クロスシリーズ

□五色の戦士、仮面の守護
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 所変わってジャカンジャの居城、センティピード内部。吼太と七海が、マゲラッパと遭遇する少し前。
 中央に座すジャカンジャの頭領、ドン・タウザントの前に、彼の直属の部下である上忍、暗黒七本槍と呼ばれる面々が並んでいた。
 「七本槍」とは呼ばれる物の、既にその内の二人はハリケンジャー達に倒されている為、実際にいるのは五人だけなのだが。
 未だ地球を腐らせる事が出来ず、苛立ったような空気が流れている中、どこからともなく一人の青年が姿を見せた。
「宇宙忍群、ジャカンジャの皆様でございますね?」
 慇懃無礼という表現が合いそうな薄ら笑いと態度を見せて一礼するその青年に、五人は軽く眉を顰めてその姿を一瞥する。
 唐突に現れたそいつに、最初に食いついたのは京劇役者のような化粧の仮面をつけた忍……六の槍、サタラクラであった。
 やってきた青年を、品定めでもするかのように無遠慮に見やりつつ、大げさなリアクションで声をかける。
「何? 何なのチミはぁ?」
「私は旅の商人。エステルと申します。以後、お見知り置きの程を、サタラクラ殿」
「エステル? 聞いた事ないわね」
 名乗った青年……エステルに言ったのは、セクシーな印象の錬成術師、四の槍であるウェンディーヌ。どこか馬鹿にしたような彼女の言葉にも、気を悪くした様子も見せずに、エステルは薄ら笑いを顔に張り付かせ、またしても一礼と言葉を返す。
「駆け出しでございますから、あまり名は知られてはおりません。ですが、それ故に皆様と懇意にさせて頂ければと」
「ほう? それで、貴殿は今日、何を売るつもりだ?」
「いえいえ。本日は売りに来たのではなく『ご挨拶』に伺ったのです、サンダール殿」
「何?」
 鮫のような顔をした忍、七の槍、サンダールに答えながら、エステルは懐中から一本の「何か」を取り出す。
 色は黒。中央付近には「Z」の字を模る鞭のような絵が描かれている。
「これは『ガイアメモリ』。武器弾薬の類ではなく、ただの強化ツールに過ぎませんが……この商品、きっとフラビージョ殿の採点でも、満点を頂ける物であると自負しております」
「フン。随分と余裕だな」
 答えたのは蜂のような格好をしている一の槍、フラビージョではなく、武者鎧のような戦士である五の槍、サーガイン。
 それに気を悪くした風でもなく、エステルはふと軽く口の端を歪ませた。
 サーガインの言う通り、余裕に満ちた表情で。
「フフ。余裕がなければ商人など勤まりません。その余裕がフェイクか本当かを見抜くのは、皆様次第ですがね」
 外見上は恭しいまでの態度を見せつつ、エステルはにこやかにそう言うと、その「ガイアメモリ」をタウザントに向かって差し出す。
「使う、使わないはタウザント様のご自由に。こちらはサービスですが、別料金で使い捨ての駒もご用意致します」
「……ほう」
「ご興味がおありでしたら、今すぐにでもご用意致しますが?」
 クス、と笑いながら差し出されるそれを見つめ、タウザントはすっとその目を細める。
 目の前に立つ男は、かなりの邪心を持っているらしい。「使い捨ての駒」までも用意しているとは、実に周到な相手だ。
 仮にここで断れば、今度は地球忍者の元に売り込みに行くかもしれない。それは少々厄介。
 それに……エステルの持つその「ガイアメモリ」からは、どことなく邪悪な力を持っているように感じる。「アレ」を発生させるに足るかもしれない、どす黒い何かを。
「……良かろう。その商談、成立させようではないか」
 低く、ゆったりとした物言いで返すと、タウザントはそのメモリに手を伸ばし……そして、サンダールに向かって放り投げた。
 恐らくは、サンダールにそれを使えという意思表示なのだろう。
 投げられたそれをありがたく受け取ると、サンダールはじっとそのメモリを観察した。
 タウザントがメモリに邪悪な力を感じたように、サンダールも同じものを感じ取る。だが、そのちからに対する考え方は、恐らくタウザントとは異なるのだろう。
 すぐに自分に手渡したタウザントとは違い、妙に惹かれるものがある。
「フフ。流石はタウザント殿。誰に使わせるべきかを心得ていらっしゃる」
 クックと喉の奥で笑いながらエステルはそう言うと、顔をサンダールに向けて今度は彼に向かって言葉を紡ぐ。
「ご自身でお使いになるのも結構ですが、扇忍獣にお使い頂けますと、より効果的です。そうですね、そちらのメモリでしたら、狼系がよろしいかと」
「ほう。何故だ?」
「相性とでも申しましょうか。その中に記録されているモノとの、ね」
 そう言ったエステルの表情に、サンダールは思わず戦慄する。一見するとにこやかにも見える表情だが、その内から滲み出る空気はとてつもなく冷たい。
――私にプレッシャーをかける商人とは……一体何者なんだ?――
 心の内で、目の前に立つ特徴のなさすぎる男に対して、相当な不信感を抱きながら、しかしそんな事はおくびにも出さず、彼は鷹揚に頷いたのであった。



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