クロスシリーズ

□五色の戦士、仮面の守護
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【Quest33:鏡獣、魅せる!】


「きゃあ!」
「ホワイト!!」
 必死に手を伸ばすガオホワイトと、彼女の手を掴もうとする仲間達。
 しかしその手は、あと少しのところで届きません。ガオレッドの爪と、ガオホワイトの爪が微かに触れ……しかし次の瞬間、ガオホワイトの姿は仲間達の目の前から消えてしまったのです。
 彼らの目の前に居る、オルグの攻撃によって。
 そのオルグの両脇には、ヤバイバとツエツエの二人が、おかしそうに笑いながら立っています。
 一体、何があったと言うのでしょう。
 そしてガオホワイト、大河(たいが) (さえ)は、一体どこへ消えてしまったと言うのでしょうか。
 それを知る為に、私達はほんの少し、時間を遡る事にしましょう。


 うららかな青空の下、天空島ではパワーアニマル達とガオレンジャーは、久し振りに穏やかな昼下がりを過ごしていました。
 ハイネスデュークであるウラを、新たな仲間、ガオシルバーと共に倒してから数日。このところ、オルグが鳴りを潜めていた事も、穏やかさの一因なのでしょう。
「ホント、良い天気だなー。……シルバーも天空島に来れば良いのに」
 ぐっと大きく伸びをしながら言ったのは、赤き戦士であり、ガオレンジャーのリーダーであるガオレッド。そんな彼の声に同意するかのように、崖の上では彼の相棒とも呼べるパワーアニマル、ガオライオンが雄々しい咆哮を上げています。
 平安の世から千年の時を経て、現代に蘇ったガオの戦士であるガオシルバー。彼には戦士として、そして仲間として、レッドは色々と話をしたいと思っています。
 しかしシルバーは、レッドをはじめとする五人と距離を取るかのように、この天空島ではなく地上の……どこか人目につかない場所にいる事が多かったのです。
 それは恐らく、理由があったとは言え「狼鬼(ロウキ)」という名のオルグとして彼らの前に立ち塞がり、彼らを苦しめてしまったという事実と、「一人だけ平安人(へいあんびと)である」という思いから、五人の前に居辛いと感じている為なのかも知れません。
――俺達、仲間なのになぁ――
「……でも、きっといつか、シルバーも俺達と一緒に、天空島で過ごしてくれるよな」
 半ば自分に言い聞かせるように言ったレッドの言葉に、ガオライオンも再び同意の咆哮を上げてくれます。
 ガオライオンもまた、散り散りになっている他のパワーアニマル達と共に、この天空島に居たいと思っているのでしょう。
 その思いを感じ取り、レッドがふ、と笑った瞬間。ガオの巫女であるテトムの、緊張感溢れる声が響き渡りました。
 ……邪悪な衝動を感知した、と。
 ある意味、久し振りとも言えるオルグの出現に、ガオレンジャーは顔を引き締め……そして、オルグがいるであろう場所に向かったのでした。


 一方、こちらは鬼洞窟(マトリックス)。その中では、ピエロのような顔をしたデュークオルグ、ヤバイバと、人間の女性によく似た顔をしたデュークオルグ、ツエツエが困ったようにうろうろとその場を行ったり来たり。
 それもそのはず。次のハイネスデュークが見つからないのです。オルグはある意味、ハイネスデュークの存在を中心に集っているような物。次のハイネスデュークがいないと、オルグ自体が纏まらないのです。
 下手をすると自然解散、という事になりかねません。
「ガオレンジャー共が六人に増えちまったって言うのに、こっちは次のハイネスデュークが見つからないなんてよぉ……これは、流石にヤバイバ」
 甲高い声で、ヤバイバは心底困ったように唸ります。それに同意するように、ツエツエも深い溜息を吐いては、この鬼洞窟にいるオルグに目を向けていました。
 集ってくる魔人はいる物の、どう考えてもガオレンジャーに対抗しきれるとは思えない者ばかり。つまり、「使えない」と思わされる者ばかりなのです。
 ハイネス不在、力あるオルグも決定的に不足。この不景気を絵に描いたような状況では、流石に溜息も漏れましょう。
 そんな中……一人だけ、妙に明るいオルグがいます。
 額の角の本数は一本。という事は、ヤバイバ達と同程度の力を持つ、デュークオルグなのでしょうか。真っ赤な顔に、耳まで裂けた口、金糸で虎の刺繍が施された革のジャケットは、一体どこで手に入れたというのでしょう。
「Hi、ヤバツエコンビ。辛気臭いFaceしてるNa」
「お前は……」
「ゲ。鬼宿」
 ニヤニヤと笑う、鬼宿という名のデュークオルグに対して、ヤバイバとツエツエは何故かとても渋い顔で返しています。
 過去に何かあったのでしょうか。妙に温度差があるのは、気のせいではないのでしょう。
「それで? 今更現れて、何の用なのよ?」
「Ah-Ha! なぁ、あっちにいるオルグは、『サンメンキョウオルグ』だよNa?」
「おうよ。それがどうした?」
 鬼宿の指の先にいるのは、その名の通り三面鏡らしいオルグです。鏡の部分を頭部に持ち、化粧台の縁の部分に彼の目があります。
 とはいえ、ヤバイバ達が「使えない」と判断する中でも、特に弱い部類に入るのでしょうか。他のオルグ達から、ただの姿見扱いを受けているようです。
「奴にPresentしたいモノがあるのSa」
「あんな奴に?」
「何を?」
「Power Up Item! 奴の力をMaxまで引き上げられるZe」
 訝る二人に対し、鬼宿はそういいながら、上着のポケットの中から細長い棒状の何かを取り出して見せたのです。
 本体の色は銀で、微かに射し込む光を反射して輝いていますし、中央付近には反射した光のような絵で「M」と大きく描かれているのも特徴でしょうか。
 それと鬼宿の顔を交互に見つめながら、ヤバイバもツエツエも、その顔に浮かぶ不信感を隠そうともしません。それどころか、ヤバイバに到ってはあからさまな疑いを声に出していました。
「こんな物でかぁ?」
「Yes! そいつの名は『ガイアメモリ』。そいつの種類は……使ってからのお楽しみ、だZe」
 裂けた口を更にやりと吊り上げて笑いながら、鬼宿は自信たっぷりの様子で二人にそう言うのでした。


 そして……現在に至ります。
 サンメンキョウオルグとガオレンジャーの戦いは、決してガオレンジャーにとって不利な物ではありませんでした。途中で邪悪な衝動を感じ取ったらしいガオシルバーも合流し、六人で共闘。一時はサンメンキョウオルグを追い詰めまでしたのです。
 しかし、追い詰められたサンメンキョウオルグは、最後の手段と言わんばかりに自分の体に、件のガイアメモリを突き立てました。
 そこからの反撃は、まさに猛攻。有利だったはずのガオレンジャーはいつの間にか逆転され、そして……サンメンキョウオルグが、自分の頭である三面鏡を開いて見せた瞬間。
 ガオホワイトは強烈な力によって、その中に引きずり込まれてしまったのです。
「ここは一体……あたし、どうなっちゃったの……?」
 変身が解けた自分の姿を見下ろし、ホワイトは思わず周囲を見回します。
 変身が解けたのは、サンメンキョウオルグに吸い込まれた時でしょうか。その瞬間に奇妙な違和感を覚えたのを、ホワイトははっきりと認識しています。
 周りの景色は、先程と殆ど変わっていませんが……自分以外、誰も見当たりません。仲間はおろか、戦っていたはずのオルグ達の姿さえも。
 ただ、間もなく南中に差しかかろうとする太陽の光と、吹き抜ける風だけがホワイトの長い髪を撫でていきます。
――あたし、オルグの作った空間に閉じ込められちゃったの?――
 今まで戦ってきたオルグの中には、特殊な空間を作って自分達を閉じ込める、という手段に講じた者もいます。それを思い出したのでしょう、彼女は一瞬だけ呆然としたような表情になりました。
 しかしすぐにその顔も消し、戦士としてここから抜け出す事を考え……そこで初めて気付いたのです。変身に使うツールである、Gフォンがどこにもない事に。
「そんな……」
 吸い込まれた際に落としてしまったのでしょうか。もう一度周囲を見回しましたが、Gフォンの影も形もありません。
 あるのはただ、切り立った山々と、灰色の砂利、そして崖の上からこちらを見下ろす、黒いガゼルのような生き物だけです。
「……え……?」
――ガゼルみたいな、生き物……?――
 自分の視界に入ったその生き物を、彼女は思わず凝視します。二足歩行のガゼル。しかも、人間とほぼ同じ大きさのその獣。
 妙にメタリックな印象を抱かせる事を考えると、新しいパワーアニマルなのでしょうか? いいえ、それにしては邪悪な雰囲気を纏っています。強いて言うなら、シルバーが「狼鬼」であった時に使役していた、「魔獣」のような……
 そこまで思った瞬間、その獣は地を蹴り、ホワイトめがけて襲い掛かってきたのです。
 危ないと思うよりも先に、戦士として……そして武道家として、反射的に彼女の体が反応します。咄嗟に相手の長く鋭い角を避け、すれ違い様にその付け根部分に手刀を叩き込んだのです。
――硬い――
 叩き込んだ感触の固さに思わず顔を顰め、ホワイトはくるりと背を向けると一目散に駆け出しました。
 変身していれば……いいえ、武器さえあれば、何とかなったかもしれません。しかし今は完全に丸腰です。角を叩き折るどころか、まともに戦うのも難しいと判断したのでしょう。
――こんな時、Gフォンがあったら……――
 歯噛みしたくなるほどの悔しい思いを胸に抱きながら、ホワイトは極力ガゼルとの距離を取るべく、ひたすらに走ります。
 しかし……オルグが生み出した空間だからなのでしょうか。自分の知っている道のはずなのに、周囲はどんどん見慣れない景色へと変貌していくのです。おまけに、それ程時間も経っていないと言うのに、体が徐々に重い……いいえ、気だるいような疲労感に襲われ始めています。
 ふと空を見上げると、太陽は南中まであと一時間程度と言った位置で輝いて……
――待って、そんなはずない――
 否定の言葉が心に浮かぶと同時に、ホワイトの足がぴたりと止まってしまいます。
――だって、さっき見た時はもうすぐ南中で……ううん、その前に、私がオルグと戦っていた時、もうお昼は過ぎてた――
――まさか、時間を退行してるの!?――
 オルグの作った空間であれば、それもあるかもしれません。しかし、時間が退行しているにしては、どこかおかしい気もします。
 ぞくりと、冷たい物がホワイトの背を駆け抜け……ですが、この空間は恐怖で慄く程の余裕も与えてくれないのでしょうか。先程のガゼルが、低い唸り声を上げて、ホワイトの前に立っていたのです。
――先回りされてたなんて!――
 逃げようにも、ガゼルとの距離はそう開いていません。背を向けて逃げるには、あまりにも危険すぎる相手。やはりここは戦うしかないと、覚悟を決めたその瞬間だったのでしょうか。
 唐突に、彼女の頭上に翳が落ち、鈍い衝撃と共に体が大きく吹き飛ばされていたのです。
「きゃあっ!」
 ずしゃ、と砂利に思い切り叩きつけられる音と、思わず漏れた自分の悲鳴を聞きながら、それでもホワイトはどこか冷静に周囲を見ていました。
 今、自分の体を払ったのは、ガゼルではありません。何故ならガゼルは今、別の……蜘蛛のような大きな怪物によって捕えられ、手を、足を、そして胴を貫かれ、完全に事切れてしまっていたのですから。
「何!? 何でこんな……!?」
 手に当たった「何か」を無意識の内に拾い、そしてゆっくりと起き上がりながらも……ホワイトは足に根が生えてしまったかのようにその場から動く事ができません。
 オルグと戦っていた時は感じた事のない「恐怖」が、彼女の体を束縛していたのです。
――あたしも、このまま食べられちゃうの!?――
 ガゼルから出た、光の玉に似たエネルギーをを完全に飲み下し、ゆっくりとこちらに体を向けなおす蜘蛛を見やりながら、ホワイトが思わず身構えたその瞬間。
『STRIKE VENT』
 彼女の背後から、電子音が聞こえたかと思うと、すぐ脇を、炎を纏った赤い龍が通り過ぎ、蜘蛛の体を貫いたのです。
 しかし、それだけではありませんでした。蜘蛛とホワイトの間に割って入るように、突然紺色の蝙蝠がその姿を見せたのです。
「え……?」
『FINAL VENT』


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