クロスシリーズ

□五色の戦士、仮面の守護
6ページ/80ページ


「確か、この辺りのはずだが……」
 生真面目そうな青年こと流ノ介が、僅かに顔を顰めながら呟きを落としたその瞬間。まるで彼らを待ちうけていたかのように、一人の男と、奇妙な姿の異形が立ち塞がった。
 男の方の格好は、茶を基調とした質素な和装。しかし、首周りには何かの動物の毛皮のような物が巻かれており、色の白い顔には、右目の下に赤い線で何かの紋様が描かれている。
 異形の方は、オウムに似た嘴とマイクに似た腕を持っている。体色はくすんだ緑色をしており、魔化魍の一種、コダマに似た印象を持つ。
「やはり現れたな、外道衆」
「それに、その隣にいるのは……童子だな」
 丈瑠に続くように、ヒビキも低く呟く。
 いるだろうと予想はしていたが、まさか一緒にいるとは思ってもみなかっただけに、難儀な事だと苦笑すら浮かぶ。
 それでいて、本命の魔化魍の姿が見えないのだから、余計に厄介だとさえ思えた。
「現れたな、シンケンジャー」
「それに、鬼も」
 忌々しげに吐き捨てるアヤカシとやらに続き、童子も顔を顰めながら、女性のような声で言い放つ。
 童子が女声で喋るのはいつもの事だ。そう驚く事ではない。しかし……ヒビキはそれ以外の点で、童子に対して驚きを感じていた。
 先にも述べたように、通常、童子と姫が別の者と手を組む事はない。魔化魍同士でも同じ事。稀に合成魔化魍を生む為に手を組む事はあるが、基本的には魔化魍同士でも縄張り争いをするくらいだ。それが今、他種と手を組んでいる。
 ……通常なら、あまり考えられない事態だ。「異常」とさえ言って良い。
「驚いたな。まさか童子がそんなのと手を組むなんて」
「彼と私の利害が、一致したのだよ」
「利害、だと?」
 驚きをそのまま言葉にしたヒビキに答えたアヤカシへ、今度は丈瑠が軽く眉を顰めて問い返す。
 他の面々も気になっているのか、半ば睨みつけるようにそのアヤカシを見つめて、その先の言葉を待つ。
「そう。このアヤカシ、コエトリが人間の声を奪い、絶望させ……」
「奪った声を、子供にあげる。喰われた声は二度と戻らず、人間は永遠に嘆き続ける」
「人間の嘆きが、三途の川を溢れさせ、この世を賽の河原と同じにする。……利害の一致、だろう?」
 くっくと低く笑うアヤカシ……コエトリとかいうらしいそいつと、その横で楽しげに笑う童子達に、全員が殺気立つ。
 この世を三途の川に沈めようとするアヤカシも許せないし、人に害為すためだけに存在している魔化魍も許せない。
 ならば、彼らの取るべき手段はいつもと同じ。これ以上の被害を出さぬよう、相手をこの場で相手を倒す事だ。
 ヒビキが決意し、同時に他の二人の鬼もそれぞれ変身するために構えた瞬間。
 ドンドンと、手持ち太鼓の音が響いたかと思うと、自分達の周囲に黒子達が陣幕を掲げだした。
 陣幕の紋は「折紙の兜」……志葉家の家紋。そして、いつの間にか自身の後ろにも、巴紋に似た印……ヒビキの太鼓の模様の入った、特別な陣幕が掲げられる。
「……は?」
「え?」
「何だ?」
 思わず呆けた声をあげつつも、鬼達はひょいと隣を見ると……私服姿だったはずのシンケンジャー達が、袴姿で立っている。しかもその手に、携帯電話のような、筆のような……赤い何かを構えた状態で。
――いつの間に着替えたんだ?――
 不思議に思いながらも、慣れた様子の彼らを見て……どうやら、こういった物らしいと自身を納得させるヒビキ。そして……
「ま。一丁やりますか」
「……ええ、そうですね」
「こういうのも、たまには悪くないっす」
 三人の鬼は、そう言うと、各々の変身ツールを構える。
 ヒビキは音叉、イブキは笛、そしてトドロキは手首に着けている小さな弦を。
 目の前の敵を、倒すために。



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ