クロスシリーズ

□生者の墓標、死者の街
29ページ/62ページ

「おーお。負け犬の遠吠えって奴かねぇ」
「ああ言う事を言い捨てる人は、大体において詰めが甘いんだよ。それは性格だ。多分、一生直らない」
「それはアレか? お前の経験則か、琢磨?」
「まあ……否定はしませんよ」
 変身を解いた海堂の茶化しに苦笑しつつ、琢磨は特に怒った様子もなく言葉を返した。
 自分でも自覚があるのだから、怒るのは筋違いという物だ。
 そんな彼らに、同じように変身を解いた名護が近付き……険しい表情で海堂と琢磨を見やる。
「渡君。この人達は一体何処の誰で、さっきの連中は何者なのか。知っている事は俺に理解できるように説明しなさい」
「僕も、あなたの事に興味があります。特に、そのスーツとか」
 琢磨もまた、名護の着ていた鎧……イクサシステムに興味があった。
 フォトンブラッドとは異なるエネルギー機構。その大きさゆえ、装着者の命に関わるという点では、ライダーズギアもイクサシステムも変わらない。
 スマートブレイン以外でも、こんなスーツを作る技術を、「人間が」持っていた事に驚いたのだ。
「……良いだろう。渡君。嶋さんと共に話を聞く。mal D'amourへ向かいなさい」
 琢磨の言葉に頷きながらそう返すと、名護はさっさと先陣を切って歩き出す。
 その後姿を見て、海堂は一つ、溜息を吐き出すと……
「……何だかねぇ。ああいう口調でしか話せねーのかね、あの兄ちゃん」
「名護さんの、癖ですから」
 苦笑いしながら、三人は名護の後を追い、mal D'amourへと足を向けたのであった。


「王が……お目覚めになった!?」
「それも、二人同時に……!」
 入ってきた科学者……彼もまたオルフェノクなのだが……が、ロブスターオルフェノクの問いに、息を切らせながら答える。
 その顔がほんのりと紅潮しているように思えるのは、王の目覚めに興奮しているからである事は、容易に想像できた。何故ならロブスターもまた、自らの胸の高鳴りを押さえられないのだから。
「それで? ロード達は今、何処に……?」
 メデューサレジェンドルガの問いに、やってきた男は深呼吸をひとつして、心を落ち着かせる。
 そして……
「最下層、『謁見の間』に居られます」
「そう、ありがとう」
 はやる心を抑えつつ、それでも二人の足は軽やかだった。恋する乙女が、恋人に会う時のような心持とは、こんな物なのかもしれない。
 待ちに待った、自分達の「王」の復活。
 これで心躍らない方がおかしいのだと、彼女達は思う。
 一歩一歩、会いたいのに会えないもどかしさを感じながらもようやく辿り着いた「謁見の間」には、彼女達が用意した玉座に腰掛ける二つの影。
 一方は白に近い灰色の、バッタに似た異形。その背にあるマントが、王たるに相応しい威厳を演出しているように見える。
「ああ……我らオルフェノクの王。あなたがお目覚めになる日を、どれだけ心待ちにしていた事か……」
 ロブスターの言葉にも、王……アークオルフェノクは、何の感情も映さぬ瞳で彼女を一瞥しただけ。すぐに横にある「何か」を手に取り、ガリガリと齧りついている。
 ……彼女は、それが何かを知っている。
 王に逆らったオルフェノクだ。鉱物の様に固められ、自らの血肉にするかの如く、ひたすらに齧りついていた。
 その横に座っているのは、三十代後半から四十代前半くらいの男。アークオルフェノクに比べると明らかに見劣りするのだが、醸しだす雰囲気は、ロードと呼ぶに相応しい物だ。
「ロード。お目覚めになられて何よりでございます。ご気分の方は……」
「ああ。悪くない」
 にやりと、悪人らしい笑みを浮かべつつ、男はメデューサを見やる。
 見た目はただの中年男性にしか見えないのに、その後ろには男とは全く違う形の、巨大な影が伸びている。どことなくバフォメット……一般的に広く知られている悪魔のような、そんなシルエット。
 石の棺に眠っていたこの男の姿を見た時は、ただの人間にしか見えなかったのだが……今、こうして目の前に座っているだけで、ロブスターは、肌がざわつくような感覚を覚えている。
 そして、それはメデューサも同じ。眠っていた時のアークオルフェノクには、全く恐怖しなかった。その辺のファンガイアと同じ程度にしか考えていなかったのだが……今なら、わかる。逆らってはいけないと、本能が告げている。
 何処までも無言なアークオルフェノクに対して、レジェンドルガの王……杉村(すぎむら) (たかし)と呼ばれた男を依代としたアークは、不敵な笑みを浮かべると自分達に額づく二人の異形に目を向け……にやりと笑い、宣言した。
「今日からここを、新たな魔界城とする。レジェンドルガとオルフェノクの支配は、ここから始まるのだ」
 その宣言と同時に……月に、巨大な目玉のような物が覆いかぶさった事を……人間はまだ、知らなかった。


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ