クロスシリーズ

□五色の戦士、仮面の守護
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【27話:アバレる双竜】


「うー……嫌だなぁ、これ挿すの、結構怖い〜」
 一人ごちながら、トリノイド、シンクチナシマウマは、掌に納まる細長いそれ……「ガイアメモリ」とエトワールが呼んでいた物体を見下ろす。
 本能的にそれが持つ力に怯えているのだろう。だが同時に、それを渡したエトワールという存在にも恐れを感じている。「あれ」は、自分達とは全く異なる存在だと、彼はどこかで理解していた。
 彼ら邪命体の絶対君主とも呼べる存在、邪命神デズモゾーリャ。エトワールは、それよりももっと恐ろしい存在かもしれない。何しろ、時間を喰う事の出来る存在なのだから。
「そんなにこれを使いたいなら、エトワールさん自身が使えば良いですよぉ」
 ブツブツと愚痴をこぼしながら、それでも彼は使わなかった時に来るであろう「お仕置き」に体を震わせ……やがて、意を決したようにそのスイッチを押す。
「シンクチナシマウマ、行きます!」
――Lord――
 後はもう、勢いだった。音が聞こえたと同時に、シンクチナシマウマはそのメモリを自分の腹部に挿して、その力を己が身の内に取り込む。
 最初に感じたのは、己の体に生まれた違和感。基本的には今までと大して変わらないが、背中に退化した羽根のような物が生え、自分の頭上に光の輪が浮かぶ。
「ジャバ? 何なの、この羽根と輪っか!? 凄い! 五倍以上のやる気がある!」
 慌てたように己の体を触りつつ、彼は感嘆にも似た声をあげた。流れ込んでくるパワーも、今までとは段違いに大きい。パワーアップしたのだと理解でき、嬉しくなったのだろう。
 だが、次の瞬間。彼の頭の中に、自分の物とは異なる考えが怒涛の勢いで流れ込んだ。
――人間は、人間のままで存在しなければいけない――
――ダイノガッツや邪命因子は、人間を人間でなくしてしまう――
――異なる進化の可能性を……潰せ――
「ジャバ!? え、ちょっ!? ダメダメっ! その考えは……」
 流れ込んできた考え。
 それはアナザアース人や竜人のみならず、自分達デズモゾーリャの配下たる邪命体まで否定するもの。
 それは、トリノイドであるシンクチナシマウマにとって「決して思ってはならない事」。それが、メモリを通じて彼の頭を……そして意識を支配すべく、シンクチナシマウマの自我を食い荒らし始める。
「ぎゃ……うわあぁぁぁぁっ!!」
 人間を滅ぼさなくてはならないと言う考えと、人間を保護しなければならないと言う考え。邪命因子とメモリの力とも呼べるそれが、互いにぶつかり合い、彼の体内で暴れる。
 その際に生じる激痛が、彼の口から悲鳴を引き出し……やがてその悲鳴は止み、目に奇妙な光を湛えた彼は呟きを落とす。
「……君達の存在は、世界にとって害でしかないんだよ」
 と。


 凌駕達が騒動の真ん中に辿り着いた時、そこで見たのは縞模様のトリノイド、シンクチナシマウマであった。
 だが、様子がどこかおかしい。何かに操られているように、暴れている。
「ダイノガッツ、邪命因子……人間を、人間で失くす可能性…………」
 ブツブツと呟きながらそんな事を言うシンクチナシマウマは、やはり先程翔一達が戦った時とは違う。よく見れば、先に会った時にはなかった「退化した羽根」が背中についている。
 放たれる気配はアンノウンと「そうでないもの」が入り混じった、何とも言い難いものなのだが……何故だろうか。徐々に、本当に僅かずつではあるのだが、アンノウンとしての気配が強くなってきているように、翔一には感じられた。
「あの羽根は……やはり奴は、津上さんの言っていたようにアンノウン!?」
「いいえ、やはりあれはトリノイドです。……少し様子がおかしいですが」
 氷川の問いに、アスカが返す。彼もおそらく気付いているのだ。邪命因子の他に別の「何か」が作用しているらしい事を。それは竜人特有のものなのか、それとも戦士としてのものなのか……どちらにせよ、アスカの直感が「これは不味い」と告げていた。
 今までのように、ダイノガッツだけでどうにかできるものではない、と。
 それは、相手の足元に転がる人々の亡骸を見ても理解できる。水分だけでなく、ダイノガッツすらも奪われ、からからに渇いてしまった人間の亡骸。
「酷い……」
「こんなに沢山の人を……許せません!」
 ポツリと漏れた氷川の言葉に同意するように、凌駕が怒気の混じった声で答える。
 その声でようやくこちらを認識したのだろうか。シンクチナシマウマの、暗く澱んだ瞳がゆっくりとこちらを捉えた。
「アバレンジャー……強大なダイノガッツの持ち主。アギトやギルスと同じく、危険な存在。『人が人でない存在』の一つ」
「何だと?」
 低く呟かれた言葉に、軽く眉を顰めた幸人が問い返す。だが、その刹那。相手の目はさらに凶悪な光を宿し、ゆっくりと掌をこちらに向けた。
 本能的に、それが危険極まりないものだと感じたらしい。全員がその掌の直線上から散開、直後に放たれた光から何とか逃れる。
「アギト、ギルス、ダイノガッツ、邪命因子……」
「え?」
「人類は試されている。滅びか、それとも再生か」
 そう静かに相手が言った瞬間、今度は思い切りこちらに向かって突進してきた。それを何とかかわすと、凌駕達は相手との距離を取り……そしてきつく相手を睨む。
 今までも、人を襲うエヴォリアンを許せないと思う事は何度かあった。しかし、今回は特に許せないと思う。何故なら、人の命が失われてしまったのだ。それも、かなり沢山の。
 凌駕は、姉夫婦を亡くしている。だからなのかは分らないが、人一倍「人の命の重み」を重視している節がある。それ故に、許せなかった。理不尽な理由で命を奪った、目の前の相手が。
「皆……チェンジだ!」
「ああ」
「OK」
「はいっ!」
 凌駕の号令に、幸人、らんる、アスカの順に短く返事を返し、その手に嵌るブレスを構えた。
『爆竜チェンジ!』
 四人の声が重なり、それぞれのパートナーである爆竜の鳴き声が響く。
 同時にブレスの中に収納されている、アタック・バンディレット・レジスタンススーツ……「アバレスーツ」と略されるそれが彼らの体を覆い、エヴォリアンと戦う戦士……「爆竜戦隊アバレンジャー」へと変えた。
「元気莫大! アバレッド!」
 基本色は赤。パートナーは超ドリル進化した爆竜ティラノサウルス。
「本気爆発! アバレブルー!」
 基本色は青。パートナーは超シールド進化した爆竜トリケラトプス。
「勇気で驀進! アバレイエロー!」
 基本色は黄。パートナーは超カッター進化した爆竜プテラノドン。
「無敵の竜人魂! アバレブラック!」
 基本色は黒。パートナーは超ハンガー進化した爆竜ブラキオサウルス。
 彼らの胸元の「三つ指の足跡」に似た紋様から、熱く滾るダイノガッツがあふれ出し、僅かにシンクチナシマウマが怯む。
「荒ぶる、ダイノガッツ! 爆竜戦隊」
『アバレンジャー!』
 ポーズが決まると同時に、彼らのダイノガッツが爆煙の幻を見せた気がした。
 恐竜、あるいは爆竜と触れ合う機会が極端に少ないアナザアースの住人でありながら、爆竜達と意思の疎通ができ、更にはその力を引き出す事が出来る三人のアナザアース人と、ダイノアースでも名の通った戦士で構成された四人組。
 それこそが、彼ら……爆竜戦隊アバレンジャーである。
「なんか、色とりどりで良いですね」
「……津上さんは一人で三色体現できるじゃないですか。他にも銀や紅もありますし」
「そっちの方が派手だろう」
 パチパチと呑気に拍手を送る翔一に軽くツッコミを入れながら、氷川と葦原が呆れたような視線を送る。
 しかし、翔一としてはやはり羨ましいと思うらしい。アギトは色のバリエーションが豊富とは言え、基本色としての黒が強いし、ギルスは暗い緑、G3-Xは鮮やかな青だが、生憎とその鎧は今ここ場にない。何よりも全て寒色だ。三位一体のトリニティフォームや、「超絶感覚の赤」であるフレイムフォーム、燃え盛る業火の戦士のバーニングフォームなら暖色である「赤色」も入るが、やはり全員が同じようなデザインかつ色違いと言うのは、チームという感じがして少し羨ましい気がした。
「アバレンジャー……ダイノガッツ……闇にも光にも属さぬ、ヒトの力」
 ゆらりとその馬面を傾げつつ、シンクチナシマウマが低く呟く。
 その声に、憎悪にも似た何かを感じたのだろうか。翔一は腰にベルトを出現させ、葦原は低くその身を構える。
 唯一氷川だけは、悔しげにそこから一歩下がり……
『変身!』
 氷川の前で、二人の姿も変わる。
 暗い緑のエクシードギルスと、銀色の胸元に赤い角のアギト・シャイニングフォームに。
「氷川さん、逃げ遅れた人達の誘導お願いします」
「分りました。……お気をつけて」
 翔一の言葉に、どこか悔しげに頷くと、氷川は素早く周囲を見回しながらその場から離れる。
 その視線の先に、何者かの影を見止めて。
 一瞬、シンクチナシマウマの追撃でもあるのではないかと警戒をするが、相手は駆ける氷川を目で追うだけで、攻撃を仕掛ける様子もない。
 それを不思議に思ったらしい。凌駕は軽く首を捻って小さな呟きを落とす。
「……あの人の事は、見逃した……?」
「あれは、人間。殺してはいけない、者」
「これだけ沢山の人を殺しておいて、何を言う!」
「フッ。そういう物言いだから、器量が小さいのさ」
 シンクチナシマウマの答えに納得がいかなかったのだろう。怒鳴るようにアスカはそう返すと、彼の武器であるダイノスラスターを構え、薙ぐように相手を斬り払う。
 ダイノスラスターは相手の肩にあるクチナシの花を捕えるが……ガギン、と見た目に反した金属音が響き、その剣戟は弾き返されてしまった。
「今の手応えは……!?」
「ジャバジャバ。俺は全身超合金的な感じなのさ」
「超合金『的』ってお前……」
「超合金じゃないのか」
 抑揚のない声で答えた相手に、思わずツッコミを入れる幸人と葦原。
 それを聞き、一瞬だけ相手は固まるが……何故か素直にこくりと頷いていた。
「それなら、何とかなるかも知れないです……ね!」
 翔一が言うと同時に、その手の中にある剣……シャイニングカリバーが閃き、相手の体を薙ぎにかかる。同時に葦原も大きく一つ吠えると、踵に生える棘とも刃とも呼べるそれを振り上げ、相手の出っ張った腹部……その中でも、小さく見える「黒い模様」めがけて振り下ろした。
 腹部を狙った事に、深い意味はない。ただ本能的に、「その位置」なら攻撃が通ると感じただけだ。
 その様子を冷静に見つめながら、シンクチナシマウマはかわそうと身をよじる。だが、僅かにではあったが、二人の刃は狙っていた相手の脇腹を掠めた程度に抉った。しかし、抉ったと言っても傷は浅い。即座に判断し、凌駕達もアバレイザーで追撃をかけようとした瞬間。
 相手が、吠えた。同時に、頭の中の何かを追い払うようにブンブンと首を振り、シンクからはジャバジャバと水が溢れ出す。まるで今まで人間から奪ってきた水分を、一気に放出するかのように。
「一体、何……?」
「お……俺がぁ……」
 らんるの驚愕の声が聞こえているのかいないのか。相手が小さく呟いたかと思うと、突如その顔をこちらに向けた。
 その瞳は、先程までの暗いものではない。明るい……とは決して言えないが、トリノイド「らしい」ふざけた印象の色が浮かんでいる。
 妙に苛立っているように見えるのは、先程の翔一の攻撃のせいなのか、それとも別の要因があるのかは分らないが。
「俺が一番、アナザアース人をうまく殺せるんだぁぁぁぁっ!」
 そう咆哮を挙げると同時に……シンクチナシマウマはジャバジャバと言いながら、彼らに向かって突っ込んでいくのであった。


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