クロスシリーズ

□生者の墓標、死者の街
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【その39:戦士決断 ―キメル―】



「おりゃああっ!」
 激しく車体をくねらせつつ、ガオウライナーはギガノイド、「無題」の攻撃を避ける。
 上手い具合に避けてはいるのだが、いかんせん動きに無理が生じているため、乗客達は必死に座席にしがみつく。
「あいつ、少しは乗客(俺達)の事考えろよ……」
「先輩にそう言う繊細さを期待しちゃダメだって……」
 呆れたように言う巧に、ウラタロスは苦笑いで言葉を返す。
 これがデンライナーなら、モンキーボマー等で牽制やら攻撃やらが出来るのだが、今回はそうも言っていられない。
 頼みの武器は、先頭車両の「キバ」だけ……
「ほらほら、攻撃しないといつまで経っても終わんないよ。僕を倒すんでしょう?」
「うるせぇ!」
 啓太郎の挑発に怒鳴りつつ、何とか「無題」との距離を詰めにかかるモモタロス。
 振り下ろされた腕をかわし、その腕にガオウライナーの牙をつき立て、その身を時の砂へと帰す。瞬間だけ、パイプオルガンの音が聞こえたような気がするが、すぐにそれも世界に溶けて消えていく。
「反撃開始、ってトコかな。でもね、こいつが傑作と言われる所以(ゆえん)があるんだ」
 そう言うと、啓太郎は何事かを呟くと、パチンと指を鳴らし……その瞬間。
 「無題」の姿が、変わった。
 赤を基調とした姿、胸には黄色い翼竜の顔、左腕は赤いドリル、右腕は青いトリケラトプス。
「変わった!?」
「何あれ、格好良い! 乗りたい!」
 車窓から外を覗き、驚く面々の中で唯一無邪気に喜ぶリュウタロス。見た目は先程の五線譜よりも「ヒーロー」っぽく見える。
「完成、アバレンオー……ってね。どうかな?」
「なぁにが『暴れん王』だ。こっちは『電王』なんだよ!」
 意味なく張り合いながら、モモタロスは巧みなハンドルさばきで「無題」……いや、アバレンオーの左手のドリルをかわし、その左腕を「キバ」で薙ぐ。
 しかしその攻撃は僅かに掠めただけで、大したダメージにはなっていないらしい。動きに精彩を欠かぬまま、アバレンオーは交互に拳を突き出してくる。
 アバレンオーの肩に乗る啓太郎が、その笑顔を更に深くすると……
「それじゃあ、そろそろ必殺技と行こうか。……爆竜電撃ドリルスピン!」
「は?」
 こちらが不思議そうな声を上げると同時に、アバレンオーの左腕のドリルが回転。そのままこちらに突貫してくる。
 そう認識すると同時に、これまたなかなか無茶な体勢でその攻撃をかわし、ガオウライナーは何とか事なきを得た。
 ……唐突なその動きに、乗客達が頭をぶつけたりなどしたというのは、ご愛嬌と言うものである。
「おぅわっ! 危ねーなこの野郎!」
「やっぱ真似事じゃあダメか。僕にダイノガッツはないし、何よりこいつはギガノイドだし……」
 やれやれと溜息を吐きつつも、啓太郎はその肩から降りようとはしない。
 アバレンオーも周囲をうろちょろするガオウライナーをドリルや右腕のトリケラトプスで払いのける。
「ふざけん……なぁぁぁっ!」
 頑張ってかわしつつ、モモタロスは執拗にドリル部分をガオウライナーの牙で狙う。
 どういう訳かは分からないが、そこを潰せば動かなくなる……そんな気がしたのだ。
――モモタロス、勝算あるの?――
「わかんねーよそんなモン! 勘だ、勘!」
――そんなぁ……――
 身の内から聞こえてくる良太郎の心配そうな声にそう答えつつ、モモタロスはその「勘」を頼りに、ひたすらにドリルを狙う。
 まずは相手の武器を潰す。その本能が、彼にひたすらドリルを狙わせる理由なのかもしれない。
「おおおりゃあああああっ!」
 意地になってドリルを狙った、その瞬間。
 相手がかわす事で狙いは外れ、そのまま相手の胸部……翼竜の顔に突っ込んでいく。
「おい!」
「ぶつかる!」
「まずい……!」
 乗客達は口々に言いながら、やがて来るショックに備え、身を硬くする。
 ……だが、いつまで待っても衝撃は来なかった。恐る恐る目を開けて振り返ると、そこには胸部にぽっかりと大穴を空けたアバレンオーが立っている。
 咄嗟にガオウライナーで食いちぎったのだと気付くのに、そう時間はかからなかった。
「あーあ、プテラが食べられちゃった……それじゃ、今度はこんなの、どう?」
 さしてがっかりした様子もなく、再び指を鳴らす啓太郎。するとアバレンオー……いや、「無題」は応えるかのようにその姿を変える。小豆色と白の、どこかアバレンオーに似た……だが、もっと目つきの悪い巨人に。
「完成、キラーオー。……ときめくでしょ?」
 啓太郎の宣言と共に、キラーオーとなった「無題」はその手に巨大な槍型の武器を構え、先程とは段違いのスピードでガオウライナーを翻弄する。
「うわっ!」
「は、早い……!」
 何発か、その槍の攻撃を貰ったらしく、大きな衝撃がガオウライナーを襲う。
「ちぃぃっ。そうそう簡単にやられるか、よぉ!」
 一旦上空へ逃げ、キラーオーの猛攻を避けるガオウライナー。
 だが……
 甘かった。地上ではキラーオーが、こちらに槍を向け……
「爆竜必殺、デススティンガー!」
 持っていた槍が、こちらに向かって高速で飛んでくる。
 それこそ真っ直ぐに、ガオウライナーを破壊するために。
「やられてたまるかぁぁぁっ!」
 再び無茶な体勢でそれを紙一重でかわし、そのままガオウライナーでキラーオーを頭から食い散らすべく、ほぼ垂直になって急降下する。
 それに気付いたのか、啓太郎は血相を変えてキラーオーから降り、ガオウライナーの牙から逃げる。
 それはまさに刹那の差。頭からキラーオー……いや、ギガノイド「無題」は食われ、その姿を跡形もなく消された。
 後に残るは、彼の創造主が作った音楽だけ。それもすぐに、空気に溶けて消えてしまう。
「……やられちゃった」
 呆然と、だがどこか満足げにそう呟く啓太郎。
 戦う気満々なのか、それともモモタロスの無茶な運転から身を守る為だったのかは定かではないが、既に変身している仮面ライダー達がその前に立ち塞がる。
「俺を、殺すの?」
「貴様が元凶で……俺達の世界を侵略すると言うのなら」
 バイザーを構え、言い切った蓮に同意するように、他の面々もその敵意を彼に向ける。
 唯一巧だけが、戸惑ったように彼を見つめている。
「そうだね。……侵略は、止められない。今の俺じゃ、どうやっても」
「なら、倒すしかない。俺達の世界を守る為にも」
「俺は……死ぬ訳にはいかないよ」
 始の宣言にそう返し、彼……「戦車」は静かに仮面ライダー達との距離を取る。
 先に仕掛けたのは……太牙。闇のキバと化した彼は、「神」を名乗る者との距離を詰め、先手必勝と言わんばかりに、その顔面を蹴るべく右足を振りぬく。
 だが。
「『塔の駒』の当代の王。君は、たっ君と同じだね。優しくて、強くて……それ故に、王としては不安定だ」
 かわす様子もなく、ただ静かにそう呟く「戦車」。それと同時に太牙の攻撃が見えない何かにずらされたように反れた。
「何!?」
「登、下がれ!」
 驚愕の声をあげた太牙に言ったのは、既にソードベントで剣を用意していた蓮。その声に頷き、蓮と太牙の立ち位置が入れ替わる。
「鏡の戦士。大事な者を守りたいと願うのは、君だけじゃないよ。この世界にも大切な者を守りたいと願う存在がいる。……君も見たでしょ?」
 辛そうに眉を顰め、今度は右手で振り下ろされた剣を軽く受け止める。
 受けられた剣は、どれほど力を入れても動かない。相手の方はさして力を入れているようには見えないのに。
「伊達に神を名乗っている訳ではないか……」
「まあ、『戦車』だしね。これでも戦いの神、なんて呼ばれているんだよ」
 悔しげに言った蓮に、彼も苦笑混じりで返し……左手で、飛んできた矢と弾丸を打ち払う。
「『愚者の欠片』に『月の子』、それも紫の龍か。……うん、即席にしては悪くない連携だけど、俺には届かなかったみたいだね」
「どうかな」
 言われた方……始とリュウタロスは、不敵な笑みを浮かべる。刹那。彼の右側にかかる負荷が軽くなった。
 ……蓮が、剣を手放したのだと悟った瞬間。
「行くぜ! 俺の必殺技!」
「電車斬り!」
 モモタロスと良太郎の声が重なり、同時に「戦車」に向かって斬撃が繰り出される。
 ……だが、それも。見えない「何か」に阻まれ、その軌道を反らされてしまう。
「……バリア、だね。それもかなり強力な」
 端で見て、冷静に呟くウラタロスに、隣に立つジークもやれやれと言わんばかりの表情で立つ。
「お前が……この世界の海堂や長田、木場まで殺した張本人だって言うなら、俺は……」
 ギリときつく拳を握り締め、悔しそうに巧は呟き……
 その先の言葉を聞かず、「戦車」は奇妙な笑みを浮かべた。
 笑っているような……それでいて、泣いている様な、相対する矛盾した表情を。
「たっ君が僕を許せないって気持ちは、分かるよ。俺だって、自分の事が許せないんだから。でも……それでも、俺は死ぬ訳にいかない」
 許してくれとは、絶対に言わないけどねと付け加え、彼はただただその場に佇む。
 まるで、誰かを待っているかのように。
「……あのバリア、破るには相当の力が必要そうだね」
「ああ。それこそ全員の力を併せないと、無理かもしれない」
 ウラタロスの言葉に同意するように太牙が頷き……それを聞いた他の面々も、黙って頷いた。
 神を自称する者の障壁を破壊し、何としても侵攻を食い止める為に。
「それじゃあ……皆、行くよ」
「行くって良太郎。まさか……『アレ』じゃねえだろうな!?」
「うん。『アレ』で行くつもりだけど」
 モモタロスの言葉に、さも当然のように頷く良太郎。一瞬イマジンの面々は仮面の下で物凄く嫌そうな顔をしたのだが……仕方ないと思ったのか、やおら良太郎の周囲に集まり、一度に全員で憑依した。
「……はぁ!?」
 その様子に、思わず頓狂な声をあげる巧。
 それもそのはず、見た目は六人いたはずなのに、一瞬で一人に「纏まって」しまったのだから。
 基本の電仮面はモモタロスが変身していたソードフォームの変形、右肩にはウラタロスの電仮面、左肩にキンタロスの電仮面、胸にリュウタロスの電仮面が取り付き、終いには背中にジークの電仮面……超電王と呼ばれる形態である。
「うわーい、皆一緒〜! でもやっぱ気持ち悪〜い」
「だからそれは俺だっての! って言うかお前も何で普通に入ってんだ鳥野郎っ!」
「お供達、私の為、誠心誠意働くが良いぞ」
「何や、久し振りやのにそんな気ィせぇへんなぁ」
「外さないでよ、先輩」
――もう、皆真面目にやってよ……――
 全員バラバラにそんな事を言いつつ、ぽかんとこちらを見つめる面々に向き直り……
「何ぼんやりしてんだよ? あの野郎をぶちのめすんだろうが?」
「あ、ああ」
 言われ、我に返ったように他の面々も最強形態に変身する。
 ナイトはサバイブに、カリスはワイルドカリスに、ファイズはブラスターモードにそれぞれフォームチェンジし、唯一その必要のないダークキバだけが、一足先にウェイクアップフエッスルを用意していた。
「それじゃあ行くぜ、カミサマよォ……」
 モモタロスのその言葉が合図になったように全員がそれぞれの最強技を同時に「戦車」に向かって解き放つ。
「う、く……っ」
 苦しげに呻きつつも、戦車はそれを弾き返そうと両腕を前に差し出すが……
 ビキ
 何かにひびが入るような音と共に、「戦車」の顔も驚愕に歪む。
 そして……唯一、その「見えない壁」を貫いたのは……ファイズ。
「嘘……!」
「啓太郎ぉぉっ!」
 一瞬の出来事に「戦車」も反応しきれなかったのか。ギリギリでかわしきれず、左肩にそのキックを喰らってしまう。
「うわぁっ!」
 悲鳴を上げて大きく転がる彼を見ながら、最後通告と言わんばかりにファイズは彼に歩み寄り……言葉を、かける。
「啓太郎。お前の……負けだ」
「……そう、かもね」
 にこ、と笑いながら。
 啓太郎は自分のバイクに歩み寄り、マシンガンを再び手に持つ。
 その行動に、太牙は疑問を抱いた。
 ……神であるならば、何故。彼は今更武器に頼るのだろうか、と。それも、自分達を倒すにはあまりにも頼りない武器を。
「啓太郎!」
「……来るな……」
 パン、と一発。
 「戦車」は彼らの足元に向けて、威嚇射撃を行う。
 それが余計に違和感を覚えさせてならない。そしてそれは、太牙だけでなく、蓮と始、そして良太郎とウラタロスにも感じ取れていた。
 ……彼は本気で自分達と戦うつもりなのだろうか、と。
 先程のギガノイドの攻撃もそうだ。彼はわざと……そりゃ、かなり無茶な運転はさせたが……外したのではないだろうか。
 それに……彼自身、一度もこちらには攻撃を仕掛けていない。ただ、受けた攻撃を障壁で防いでいただけだ。巧の……ファイズのクリムゾンスマッシュを受け、それでも灰化しないと言う事は、「神」と呼ぶべき存在である事は間違いない。だが、その力をこちらに向けるような事は一切なかった。
「啓太郎、お前……」
 巧にも伝わったのか、訝しげな声を上げる。
 目の前にいる存在が、いつもの「菊池啓太郎」にしか思えない。
 気が弱く、仲間想いで、そして人間とオルフェノクの分け隔てをしない啓太郎に。
「俺は、確かに止めて欲しいよ。世界を侵攻なんかしたくないし、正直ギガノイドだって手に余ってた。でも、止められないんだ! 僕の力を止められない! この世界を守りたいだけなのに、『始まりの地』にまで手を伸ばそうとしてる自分もいる!」
 泣きそうな声で、もう一発。
 本心からそう思っているのが、見て取れた。


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