クロスシリーズ

□五色の戦士、仮面の守護
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「……雑魚が。消え失せろ」
 低く暗い声が響くと同時に、ズヴェズダの掌から無数の黒いエネルギーボールが生み出され、翼、ヒカル、そして始に向かって降り注ぐ。三人は各々の武器でそれを撃ち落とすと、先程までとはがらりと雰囲気の変わった相手に向かって、そのまま一発ずつ攻撃を放った。
 だが、相手はそれをひょいとかわすと、今度はいつの間にか持っていた剣を振るい、黒い雷を放つ。その雷は、まるで意思を持つ物のように身をくねらせ、轟音を鳴らして三人を追う。
「くそっ……!」
 追ってきた雷を再度撃ち落しつつ、三人は雰囲気を一変させた相手を睨みつける。
 先程までの気弱な彼はポーズだったのだろうか。あるいは、戦いになると人が変わる性質でも持っているのだろうか。とにかく、自分達の前で苛立たしげに剣を振るう相手は、今まで戦ってきた冥獣人やアンデッドとは比較にならない凶悪さを持っているのが分かった。
「あいつも雷の力を使うのかよ!?」
「あの雰囲気……さっきまでとは全然違う。油断は出来ないね」
 そう言って警戒する魔法使い二人には目もくれず、ズヴェズダはハン、と鼻で軽く笑ったかと思うと、そのまま真っ直ぐに始の方に向かって駆け出した。
 悪魔のようなその形相を、さらに凶悪に歪めながら。
「何!?」
「他の連中も目障りだが、一番目障りなのはお前だよ『愚者の欠片(ジョーカー)』。……だから、このままバラバラにしてやる!! ありがたく思いながら死ね!」
「そうはさせないよ。ルーマ・ゴー・ゴジカ!」
 言うと同時に、ヒカルは手元のマジランプを七回擦り、その引鉄を引く。すると、彼の魔力を帯びた魔法猫スモーキーが、黄金色の光を纏ってズヴェズダの手元に体当たりをかまし、その剣を落とさせる。
 ヒカルとしては倒すつもりだっただけに、全くの無傷だったのには驚くが……それでも、相手の攻撃の手を止めるに到ったのは重畳と言った所か。
「ちっ、ウゼェ……マジでウゼェぜ、天空聖者。折角この時代じゃぁ『女帝』のヤローは引き篭もってるって言うのによ!」
 赤い瞳を、さらに赤く滾らせ……ズヴェズダは再び彼らに向かって漆黒のエネルギー弾を放つのだった。


「赤の魔法使い、そして異界の剣士か。相手にとって不足はない」
「今日こそ決着をつける。母さんの仇だ!!」
 静かに言葉を放ったウルザードとは対照的に、魁は苛立ったように言葉を返す。そしてその横にいた剣崎は……妙な違和感を覚えていた。
 ウルザードの声は、無感情のようでいながら、微かな優しさのような物が滲んでいる気がする。それは、強いて言うなら「親愛」だろうか。敵に向ける感情としては、ひどく不似合いな気がした。
 それが不思議で思わず、しかし剣を構えたまま、剣崎は隣に立つ魁に向かって問いを投げた。
「魁、あいつは?」
「あいつは、俺達の母さんを殺した……俺が一番許せない敵なんだ!」
「……どれだけ強くなったか、見せてもらおうか」
 言うが早いか、ウルザードはその剣を構えてこちらに駆けた。「魔導騎士」と言う二つ名は、伊達ではなさそうだ。本当に騎士らしく、正々堂々としているように剣崎には見えた。
 他の面々が戦っている相手とは異なり、こちらの「戦意」が整うまで待ってくれていた。少なくとも、そんな風に思える程度には清廉な空気が彼からは漂っている。
 ……怒りで瞳の曇っている魁には、分らないかもしれないが。
 そう感じると同時に、剣崎は油断出来ない相手だと悟ったのだろう。無意識の内に自分の持つ剣の切れ味を向上させるカード……「スラッシュ」を、再現させたブレイラウザーに読み込ませて、相手の剣を受け止め、弾き返す。
 そんな剣崎の反応を面白く思ったのか。ウルザードは、フ、と軽く笑うと再び剣を構え直して言葉を紡いだ。
「ほう。やはりやるな、異界の剣士。そうでなくては面白くない」
「誉められても、あまり嬉しくないな。特に……今のあなたには」
 剣を交え、その結果何かを感じたらしい。剣崎は悲しそうにそう返すと、とん、と後ろに下がり、再びカードを読み込ませる。
 その隣では、魁がマジスティックソードに魔法を込め……
『LIGHTNING SLASH』
「レッドファイヤー・スラッシュ!!」
 打ち合わせた訳でもないのに、二人の剣戟がウルザードに向かって繰り出される。だが、その斬撃はジャガンシールドで難なく防がれてしまった。
 彼らの戦いは、まだこれからである。



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