズダがその「何か」を軽く叩いた瞬間、そんな音が聞こえた。
 何だかよく分らないが……その「何か」から放たれる異様さと、とズヴェズダ自身の放つ不気味さに圧倒されたのだろう。メーミィはふ、と笑うと、彼に扇子の先を差し向け……
「良いわ。お前の実力、我が見届けてあげるとしましょう」
 そして……彼は、ズヴェズダの希望通り、冥獣ゴースト一体と、それなりの数のゾビルとハイゾビル、更にはウルザードも付け……
「メー・ザザレ」
 その呪文と共に、彼らを地上界へと送り出した。
――ま、せいぜい頑張って頂戴な。……あまり期待していないけれど――
 そんな事を思いながら。


「そこまでだ、インフェルシア!」
「来たか、魔法使い達よ」
「こ、こんにちは」
 魁達が到着するのを待ち侘びていたかのように、ウルザードは剣を抜き、悪魔のような姿をした冥獣人が、ぺこりと頭を下げた。
 そんな彼らの後ろに控えるようにして立っているのは、冥獣ゴーストと数多のゾビル、ハイゾビルの群れ、そして解放されたキャメルアンデッドとホエールアンデッドだった。
「やっぱり、アンデッドの解放にはインフェルシアが関わっていたのか!」
「あ、はい。僕が、その……皆さんから一枚ずつ頂きまして……それで、解放させてもらいました」
「お前が……?」
「はい。あ、僕は冥獣人ハデスのズヴェズダと申します。あの、僕、その……色んな世界を行き来できる者ですから。…………ギャレンさんには、『運命の輪(フォーチュン)』と同じような存在、と言えば納得して頂けるかと。あ、『運命の輪』の事は、ご存知ですよね?」
 訝る始に対して、ズヴェズダと名乗った冥獣人がおずおずと答える。
 その言葉の意味を理解できたのは、話しかけられた橘、ただ一人。他の面々は何を言っているのか分らないと言わんばかりの表情で相手と橘の表情を交互に見やる。一方は、その凶悪な形相に似合わない、心底申し訳なさそうな態度。そしてもう一方は、それまで以上に緊張した面持ち。
「カードが盗まれた時点で、疑ってはいた。……本当に『奴』と似たような存在が絡んでいた事には驚いたがな。目的は何だ?」
「目的、ですか? えっと、あの、だから、その……申し訳ないのですけど、皆さんには、ここで死んで頂きたいんです。今後、僕達の邪魔になりそうなので」
 ズヴェズダと名乗ったその冥獣人が、橘の問いに答えた瞬間。ゾビル達が一斉に魁達に向かって駆け出す。
 そう認識した瞬間。十人の戦士達は、それぞれ己の変身ツールを構え、宣言した。
『天空聖者よ、我らに魔法の力を! 魔法変身、マージ・マジ・マジーロ!』
―マージ・マジ・マジーロ―
 小津の魔法使い達は、宣言と共に呪文をコール。その「要請」にも似たコールを受け、重厚な天の声が響き、彼らを加護する天空聖者達の力が宿る。
「天空変身、ゴール・ゴル・ゴルディーロ!」
―ゴール・ゴル・ゴルディーロ―
 ヒカルがチケットをチェックすると、一瞬だけ彼は仮初の姿である「ヒカル」から、本来の姿である太陽の天空聖者サンジェルへと姿を変え、更に彼の戦装束とも言える黄金の鎧をその身に纏う。
「輝く太陽のエレメント。天空勇者、マジシャイン!」
 黄金色の戦士と化したヒカルが、太陽の明るき光で照らす。
「唸る大地のエレメント。緑の魔法使い、マジグリーン!」
 緑の魔法使いと化した蒔人が、大地と植物の代わりに大きく吼える。
「吹き行く風のエレメント。桃色の魔法使い、マジピンク!」
 桃色の魔法使いと化した芳香が、風のように流れる所作で悪意を散らす。
揺蕩(たゆた)う水のエレメント。青の魔法使い、マジブルー!」
 青の魔法使いと化した麗が、水の如き澄んだ眼差しで未来を映す。
「走る雷のエレメント。黄色の魔法使い、マジイエロー!」
 黄色の魔法使いと化した翼が、雷に似た苛烈な意思で相手を射抜く。
「燃える炎のエレメント。赤の魔法使い、マジレッド!」
 そして赤の魔法使いと化した魁が、炎と変わらぬ熱量で相手を焦がす。
「溢れる勇気を魔法に変える」
『魔法戦隊、マジレンジャー!』
 彼らの宣言は、まるで名誉ある者に与えられた称号であるかのように高らかとなされた。
 そしてその隣で。
『変身!』
『CHANGE』
『TURN UP』
『OPEN UP』
 こちらは四人の宣言が重なった。
 ジョーカーである二人……剣崎と始は、己の腰にあるジョーカーラウザーにそれぞれ「A」のカードを読み込ませると、そのカードの特性である「CHANGE」が発動。電子音に似た音声がどこからか響き、その姿を瞬時に変える。
 方や甲虫とスペードマークを連想させる青の戦士、ブレイド。
 方や蟷螂とハートマークを連想させる黒の戦士、カリス。
 一方の橘と睦月は、それぞれベルトにセットした「A」のカードと同じ模様のオリハルコンエレメントが展開、それを通る事で彼らはそれぞれの鎧を纏った。
 方や鍬形とダイヤマークを連想させる赤の戦士、ギャレン。
 方や蜘蛛とクラブマークを連想させる緑の戦士、レンゲル。
 彼らはその変身を終えると、まずは襲い掛かってきたゾビル達を叩き斬り、撃ち抜き、そして薙ぎ払う。
「はぁっ!」
「おおりゃあ!」
 睦月のレンゲルラウザーによる薙ぎ払いの後に、蒔人のマジスティックアックスが、とどめと言わんばかりにゾビルとハイゾビルを叩き伏せる。
「やりますね、蒔人さん」
「アニキパワーです」
 軽く言葉を交わすと、彼らは再び襲い来るゾビルとハイゾビル、そして冥獣ゴーストを相手に己の武器を振るう。ゾビルとハイゾビルは、軽く薙いだだけでその存在を消すが……難敵はゴーストだった。
 相手はうう、と低く唸ると、特に大きなダメージを受けた様子もなく彼らに向かって襲い掛かる。
「何だこいつ、妙に強いぞ!?」
「まさか、アンデッドの細胞が掛け合わされたんじゃ……!?」
「そんな事があるんですか!?」
「……以前……本当に、結構前の話ですけど!」
 半ば怒鳴るようにしながら言う彼らの言葉を理解しているのかしていないのか。冥獣人ゴーストは、まるで不死身であるかのように、怨嗟の篭った声で唸り、彼らの元へと走るのだった。


 こちらはマジカルシスターズこと、芳香と麗の二人組。その背中を守るようにして立っているのは橘だ。ギャレンラウザーで相手を牽制しつつ、シスターズの攻撃で止めを刺す、と言う戦術をとっているのだが。
 今、彼女達の前に立ち塞がっているのは、ハートスートの「カテゴリー9」であるキャメルアンデッドと、ダイヤスートの「カテゴリー5」であるホエールアンデッド。即ち、解放されてしまったアンデッドが二体存在している。
「アンデッドなら、たっちーの出番!」
「……たっちーと呼ぶな」
 芳香の軽い言葉に、心底不機嫌そうに返しながら、橘は手元のギャレンラウザーを放つ。
 その戦い方を見ながら、麗は心底感心する。本当に、彼は戦い慣れているのだと。アンデッドが相手なら、特に。自分達に出来るのは、その手助けしかないかもしれない。実際、封印と言う手段は持ち合わせていないのだから。
「橘さん、私達に出来る事は言って下さい!」
「……先にキャメルを封印する。あいつの能力は厄介だ。体力を回復させる能力を持つからな」
「確かに、それは厄介ですね」
 橘の言葉に軽く頷きつつ、麗は牽制の意味を込めてマジスティックの先をキャメルアンデッドに向けると、得意の水による攻撃を放つ。
 マジスティックから溢れ出る奔流は、真っ直ぐにキャメルへと向かい、その身を押し流そうと迸る。だがその一方で、共にいたホエールアンデッドにとっては、その攻撃は意味をなさなかった。それどころか「水を得た魚」といった状態らしい。
 おお、と大きく吼えると、向かい来る奔流をものともせず、逆に加速して突っ込んで来た。
「きゃあっ!」
「……ちっ」
『BURNING SHOT』
 軽く舌打ちをすると、橘は狙いをキャメルから急遽ホエールに変更、そのままカードコンボを繰り出し、相手を撃ち貫いた。


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