クロスシリーズ
□生者の墓標、死者の街
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たったそれだけの、意味不明な文章。
それなのに……始は、何故か受け取っても平気だと思えた。
「青器龍水」なんて人物は知らない。
まして自らを「東方の守護者」などと称し、封印したはずのこのカード……ラウズカードを送ってくるような怪しい人物だ。人間ではないかもしれない。
ここにいる、海堂や……真司の連れてきた、渡と言う名の青年のように。
彼が剣崎一真と別れてから知ったのだが、自分が思う以上に「ヒトにあらざる者」が多いらしい。アンデッドと戦っていた時は全く気付かなかったが、最近ではアンデッドとしての特異な勘のような物が更に強く働くようになったのか。
だが、始が出会った人外の存在達は、ヒトに害をなす事なく……むしろ、人間よりも人間らしい心を持っている者が多かった。
……ここにいる海堂などは、その最たる例だ。天音に危害を加えるでもなく、単純にここにはコーヒーを飲みに来ている。そう言う相手を見ても、彼の闘争本能が刺激されるような事はない。
勿論、出会ってきた者達はアンデッドではない。だからこそ、闘争本能が刺激されないのかもしれないが……
大丈夫、なのかも知れない。根拠はない。だが、何故か分らないがそう思える。確信できる。
だからと言う訳ではないのだろうが、始は……心を決めた。
剣崎一真に、会うと。
ひょっとしたら、自分はまた、ジョーカーに戻るかもしれない。それでも、始は「相川始」であるために、一真に会うべきだと……そう思った。
そう決意した瞬間。
転がり込むように、一人の青年が店内に入るや、周囲をきょろきょろと見回す。
重苦しかった雰囲気が、彼の登場により一気にぶち壊され、ほっと一息つけるような空気が漂う。誰かを探しているのか、不安そうな顔でひとりひとりの顔を覗き込み……そして、見つけたらしい。
物凄く嫌そうな顔でこめかみを押さえ、出来るだけ目を合わさないようにしている、その青年……桜井侑斗を。
「侑斗、大変だ!」
「お前、何で……」
今まで「我関せず」を貫いてきた侑斗に、突然の訪問者が泣きつくように縋りつく。
訪問者の顔は、侑斗その物。ただし瞳の色は緑だし、髪も侑斗と違って長い上に一房だけ緑色だ。
「な、何だ!? 侑斗の兄弟か?」
「あ、はじめまして、桜井 白尾です。侑斗をよろしく」
「あ……はい……」
驚いたような声をあげた真司に、白尾と名乗った青年……言わずと知れた侑斗のイマジン、デネブは何処からか取り出したキャンディーを、侑斗以外の人々に配り始める。
……物凄い、純粋な笑顔で。
「お前は……少しは懲りろ! キャンディー配ってる暇があるなら用件を言え!」
「ああ、痛いって侑斗」
デネブの耳を引っ張りながら、侑斗は押さえ込むようにしてその場に座らせる。
大変だ、と言っておきながら、にこやかにキャンディーを配っている、自分と同じ顔をした男を見るのが嫌だったからか。
それとも照れ隠し的な愛情表現なのかは分からないが。
とにかく強制的に座らせられたデネブは、はっと思い出したように真剣な表情になり……
「実は……トンネルから、変な物がこっちに来たんだ」
「何?」
「モモタロス達も野上の所へ行って知らせてる。侑斗も野上と合流してくれ」
その、どこか切羽詰ったような物言いに、侑斗は「何か」を感じ取ったらしい。
勢い良く立ち上がると、侑斗は何も言わずに店を後にする。
「あ、おい、ちょっと待てよ侑斗!」
ただならぬ空気を察知し、真司もその後を追う。そんな真司に引っ張られるように、渡も彼らの後を追うように駆け出した。
おまけに、始までもが何かに引き寄せられるように彼らの後を追う。
「……ち」
既に後姿も見えなくなっている三人を見送って、蓮が小さく舌打ちをする。
そして……
「……ご馳走様。美味かった」
言うと同時に、会計を済ませる。
……無論、真司、侑斗、渡の分込みで。
「俺は帰るが、健吾、お前は?」
「……俺も、そろそろ帰りますわ」
「俺も帰るわ。天音ちゃん、またな」
お開き、と言った雰囲気になり、誘われてもいない海堂も、天音の頭を優しく撫でて、店の外へと出て行く。
一方、蓮は財布を懐にしまいこみながら、ぼそりと、
「……あいつらには、後で倍額を吹っかけておくか」
誰にも聞こえぬよう、そう呟いていたと言う……