クロスシリーズ

□五色の戦士、仮面の守護
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 警視庁からの呼び出し、しかも警視総監からの指示と聞いた時は何事かと思ったのだが、大事があったという訳ではなく、かつて自分が相手にしていたアンノウンに関する捜査資料を纏めるのに駆り出された、というだけだった。どうやら「当時その場にいた存在からの視点」が欲しかったという事らしい。
 他にも数名、自分と同じような作業をしている者もいるらしいのだが、氷川が見かけたのは長野県警から駆り出されたと言っていた一人の刑事だけだ。ちなみに彼は、自分より更に前のデータ……「未確認生命体」に関する資料を纏めなおすように指示されていたのを覚えている。
 何故今頃になってと思いはしたものの、上層部にも何やら事情があるらしい。それとなく指揮していた者に探りを入れたところ、「見解の統一を図る事が云々」という、よく分からない回答が戻ってきた。恐らく、彼も詳しくは知らないのだろう。秘匿すべき情報だというのならば、詮索をしても無意味だと思い、それ以上の事は諦めた。
 それにしても、と氷川は思う。
 ここ数年、全く連絡も取っていない、会ってすらいなかった二人と、まさかこのような形で会えるとは。案外、世界は狭いのかも知れない。
「あの、お知り合いですか?」
 黒いジャケットの青年……確か「アスカ」と呼ばれていた……が、興味深そうに彼らの顔を覗き込む。
 そう言えば、先程氷川がこの店に入ろうとした時、ぶつかりかけたのはこのアスカだった。その直前に出てきた青と黄色のジャケットの二人も、よく覚えているが……赤いジャケットの青年と、その横に立つ少女ははじめて見る。
 ただいま、と言っていたのを考えると、彼らもこの店の店員なのだろう。住み込みで働いているのだろうか。
 自分の事をにこにこと笑いながら紹介している翔一の声を聞き流しつつ、ぼんやりと氷川がそんな事を思ったその瞬間。どこからか、女性の声が響いた。
『らんる! 街の様子がおかしいプラ!』
「え?」
 「らんる」とは確か黄色い服の女性の名だったはず。そう思い、彼女の方を見やると、何故か彼女は腕につけているブレスレットのような「何か」に視線を向けていた。
 更によく見れば、その「何か」には黄色のプテラノドンの顔を模した飾りがあり、その口が声にあわせてぱくぱくと動いている。
『街の人々が……』
『街の人々が、ミイラになってるテラ!』
 プテラノドンに続くように、幸人と凌駕のブレスレットの飾りが、危機感に満ちた声で口を開く。それとほぼ同時に翔一がピクリと「何か」に反応し、ほぼ同じタイミングで店内にブザーが鳴り響いて、カウンターが横へスライド、代わりに天井からスクリーンが下りて来た。
 そのスクリーンに映し出されているのは……先程の「声」が言った通り、完全にミイラと化した人間達の姿と……その中央に立つ、シマウマのような顔をした異形の姿。
「あの怪物は!? アンノウン、ですか?」
「いいえ、あれはトリノイドです!」
 驚き、目を見開いて問う氷川に、アスカが警戒を顕わにして言葉を返す。
 一方で、葦原はそれが先程撃退したはずの存在だと認識し、舞も小さく「さっきのだ」と呟きを落とす。だが、同じく先程それと遭遇していたはずの翔一は、険しい表情でそのシマウマを見つめ……
「やっぱりこの感じ……さっきのとは違います。この感じは、アンノウンです!」
「何!? トリノイドじゃないのか?」
「トリノイドって奴でもあるのかもしれません。でも、アンノウンの感じも、確かにするんです」
――でも、どうして?――
 訝しむ幸人の声に返しながらも、疑問が翔一の脳裏を()ぎる。
 アンノウン……いや、ロード怪人と呼ばれる彼らは、「人間と離れた力を持つ者と、その血族」のみを殺していたはずだ。
 そして、これは氷川や葦原の知らない事なのだが、既にロード怪人は「人間に害為す者でない限り、人間と離れた力を持つ者と、その血族を殺害してはいけない」という命令を受けている。その事は、以前、彼自身が目の前で、その命令が下ったところを見ている。
 それに、画面に映し出されているシマウマは、確かに先程見たトリノイドでもある。あの時はアンノウンの気配は全くと言っていい程していなかったのに、何故今はその気配を強く感じるのだろうか。
「どうしてまた、アンノウンが……?」
「とにかく、この状況を放っておく訳には行きません! 俺は市民の避難誘導をしますから、お二人は……」
「わかっている。連中を倒せば良いんだろ」
 呆ける翔一を諭すように、氷川の冷静な言葉が響き、それに葦原も険しい表情で頷く。
 どうやら、穏やかな時間と言うものは……なかなか訪れないらしい。



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