クロスシリーズ

□五色の戦士、仮面の守護
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「……いつの間にショッカー団員まで売ったのだ、エステル」
「アレか? 光栄次郎……っつーか死神博士経由で購入か? かぁぁ、抜け目ねェなぁ」
「馬鹿を言わないで下さい、天狼。あの方は本当に、普通の日用雑貨しか購入してくれません。買う位ならご自分で作成するそうですし、そもそも私があの方から買うと? そんな利益が、五回ほど使いまわした紅茶パックで六杯目を出す以上に薄い事、するとお思いですか?」
 帰ってきたエステルを真っ先に出迎えたのは、爪牙の放った呆れ混じりの言葉と、興味深そうに見つめる天狼であった。そんな彼らの後ろには、エステル自身と「もう一人」を除く面々が、何とも言えぬ表情で控えている。
 それに対し、エステルは心底疲れたと言わんばかりに専用のソファに身を沈め、彼らしからぬ乱暴な仕草でネクタイを外して後、深い溜息と共に答えを吐き出した。
 答えに使われた比喩が、やたらと貧乏くさいのに、リアルに想像出来てしまうのは、ひとえにこの「星」と呼ばれる面々の家計が、ちょくちょく逼迫する事に起因するのだろう。
「それに、団員は売っていませんよ。まあ……スーツは売りましたけど」
「……ならば、中身は……マゲラッパと同じ、ムカデもどきの宇宙昆虫?」
「いいえエトワール。もう少し嫌悪感をもよおすモノ……と聞いています。実物は見てませんし、見たくもない」
「ムカデより、嫌悪感? …………アレか……」
「ああ! 台所や風呂場に出没する、無条件に女性に恐怖感を与える、あの黒光りする虫ですね! 人によっては油虫って呼ぶ! 一般的には『御器齧り(ごきかぶり)』って……」
「いぃやぁぁぁぁぁぁっ! エステルたん、連れて帰って来てないでありんしょうね!?」
「彼らって、鞄に潜り込んで移動するって聞いた事ありますよ!」
「いやもぉ何故にズヴェたんはそんなに楽しそうなんでありんすかぁぁぁぁぁ!!」
 「ゴ」で始まる家庭内害虫の話で盛り上がりを見せる……と言って良いのか微妙な線だが、とにかく妙に騒がしくなり始めた五人に視線を送り……そして、再びエステルは溜息を吐き出した。
 ……最も騒がしい「最後の一人」の帰宅に気付いたから。
「Hey、俺抜きで随分楽しそうじゃないKa! 混ぜてくれよ、Stella(ステラ)
鬼宿(きしゅく)、煩いですよ」
「Wao! 不機嫌だねぇ。おまけにかなり疲れてRu」
「……誰のせいだと思っているんですか、あなたは」
 最後の一人、鬼宿と呼ばれたその存在は、耳まで裂けた口の端を更に吊り上げ、楽しそうに肩を竦める。
 額には一本の角、顔は赤く、伝記で見かける「鬼」に見える。ただ……その格好は、黒い皮に金糸で虎の刺繍が施されているジャンパーに、ケミカルウォッシュのジーンズ、そして濃茶色のロングブーツと言う、そこそこファッショナブルに思えなくもない服装ではあるが。
 そんな彼の登場にようやく気付いたのか、他の面々もジトリと冷ややかな視線を彼に送り……
「元々、鬼ぃたんがあまりに遅いから、余計にエステルたんの機嫌が悪いのでありんす。しかも、あっちゃこっちゃで暗躍していたせいで超忙しかったんでありんすよ〜」
「……鬼宿。要・反・省。俺達は、苛立ったエステルに、八つ当たりをされた、だけ。彫刻刀……取り上げられた」
「今更のこのこ現れるとは、我を差し置いて良い御身分だな。下準備は済んでいるのであろう? ならばさっさと行って来てはどうなのだ?」
「居なかったら居なかったでちょいと寂しいが、居たら居たで煩ぇんだよな、鬼宿」
「What!? (なに)Ka、これは最近流行の村八分(ハブ)られてるって奴Ka!? それともIZIME!? 真面目な爪牙やEtoile(エトワール)ならともかKu、天狼やStellaまで俺の敵Ka!?」
「だ、大丈夫です! どちらかと言えば、その……僕の方が無視されている率が、その、た、高いですから!」
Zvezda(ズヴェズダ)、それは慰めになってねぇYo。……でもまあ良いSa、確かに俺もゆっくりしすぎたと思ってたトコだしNa」
 唐突に現れ、そして怒涛の仲間内からの批難を浴びながらも、鬼宿は明るく前向きに、HAHAHAと、ある意味気色悪い笑い声を上げてくるりと踵を返す。
 ……その目尻にうっすらと涙が浮かんでいるのは、恐らく気のせいではないだろうが。
「……実験の際は、せいぜい『皇帝に愛された子』達にはお気をつけなさい。何しろこちらのメモリにあわせた戦士を送って来ているようですからね」
「安心しNa、Estrella(エステル)。連中はしっかりと閉じ込めておくSa。この、『Mのメモリ』でNa」
 言って、鬼宿が彼らに見せたのは中央に「M」と描かれたガイアメモリ。
 その中に何が記録されているのか、エステルは承知しているのだろう。成程、と小さく呟くと、真剣な表情で鬼宿を見やり、言葉を続けた。
「良いでしょう。気を付けて。……ああ、それから、『奴』も動いています。軍門に下ったと思しき輩がうろうろしているようですので、そちらも注意しておきなさい」
「……いたのKa?」
「アバレンジャーの時間軸にはいました。が、ハリケンジャーの時間軸には、『十番目』がいたせいで手を出せなかったのでしょう」
「OK、一応、こっちも気を付けつつ、忠告もしてくるZe」
 先程までのふざけた空気を消し、真面目な声で答えると、鬼宿はひらりと手を振ってその空間から消えた。
 己の目的と、嫌う相手への妨害という仕事を、達成する為に。



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