クロスシリーズ

□五色の戦士、仮面の守護
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 一方その頃の海東(かいとう) 大樹(だいき)
 どこかの高架下で、彼は今にも踊りだしそうな軽やかなステップを踏みつつ、手に入れた「お宝」を見つめてはフフと軽く笑っていた。
 ……そのニヤケ面は端から見ていると、ある種不審者と言えよう。通報されても文句は言えないだろうが、幸か不幸か、今いる場所は彼以外に誰もいない。高架下特有の反響音も、彼の足音と時折漏れる笑い声以外はない。
 先程まで自分を追っていた三人組は、インビジブルのカードを使って撒いた。それでも、まるで自分の姿が見えているかのようにしつこく追って来られたのは、流石は忍者と称賛すべきか。
 しかし途中で何かあったらしく、彼らは悔しげに舌打ちをすると、こちらの追跡を諦め、別の方向へ駆けて行くのを見かけた。
 流石に今回は逃げ切れないかもしれないと思っていた矢先の出来事だっただけに、自分には運が味方に付いているとさえ思える程だ。
 何しろ相手は忍者だ。逃げるにしろ、一筋縄では行かない相手だろうし、最悪の場合は違う世界へ逃げてほとぼりが冷めるのを待つしかないか、とも思っていたのだが。
 海東の持つメダルには、それぞれ「兜」と「拳」の文字が書かれている。このメダルをある装置に入れると、最高のお宝とも呼べる物が出現するという。海東の最終的なターゲットは、その「最高のお宝」だ。それを手に入れる為にも、今度はその「ある装置」とやらを手に入れなければならない。
「疾風と迅雷のお宝、風雷丸……まさに、僕が持つに相応しい」
 止められぬ笑いを噛み殺す事なく、浮かれ気分で前に進もうと思った矢先。
 海東の背後から、声が響いた。
「Hey、そいつはどうかな?」
「……誰かな?」
 声の主を確認しようと、ゆっくりと海東は振り返る。しかし、声がしたはずのそこには誰もいない。
 人の気配はない。しかし、確実に「居る」。強いていうなら、自分が先程まで使っていたカード……インビジブルの効果を発動している時に似ているだろうか。
 恐らくは先の三人組の仲間といった所だろう。ならば油断は出来ない。何しろ相手は忍者なのだから。
 手に入れたメダルを奪われぬようにぐっと握り締め、もう一度自分もここから姿を消すべく、銃型の変身ツールであるディエンドライバーと、変身に使用するためのカードを構え……
 その一瞬後、自分の手の中からディエンドのカードが消えた。それが奪われたのだと気付いたのは、いつの間にか現れた「そいつ」の手の中に、ディエンドのカードが納まっていたのを見てからだった。
「なっ!?」
「ユーが何をしようとしているのかは、ミーも大方Understandしているさ」
「……それは僕のカードだ。返したまえ」
 ディエンドのカードを見せつけるようにしながら言う「そいつ」に、海東は僅かに苛立った声を投げつつ、言葉通り返せと言わんばかりに自身の手を伸ばす。
 自分が盗むのは許せても、自分から盗まれるのは許せない。
 そんな海東に、相手は軽く頷きを返すと彼と同じように手を差し出し……
「OK。ただし、ユーが鷹介達にシノビメダルを返したら、と条件をつけさせてもらうよ」
「断る。このお宝は僕の物だ」
「Oh no。それじゃあ、このカードはユーには返せない」
 海東の言葉に、相手はひょいと肩を竦めながら余裕綽々といった態度を返す。声や仕草は、どこかふざけている印象を持たせるのに、その姿には隙がない。それだけでも十分に、先の三人よりも実力があるのだろうと理解できた。
 だが、自分が大切にしているものを盗まれたまま引き返すのは癪に障る。海東にとって、ディエンドライバーとディエンドのカードは、セットで存在しなければならないし、他のどんなお宝よりも執着を持つ一品だ。
――参ったな、どうにかして僕のカードを取り返さないと――
 表情には出さずにそう思った瞬間。相手はそれまでとは打って変わった真剣な声で、海東に向かって言葉を放つ。
「それに……ユーにはメダルは扱いきれない。それはこの星を……世界を救うために必要なアイテムだ。Collectionして、どこかへしまわれては意味がない」
「そう言われて、引き下がる僕じゃない」
 人気のないトンネルの中。
 二つの人影は、静かに火花を散らす。



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