クロスシリーズ

□生者の墓標、死者の街
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 どすり、と鈍い音がした。
 それは男が草加の心臓を、針状に伸ばした指で刺し貫いた音。
 ……あまりに現実味のないその光景に、思わず巧も太牙も言葉を失う。
 悔しそうな表情で倒れ、灰化していく草加には目もくれず、男はすたすたとその様子を見ていた真理と啓太郎の方へと歩き……
「Give me the belt」
 啓太郎が抱える、カイザのベルトを差しているのだろう。さも当然のようにそう言って左手を差し出していた。
 このままでは真理達が殺される……そう思った矢先、真理達をかばうようにして間に立ち塞がったのは、オルフェノク態の木場達だった。それを見て、楽しそうに笑うと……男は再び変身し、戦闘を開始する。
 その戦いに気付いていないのか、巧は今まで草加のいた場所にがくりと膝をつき、彼の亡骸代わりの灰を一掴み、掴みあげる。
 悲しみと失望の入り混じった、完全なる負の表情で。
 そこに、一瞬後には怒りの表情が混じり……木場達と戦う白いライダーにその視線を向けると、そのまま混戦の中へと踏み出そうと足を前に進める。
 だが……そんな巧の腕を掴み、太牙は落ち着いた様子で彼の顔を覗き込んだ。
「どこへ行く気だ、乾君?」
「放せっ! あいつを倒さなきゃ気が済まない!」
 激昂したのか、巧の顔にはオルフェノクとしての表情が浮かび上がっている。今にもオルフェノクとしての姿に変わりそうな雰囲気だ。
 人間では到底太刀打ちできないような馬鹿力を発揮しているのを肌で感じながら、太牙は小さく溜息を吐くと、真っ直ぐに巧の目を見つめ返し……
「いい加減にしろ!」
 その一喝と同時に、太牙の顔にファンガイアとしての模様が浮かび上がり、影からは同じ色をした蛇のような物が数本、巧の四肢に巻きついた。
「な……お前!?」
 太牙の「キバ」としての力は知っていても、「ファンガイア」としての力を知らなかった巧にとって、この束縛は驚きに値する。
 彼も「人にあらざる者」である事は何となく感じていたが、まさかこんな力を持っていたとは思ってもみなかったのだろう。そんな巧の驚きを無視しつつ、太牙は淡々と言葉を紡いだ。
「君の気持ちは、僕には分からない。殺された彼は、君の大切な仲間だったかもしれない。けれど……」
「分かってるよ『異世界だ』って言うんだろ。けどな、俺はお前みたいに冷静ではいられない」
「冷静、か。確かにそうかもしれないな。僕にとっては他人事だ」
「お前……」
「けれど……喪った者は還って来ない。本来の世界で、僕の花嫁が還って来ない様に」
 言いながら、太牙の視線は真理へと向く。
 恋焦がれるような、そんな視線を。
「お前、真理の事……?」
「いや、違うな。彼女は似ているだけさ。……僕の、クイーンにね」
 苦笑しつつ、太牙は首を横に振って視線を巧に戻す。その身にかけた闇の蛇の戒めも解いて。
「……何だかんだと偉そうな事を言っているけど、僕も君の事は言えないかもしれないな。園田さんが襲われたら……そして殺されたら、今の君みたいに取り乱すだろう……きっと」
「それは、真理がお前の愛した女に似てるからか」
 自嘲めいた顔で頷く太牙を見て、巧は何を思ったのか。
 少なくとも、もはやあの白いライダーに対する「憎悪」は消えていたように思う。
「畜生……畜生ぉぉぉっ!」
 一部の人間にしか聞こえない狼の咆哮は、風の唸りに混じって、燃え上がる炎と共に空に散った……


 どうやら、「始まりの地」からお客さんが来たみたいだね。しかも、ちょっとした結界付きで。
 アレじゃあ、僕もそう簡単に手を出せないかな。
 でも、草加雅人(カイザ)が死んだのは意外だったかなぁ……もう少し骨があると思ったのに。
 勿論、帝王のベルトが強すぎるって言うのもあるだろうけど……何かちょっと拍子抜けだなぁ。
 ま、良いか。次のイベントで楽しませて貰えば良いんだし。
 さて、じゃあそのためには……
「あ、もしもし、スマートレディさん? 『俺』だけど……」


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